始まり
プシューという音が鳴るとともにガタンと扉の開いたような音も鳴る。また目が開けられるのではないかと思って試みる。できた。目の前には四角く切り取られた薄黒い天井があった。手を動かしてあちこち触ってみると私はどうやら棺桶のようなものの中にいるらしい。
体を起こしてみる。一体さっきの空間は何だったんだ?特にあの最後の文、妙に既視感がある。が、今の状況からして考えるべきことでもなさそうなのも確かだ。
そこであたりを見回すとそこは暗かったものの、青や黄色に光るランプのようなものがたくさんあった。それらは私を囲む大小さまざまな四角い筐体から発せられるものらしく、ここが部屋であること、幾十ものケーブル類が床を這っていることを分からせる。
なんとも物々しい雰囲気だ。次に体に目を下すと服は着ておらず、先の空間の若々しさのままケーブルが繋がれていた。
外していいのだろうか。よく映画やアニメなどの創作物では重症の後に病院で目を覚ました主人公は気を動転させながらも繋がれている機器類を外している。そしてその後はふらふらとしながらも歩いていく。しかし、フィクションである。下手に外してまたおっちぬのも嫌だ。
腕を組みながらうんうん唸っていると突然光が差し込んできた。急のまぶしさで目を細める。前には扉があったようだ。機器のランプが照らす範囲ではわからなかった。光の先には人影のようなものが見えた。そして突然両手を高く広げ
「おはよう!ようこそ!第二ステージへ!」
と声高に言った。そして大仰なステップでもって近づいてきて私の前で止まる。
「やぁやぁ。君はサクライ ジュン君だね?」
「……そうだが」
眉を寄せつつ警戒心丸出しで答える。
「そんなに警戒しないで。僕は案内人のポートさ」
「案内?なんのだ?」
ポートと名乗った男は右手の人差し指をフリフリさせながら
「さっき言ったろ、第二ステージって。僕はこのステージにおける案内をするってことさ」
まったく状況が飲み込めない。第二ステージって何だ。それが知りたいんだ。ああ、こいつが説明するのか。なるほど分かった。だがなぜ私の名前を知っているんだ?やはり信用はできない。警戒は解かないままのほうが良さそうだ。
そうこう考えている間、この男も不安になってきたのか首を傾けながら頭をかいていた。依然として逆光でその顔はわからないが気まずそうにしているのは何となく伝わってくる。そして私の沈黙に耐えかねたようで
「あれ。君はゲームが好きだったって情報を見たんだけどな。こういう演出は嫌いだったかい?幸福な死を遂げた主人公ッ、だが目を覚ますとまったくの異様な光景が広がりそして謎の人物が現れ――」
「いや、そういうのはいい。うるさい」
なんぞ早口で語りだし、興味もなかったので話を切る。すると「そ、そう」と肩を落としてしょんぼりしていた。
「待てよ。なぜ私がゲームを好きなことも知っているんだ」
これに対してこの男はよくぞ聞いてくれましたと胸を張りだし、左手を振り上げる。目の前に画像が浮かび上がる。そこには私の最終的な年齢及びこの体のであろう身長・体重の他、経歴や趣味、好きな食べ物に至るまで私のパーソナル情報が記されていた。私の名前もここから知ったらしい。加えてあの文がこのためのものだったことも推測される。きっとそうだ。血の気が引く感覚を覚える。体を震わせながら「なにが目的だ」とこの男に聞くと、この男はやれやれといった感じで
「やだな。目的なんかないさ。案内人としてこの世界に新しく死んでやってきた人が取り乱さないように親しみをもって接するための、ただの道具だよ。君に危害を加えるつもりなんかない。もしその気なら君はそもそも目覚めてない。……あと一応、一度信頼させてから殺すのが好きとかそういう
と答えた。嘘は言ってなさそうだ。もうここでグダグダしてても埒が明かなかろう。切り替え、ずっと気になっていた質問をする。
「なあ、この体のケーブルは外していいのか?動きたいんだが」
「ああ、そうだったね」とこの男はケーブルを外していく。すべて取り終わると「これでよし」と指さし確認をした。私が良かったと安堵していると、この男は何かを思い出したように両手をたたき合わせパタパタと部屋の外に出ていった。ほどなくして浴衣を想起させる服とスニーカーを持ってまた入ってくる。私は棺桶のようなものから出、それらを受け取って身に着ける。さらっとしていて着心地がよい。
ようやく一安心を得て、出口である光の差してくるほうへ向かう。ポートと名乗った男が先を行こうとしたが、気づけば私は彼を追い抜いていた。ここからまた始まる、私の新しい冒険が。まだ見ぬ新世界に胸を躍らせていた。
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