080-ザロット 三家会議
私はザロット・ドレストレイル、ナウエルス大陸の北東部の半島にあるレイグランド王国の候爵だ。
私の家系はレイクランド王国を立ち上げた始まりの三家のうちの一つだ。
この国は影のトレイル、豊穣のレイト、守りのレイスこの3人が率いた勢力が周辺の勢力に対抗するために同盟を組むことから始まった。
三勢力はそれぞれドレストレイル候爵、セイントレイト王族、バルトレイス公爵と名を改め、セイントレイトは必ず遺伝する光土水属性で治水、建築、農耕をバルトレイスは騎士団を率いて防衛と治安維持を、そして我がドレストレイル家は[トレイル]という裏組織を運営し情報収集、裏工作、暗殺……国内外問わず裏の世界で生きている。
その役割もあって我が家は表立って動くことはないゆえ国の動向を決定する[
そんな会議をすると通達が来た。
「マルレの意識が戻らないというのに呼び出しとはいい度胸だ……」
娘のマルレが潜心術にかかって意識を失ってから一夜明けた……。マルレの心の中へと入ったアリッサ嬢と共にマルレの部屋のベッドに寝かされている。私はマルレの目がさめるのを一晩中ずっと待っていた。今は会議などしている場合ではないのだ。
「あなたが居ても何も出来ないのですからお仕事してください」
妻のレナータはしっかり睡眠を取り今はお茶を飲みながら読書をしている。昔から何事にも動じない女性だが娘の危機ですらどっしりと構えられると、まるで私が小物のように感じてしまう……。
「しかしだな……」
「大丈夫ですよ、もう清潔の祝福を持った魂は開放されてますから」
そういって微笑む……まさか心の中が見えているのか?
「見えていますよ、私がつないでいるのですから」
「なに!?そういう事は先に言ってくれ!」
「言っても私達は何も出来ないのですから言う必要はないと思いまして。そんなことよりおとなしく仕事に行ってきてください」
たしかに何も出来ないが途中経過ぐらい知りたいのが心情というものだろ?それにマルレが目覚めたときにそばに居なかったら薄情な親と思われてしまうかもしれないのだ。
「しかしだな……目が冷めたときにそばに居なかっ……」
レナータは私の言葉を遮り早口で捲し立てた。
「心の中は時間の進みが遅いのですからまだ時間はかかります!ですからあなたにしか出来ない仕事を今のうちに終わらせてください!引き伸ばせば目覚める時間と仕事がぶつかってしまいますよ!」
これは不味い……レナータが早口になるのはイライラいしている証拠だ、おとなしく言うことを聞いておいたほうが良いな。
「わかった、会議には出席する。本当に目覚めるのはまだ先なのだな?」
「ええ、早くても明日の昼前ぐらいでしょうね」
「そうか……では留守を頼む」
「いってらっしゃいませ」
後ろ髪を引かれる思いで屋敷を出て城へと向かう。城に近づけば近づくほどイライラが募り会議場である城の地下の隠し部屋に到着した頃にはすっかり機嫌が悪くなっていた。
「お前たち……娘の意識が戻らないのは知っているだろ?」
私は入室してすぐにたっぷりと殺気をのせて威圧した。
「落ち着け!ワシたちの娘に手を出した奴らについての会議じゃ!」
イージウス・バルトレイス……筋肉隆々で短髪緑髪で優しい緑の瞳をした白い鎧姿の男はいつものヘラヘラした笑顔をやめて鋭い鷹の目付きになっている。始まりの三家のうちの一つで騎士団を運営しているバルトレイス家の当主だ。
「対策を話し合うべきだろザロット?」
デルバート・セイントレイト……青い長髪に透き通るような青い瞳、万人が美しいと思うような顔立ちに赤いマント……。まるで絵本から飛び出してきたような人物……いやあの絵本はこいつがモデルか。始まりの三家のうちの一つセイントレイト家の当主つまりは国王だ。
「検討はついている。お前らの先祖の
王都の
二代目の王である長男だという理由だけで王になったアウゲル・セイントレイトが横暴極まりない上に無能な人物だったのだ。それに仕えたのはスルーベル・バルトレイスこちらも長男というだけで騎士団を任されていた無能だ。
国のトップと騎士団のトップが揃って無能になり国はすぐに傾いた。我がドレストレイル家は初代様の「もうダメっぽいから他いかね?」との言葉を受けて国を捨てる準備をしているときだった。
城に出向いていた初代様の娘であるロズヴァ・ドレストレイル様がアウゲルに手篭めにされそうになったのだ。追い詰められた彼女は命と引き換えにドレストレイル家に不浄なものを寄せ付けない清潔の祝福をかけて亡くなったのだ。
初代様は怒り狂いその日のうちにアウゲルとスルーベルを討ち取った……。赤い霧をまとい護衛を蹴散らしながら無傷で堂々とまっすぐ歩いて来る姿はセイントレイト家とバルトレイス家に恐怖を刻みつけたらしい。
バカ二人が始末された後この二人の直系の先祖であるそれぞれの家の次男が引き継ぎ国は持ち直したらしい。そしてそのバカ二人アウゲルとスルーベルは悪霊となり今でも王都の何処かに潜伏しているというわけだ。
「どうやら魔術師団の連中が手を引いている可能性が浮上したのじゃ」
イージウスも娘のラーバルを害されていたのだったな……。怒りと悔しさが溢れている。
「そこで[トレイル]の出番なのだが魔術師団を突いて
デルバートは相変わらず落ち着き払っている。息子しかいないこいつには娘が居る私達の気持ちはわからないのかもしれぬな。
「めんどくさい貴族をどんどん魔術師団に放り込むからこういう事になるのだよ……」
「そうだぞワシらの娘が害されたのはお前のせいでもあるのじゃぞ?」
「何をいうか!今回の敵はスルーベルの槍術を使っていたのだからバルトレイスの問題だろう!」
「何じゃと!?それを言うなら黒幕はセイントレイト家じゃろう!」
また始まったか……この二人昔からちっとも変わらんな……。
「うるさい!マルレが関わる問題なのだ真面目にやれ!滅ぼすぞ!」
「あーでたでた![滅ぼすぞ!] レナータのときは聖魔一体の事を呪術師とよばないように国中に周知しないと滅ぼすぞ!ヴィクトルのときは闇術が悪しき術だとの認識を変えないと滅ぼすぞ!どんだけ過保護なんだよまったく」
家族を害されるならあたり前のことだろう何を言っているのだデルバートは……。
「まてまて喧嘩している場合ではないじゃろ」
「ふぅ……そうだな、それで[トレイル]は動いてくれるのか?」
「そのつもりだ先祖達が先送りにしてきた問題を我々の代で片付けてやろうではないか」
「そうだな、王家も戦闘に向けて準備しておく」
「騎士団と近衛も協力するぞ」
私の家族に牙をむいたのだ
「なら決まりだな、それで一つ頼みがある」
「何だ言ってみろ」
「片がつくまでマルレを国外に避難させておきたい……」
私の要求はすんなり通った。これで心置きなく[トレイル]は暴れられる……。
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