1000%のその先へ
露乃琴音
シミュレーションⅠ
その日は天気もよく外でご飯を食べるにはとても良好と言えるほどだった。
そんな日であれば普通の人は出掛けたり、仲良く遊んだりするのが定番だろう。
だが自分は違う。そんなことをしている暇など一分もないのだ。
何せあと30秒でこの学校、そして自分の命が終わるからだ。
◇
4月3日、あの日からどれだけの時間が経ったのだろうか。
親がいなくなってから自作アプリ『つぶやいたー』をネット上で提供し始めてから、家から1歩も出ることなく生活出来ることを知ってから早何年経っただろうか。
『つぶやいたー』とは全世界1億人以上がインストールし利用している情報共有アプリのことだ。
そのアプリを興味本位で作ってから、ある会社と契約関係を結ぶまでに発展してしまった今現在、自分でお金を稼がなくても良くなってしまった。
そしてその結果が家から出ない、俗に言うニートに近いような形になっていた。
制服を身に纏い、階段を1歩1歩降りた先に待っていたのは、外からの光が差し込む玄関だった。
そこに置いてある靴を1足履き、深呼吸した後、玄関へ手をかける。
少し緊張しながらも扉を開けたその先には、昔と変わらない住宅街が今も尚そこに存在していた。
周りの目を気にしながらヘッドホンを装着し、足を近くの駅へと向け歩き始めた。
◇
相変わらず人が多い街中を音楽を聞きながら通るとどこからか声がした。
「マスター、私外の風景は初めてなので是非とも見せて貰えると嬉しいのですが…」
その声は間違いなくヘッドホンから聞こえた。
スマホを取り出し、画面を見るとそこには煌びやかな紫色の髪をした16歳位の少女がいた。
「分かったよ。ほらこれでどうだ?」
少女の望み通りスマホを街中へと向ける。
それを見た少女こと『アマテラス』はとても感動していた。
アマテラス、それはずっと家から出ない生活をしていた自分がコミュニケーションを求める為に作った自己思考型AIのことだ。
アマテラスはコンピューターやスマホの中を自由に移動することが出来るが、外に出ることは出来ない。
だからあれほど
調べるだけでは飽きたのだろうか。
「これほどまで美しいとは…この日本もまだ滅ぼさなくても良いみたいですね。」
アマテラスがやけに生々しいことを言う。
実際、今のコンピューター技術が発達した日本はAIと共存して生きていると言っても過言ではない。
そのため、6年前ある一人の天才ハッカーによって作られた日本のコンピューターを一括で管理するシステムである「マザーコンピューター」にウイルスが侵入しようものなら日本は終わりを迎える。
そしてアマテラスにはそのマザーコンピューターに侵入出来る権利がある。
だからこそそう言った発言が出来るのだろう。
まぁ故意ですることはないと思いたいが…
そんなことを考えつつ、足を進めていく。
するとアマテラスがビーッと警告音を耳元に流してくる。
鼓膜を破るほどではないが確実に耳にダメージは入っていた。
「マスター、こちらの道ではありませんよ。
1つ前の通りを左に曲がるのですよ」
慌てて道を戻る。
何せ何年かぶりに外に出たものだから付近の道すらも分からないのだ。
(アマテラス作って正解だったな…)
◇
街中を抜け、住宅街を少し通った所に1つの大きな建物がそびえ立っていた。
辺りには沢山の制服を着た男性女性がいた。
そしてその人達は吸い込まれるかのようにとある建物の中へと足を運ぶ。
その光景を見ながら自分も中へと足を進める。
そこは『私立朧月高校』と呼ばれるエリート達が集まる高校だった。
その高校に何故自分は足を踏み入れたのか、それはこの学校に入学するからだ。
そんな小説だったら一波乱起きそうだなと思っているとアマテラスが謎に苦笑した。
「何だよ。何かおかしいところでもあったのか?」
「いえ、ただここは日本の中でも5本指に入るほどの名門校ですから。まさかマスターがそんな学校に入学出来るのだと思うとwwすみませんw」
明らかに人を怒らせるような反応をしていたが、よくあることなので気にしないことにした。
人の流れに身を任せながら校舎に近付くと何やら人だかりが出来ていた。
少し背伸びして見るとそこにはクラスと個人名が書かれた紙が貼り出されていた。
何とか他の人の邪魔にならないよう探しているとそこにお目当ての名前が書かれていた。
『1-Ⅲ12 高宮 翔』
その名前とクラス再度確認した後、すぐに校舎へ向かった。
そして周りが騒がしい中、アマテラスがとある質問をしてきた。
「マスター、1つ聞きたいことがあるのですが…」
アマテラスが聞きたいこととは珍しい。
普段は自分の方が聞くことが多いのに何故だろうか。
「どうしたんだ?今は少し上機嫌だから何でも答えてやるぞ」
「では…何故偽名を使ったりしてこの高校に入学したのですか?」
その質問に内心驚いた。まさかそんな単純なこととは思いもしなかったからだ。
「んまぁ昔のあの名前を知っている人がいたら色々面倒だからだよ。一応言っておくがそれ以上でもそれ以下でもないからな。」
そう答えるとアマテラスは何かを考えた後、「なるほど」と言い、自己完結していた。
しかしアマテラスが今のような質問をしてくると、少なからず設計ミスはなかったようだと少し安心する。
そんな気持ちを抱きながら、校舎を進んだ。
◇
校舎を進み、目的のクラスがある2階までたどり着くと不意に肩を掴まれたような感覚があった。
気のせいだと思いそのまま進もうとすると、今度はちゃんと掴まれた感覚があった。
そして後ろを恐る恐る振り向くとそこには金色の髪をした少女がいた。
何故掴んだのか分からなかった為とりあえず質問をした。
「あの…手…どけてもらえませんか?」
するとすぐに答えが返ってきた。
「貴方、この学校の校則を知っているかしら?」
質問を質問で返す時は大体何かあると言うことだ。
だが身に覚えがないため思考が鈍った。
すると彼女は自分がつけていたヘッドホンを取り、自分に見せてきた。
すぐにヘッドホンを取り返そうとしたが、彼女は返す気配を見せなかった。
そして呆れたように彼女は一言放った。
「この学校内ではヘッドホン及びイヤホンの着用は校則によって禁止されているわ。それなのに貴方はつけていると言うことは概ね罰せられる覚悟があるということでいいのね?」
校則と言う聞き慣れない単語を気にしつつも彼女の謎の圧に圧倒させられてしまう。
どうしたものかと悩んでいる時、アマテラスがこちらを見ていることに気付いた。
そしてアマテラスが呆れたながら人差し指を立てると画面の電源が落ちた。
そして数秒後、彼女の携帯がバイブレーションしているのが分かった。
「ち…ちょっとそこで待っていなさい…」
彼女は慌てて携帯を取り出すと、こちらにヘッドホンを押し付けどこかに走っていった。
そんなことを気にせず、目的の教室へ入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます