082-無一文
昼前に目が覚めてからはゆっくりと休み、久しぶりに我が家の料理を堪能した。勿論アリッサも一緒だったのだが前世も今も中流家庭だった彼女には少々居心地が悪かったみたいで、食事を終えて私の部屋に戻ると「なんだか緊張した～」と言ってソファーでデロデロになっていた。
「失礼いたしますお嬢様」
ノックに返事をして使用人を迎え入れるとアリッサは急にシャキッと姿勢を正した。
「ガオゴウレン様よりクロービへの出発は2日後の早朝を予定しているので準備の方をよろしくと承りました。」
「そうですかわかりました。では私は明日、街へ出ますのでよろしくおねがいします」
「かしこまりました」
使用人が退出すると同時にアリッサがまたデロデロの状態に戻った。
「明後日か～早いね」
「こちらの都合で出発ギリギリで止めてしまった上に私が寝込んでいる間待ってもらっているからだいぶ配慮してもらっているわよ」
「それもそうだね～準備に一日もらえただけでもだいぶ配慮してもらってるのね」
「明日買い出しに行って早めに寝て船旅に備えましょ」
「そうね～買い物か～忙しすぎて初任給を仕送り以外で使えてないからたのしみだわ～」
アリッサと買い出しや準備や、にクロービが日本っぽいのかどうなのかなどの他愛も無い話をしながら、二人が眠れるほど広い私のベッドで一緒に眠った。
翌朝、私は定宿にしていた[うさぎ亭]へ行き長期間国を離れることを伝えた。女将さんとペトラちゃんは「また寂しくなるねー、でも急に居なくなら無くてよかった。帰ってきたらまたよろしくね」と送り出してくれた。
アリッサは実家へと帰り仕事をやめた事、国外へ行くことを両親に伝え若干の反対もあったが魔術師団の実情を聞かされたためクロービに行くことが了承された。
それぞれの要件を終えた私達は現在自称冒険者であるアリッサを正式に冒険者として登録するため冒険者ギルドにやってきた。
「皆様お久しぶりですわ」
「おー久しぶりだな」
筋肉隆々のスキンヘッドの男は私がギルドに登録するときに腕相撲をした男で、剣が折れて泣いている私を慰めてくれたりお金がないときに安宿を教えてくれた見た目とは違いとても紳士な人だ。
「今日はクエストか？」
「いえ今日は新しい仲間のギルド登録に来ました」
「はじめまして～アリッサですよろしくね～」
挨拶したアリッサに視線を移すと目を細めてじーっと見つめた。
「あれ？あんた！大工のエトワンスのとこのお嬢ちゃんじゃないのか？」
「私のこと知ってるの？」
「知ってるも何も平民から学園に入って成績優秀で卒業して魔術師団に入ってさらに一月で隊長までのし上がった下町の英雄じゃねーかよ！ここらで知らないやつなんか居ないよ！」
下町の英雄？アリッサもだいぶ面白いことになってますね！
「え～そんな事になってたんだ……」
「ん？でもさっきギルド登録するっていって無かったか？」
「そうなんです。魔術師団があまりに居心地悪くて……」
しおらしくするアリッサ……。
あなた休みくれないから辞めたって言ってたじゃない……。
「あの組織は糞だ……」
急に会話に割り込んできたのは聞いたことない男の声だ。声の出処を探るといつもカウンターに座って一人で飲んでいるフードマントの男だった。
(私初めてあの人の声聞いたわ！)
(ああ、俺もだ3年以上見かけるが初めて声を聞いたぜ……)
(え？そんな人に私絡まれるんですか！？助けてマルレ！)
「俺も若い頃は魔術師団にいた……早めにやめて正解だ」
魔術師団を目指していた学生たちを知っているので私は思わず聞いた。
「そんな酷いところなんですか？」
「ああ、特にガパオロ・トラディネントには注意しろ」
驚いたアリッサは大きな声を出した。
「うぇ！？師団長だよそいつ……」
「なんだと!?それは最悪なことになってるな」
お父様が国外に避難しろって言った理由がわかってしまったわ……。
敵に”人間”が含まれるからなのね……つまりは戦争になる可能性がある……。
知らなければよかったことを知ってしまった。そんな落ち込んだ気分を抱えたままアリッサのギルド登録を上の空で終わらせて町へと買い物に出た。
アリッサも国外へ避難しろという意味が何となくわかってしまったようで気が沈んでいるようだ。
「もう！悩んでも何も変わりませんわ！気持ちを切り替えてお買い物よ！」
「そうだね～切り替えていこう！」
さてと……生活用品は家にあるのを持っていくとして、後は暇つぶしに魔道具作成関連の材料なんかも持っていきたいわね、それと……できればまた剣がほしいわ！ええと予算は……。
財布を開いて絶望した……。
「アリッサ大変だわ……」
「どうしたのマルレ？」
「私……無一文だわ！」
「へ？」
「仕方がないのよ！いろいろ立て込んでてぎりぎりしか稼いでなかったのよ！」
「えー？もうしょうが無いな～お金貸してあげるよ、あとでちゃんと返してね」
「ありがとうございます。神様！仏様！治癒姫様！」
「……貸すのやめようかな」
「ヒェ！じょ冗談です！すいません！」
無事にお金を借りれた私は魔道具関連の素材を仕入れてお金を使い果たした。剣も欲しかったがこれ以上借りてはアリッサの準備にまで影響が出てしまうので仕方がなく諦めて買い物を終えた。
買い物を終えた私達は、そのまま重症を負ったラーバルを訪ねてバルトレイス家の屋敷へと向かった。しかし、ラーバルはすでに騎士団に復帰していたので不在でした。
門番さんにラーバルは騎士訓練場に居ると教えてもらったので、通いなれた騎士訓練場へと移動した。
「ラーバルがもう復帰してるなんて意外でしたわ」
「私が治療してから2日も経ってるからね？ 身体強化もちの回復力を甘く見ちゃいけないよ」
そう言われたらそうですね、防魔軍の腕が取れた人も治療後は歩いて街まで帰ってましたものね。
顔パスで訓練所に入ると、騎士団の新人さんたちの声とラーバルの怒号が聞こえてくる。
「立て！貴様ら！その腑抜けた根性を叩き直してやる！剣を担いで修練場100週！今すぐ始めろ！」
ふふ、また初対面の新人さんたちを叩きのめしたのね。
ラーバルが私達に気がついたので、手を振ると「そのまま周回を続けていろ」と命令を出して、こちらへやってくる。
「マルレにアリッサ……良かったわ、ふたり共敵の魔法で寝込んでいると聞いたものですから」
「あら？そうでしたの？私は、ラーバルのほうが心配でしたよ？」
「……そうですか、私の方は一晩寝て少し多めに食事をしたらすぐに回復しましたよ」
「ほら！私の治療は完璧よ！」
どうやら、私達のほうが、重症扱いだったみたいですね。それよりも本題に入らないといけませんね。
「そうそう、私達明日からクロービへ行くのです」
「ああ、父上から聞いている。ザロット卿がマルレを国外に出したがっていると」
すでにラーバルは知っていたようでした。
「それに関連して私達騎士団は、いろいろと準備を進めている」
「そうでしたか……」
ラーバルの険しくなった目つきから、なんとしても国を守るという決意が読み取れた。
傷が問題ないのでしたらクロービに誘おうと思ってたのですが……やっぱりラーバルは戦争になるかもしれないので、国を離れられないようですね。冒険者をしている私や仕事をやめてしまったアリッサのように、好き勝手をするのは無理ですね。
ラーバルに無理をしないようにと伝えると私達は、すぐに家へと戻った。
私は、戦争になるかもしれないという不安を押し込める。クロービから帰ってくればお父様とお兄様や騎士団、それに王族がうまく対処して全部終わってるはず！と強く思い直しクロービへ旅立つ準備に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます