第7話 手紙


『拝啓 この手紙を読まれた方へ

 私はもう少しで死ぬかもしれません。別に誰かに命を狙われているとかではありません。

 何か病気にかかっているわけではないとは思いたいのですが、最近、体に謎の違和感を感じます。それが何かは分かりません。

ただ、私自身の直感でもう少しで死ぬのかもしれないと感じたので、手紙にメッセージを残させていただきます。

2ヶ月近く前に、突然、スマホに『毎日100万円貰える懸賞の当選者』になったみたいな内容のメールが届きました。

最初は半信半疑でしたが、私の夢を叶える為に、このメールを信じてみました。

そしたら、本当に100万円が私の口座に毎日振り込まれました。

びっくりしました。

この毎日振り込まれた100万円には手を付けないで、私の口座に取ってあります。今日で、2ヶ月近く経つから6千万円ぐらい貯まっているのかな。

もし、普通の日常生活を送っていたら、私の力では、こんな大金は手に入れる事は出来なかったと思います。

だから、私は、この大金を私の夢の為に使いたいと思います。

私は、昔、親に捨てられて、大好きなお兄ちゃんと一緒に施設に入れられて育ちました。

施設で周りの人達にいじめられました。

辛かったです。

もし、パパとママがいれば、こんな事にならなかったのかなって考える時がありました。

だけど、私は、頑張れました。

だって、大好きなお兄ちゃんが私を守ってくれてたから。

私の夢は、私達、兄妹みたいな辛い境遇の人達を救いたい。

だから、この積み立てたお金は、もし、私がこの世からいなくなったら、この手紙を読んだ方が施設に寄付してもらうようにお願いしたいです。

きっと、この大金があれば、施設もちょっと裕福になれるのかな?そしたら、私達みたいな境遇の子供達も少し救われるのかな?

そんな希望を抱いてます。

どうか、よろしくお願い致します。


カタオカ マイより』


妹の手紙にはこう書かれていた。

リョウは、手紙を読み終えて、涙が止まらなくなっていた。

上司に啖呵を切って、警視庁を去った後に、手がかりを探す為に、亡き妹の家に行った。

部屋は質素な雰囲気だった。

ぽつんと置かれた木の小さなショーケースの引き出しに、封筒に入ったこの手紙と妹の通帳口座があるのを見つけた。


溢れ出す涙で、シャツを濡らし、亡き妹の手紙をクシャクシャにしながら、膝から崩れ落ちた。


「マイ…守ってやれなくてごめん…」


リョウは、今は亡き天国にいる妹に謝罪をした。


妹の意思を引き継ぎ、妹の預金口座に入っていた6100万円を施設に匿名で寄付した。


「絶対に…許さない…マイを殺した犯人を…殺してやる…!!」


リョウの顔は、犯人に対する憎しみから鬼の形相となっていた。


      ***


『毎日100万円当選者怪死』事件発生から1ヶ月が経った。

リョウは、『警視庁サイバー課刑事襲撃事件』の容疑者として全国指名手配されていた。


リョウは、黒い帽子を目線が見えない程度に深々と被り、黒いジャケット、黒いスゥエットを履き、鬼のような目つきを内心に隠し込んだ姿、短くも長く感じた逃亡生活の果てにたどり着く。


リョウは、気迫迫る表情で3皆建てコンクリート材質の廃ビルの前に立っていた。


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