シミュレーションⅡ

 教室に入るとクラスメイトであろう人達の視線が1点に集まった。

 少し驚きながら黒板に貼られていた座席表を見て座る席を確認する。

 場所は廊下側から2列目の一番後ろの席だった。


 背中の荷物を自分の机の上へ置き、ヘッドホンをしまうとスマホが小さいバイブレーションを起こした。

 画面を見るとそこにはアマテラスがいた。

 どうやら何か言いたそうにこちらを見ていた。

 鞄の中から1つの小さなシールのようなものを取り出し、右耳につけた。

 するとどこからか声が聞こえてきた。

「マスター、危なかったですね。私がいなければどうなっていたことか」

 それは紛れもなくアマテラスの声だった。

 問題なく機能することを確認した後、今度はこちらから声を出してみた。

「ああ、本当にその通りだ。ありがとな」

 そう言うと彼女は少し照れながらお辞儀をした。

 こちらの声も届いているようで少し安心した。


 このシールのようなものは学校のために開発したものでスマホの音をイヤホンのように聞くことが出来るものなのだ。

 正直アマテラスがいなければ上手く学校生活を送れるかも怪しいほどに対人関係が弱くなっている。

 だからこそ開発して良かったと今更になって思ってしまった。

 そして数十分アマテラスと会話していると続々と人が教室へ入ってきた。

 そして各々席へと座り、その人達がはけたと同時に先生と思わしき緑色の髪の人物が入り、教卓の前へ立った。

 そしてクラスの人が全員席に座ったことを確認して声を出した。

「それでは…新入生の皆さん入学おめでとうございます。これからこのクラスの担任を務める『村雨紫音むらさめしおん』と言います。1年間よろしくお願いします」

 挨拶と自己紹介をした後、今日の予定について話し始めた。

 あまりちゃんとは聞いていなかったがとりあえず何かあるということは分かった。

 そして村雨先生が『とりあえず休憩して大丈夫ですよ』と言うと教室は一斉に騒がしくなった。

         ◇

 入学式も無事終わり何事もなく下校の時間となった。

 学校の終わりを告げるチャイムがクラスに響く。

「それじゃあ明日も元気に登校してきて下さいね~」

 村雨の一言で一気に騒がしくなった。

 何もせずに帰宅する者もいれば、クラス内の交流を深めるためか挨拶し合う者もいた。

 さて自分はどちらに傾いたか。

 勿論……帰宅する者の一人だ。

 ただでさえ数十年ぶりの学校だと言うのにこんなにも騒がしくては困ったものだ。

 そうなれば早々に立ち去るのが安定だろう。

 だがそれを許さない者が一人、教室のドアを出てすぐの所にいた。

「何逃げようとしているの?この私を騙しておいてよくのうのうと帰れるわね」

 朝に会った金髪の少女が階段近くの踊り場にいた。

 流石に朝のことはすぐにばれただろう。

 と言うかまだ諦めていなかったのか。

 頭を抱えているとどこからか着信音がしてきた。

 今度は自分のスマホからだった。

「ちょっと待っててくれませんか?すぐに終わらせますので」

「ええ、いいわよ。ただし逃げることは許さないからね」

 殺気に近いものを直に感じる。

 アマテラスではないことは知っているが果たして誰か、そう思って出てみれば待たせてはいけない人からだった。

 早く済ませるべきと思い、すぐに通話に出る。

「もしもし…ああ、元気だ。えっ!今日来るのか!?う~ん…でも…分かった。ただ本当に少し待っててくれないか?すぐかけ直すから…それじゃ」

 まあまあ話し込んでしまったがそれよりも大事なのは今この状況をどう抜け出すかだ。

 朝のようにやり過ごすことは出来そうにない。

「た…助けて~!夏帆かほちゃん!」

 自分への助け船のように黒髪の少女が走ってくる。

「ど…どうしたんですか!?結凪ゆいな先輩、そんなに慌てて!」 

 何やら慌ただしい雰囲気のようだ。

 果たして何が起こっているのか。

 気になってしまったので少しばかり聞く耳を立ててしまった。

「実は…生徒会室のパソコンがね、よく分からないんだけど変なサイトが沢山開かれちゃって…!」

「閉じることは出来ないのですか!?」

「それが無理なんだよ~!」

 変なサイトで閉じることは不可。

 少なからずウイルスの類がパソコンに入ったのだろう。

 そう思いこっそり帰ろうとした。

 しかしそれは叶わなかった。

「大変ですマスター!この学校に爆弾が仕掛けられてあります!」

 アマテラスの騒々しい一言によって。

「何言ってるんだよ?そんなわけないだろ」

 するとアマテラスは自分のスマホを熱くさせるほどのデータを見せてきた。

「これが生徒会室のパソコンのメールボックスに入ってました!」

 それはアマテラスが訳したであろう暗号が書かれていた。

 暗号を読むと文書となっていた。

 そこには『この暗号を読めている奴がいるんだったらこの学校は終わったな』と。

「あっ…!ちょっと待ちなさいよ!」

 口よりも先に体が動いていた。

 今少女に構っている暇はない。

 急がなければ…!


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