078-アリッサ 小さな親友と転生者
「思い出したかな?」
黒髪で白地に金の刺繍のローブ姿の神の使いと名乗った彼女はニコリと微笑んだ。
「うん……思い出した」
私は日本で死んでからこの世界に来るまでのことをハッキリと思い出した。
私は列車事故に巻き込まれて死んだ。
いつもと変わらぬ朝の風景……寝坊したお姉ちゃんを置いて先に電車で登校している最中にそれは起こった。
私の乗った電車と遮断器がおりた踏切に無理やり侵入した自動車が衝突した。
あっ!と思ったときにはもう神の使いと名乗る女性が目の前に居て眼下には脱線した列車の残骸が見えた。
「あなたは不幸にも死んでしまいました。しかしもう一度、別の世界で生を受けるチャンスをさしあげます」
詳しく話を聞くと彼女の世界では歴史の流れに重要な人物にもかかわらず魂がなく生まれて、なおかつ地球の魂しか適合しない人物が出てしまうらしい。私はその時はそんなこともあるんだと思って疑問もなく受け入れたが、この世界がゲームに酷似した世界なのを知ったことで、主人公と呼ばれる選択肢を出すぐらいしか人格が設定されていない人物に魂が入らないのではないかと納得できた。
そしてこの世界に転生する前に唯一の肉親である、お姉ちゃんに挨拶して行きたいとわがままを聞いてもらった。
神の使いに連れられてお姉ちゃんのところに行くと、事故で電車が止まっているにもかかわらず、車内でぐっすり寝ていて少し笑っちゃった。
魂だけ起こしてもらい私は死んでしまって他の世界で生まれ変わるとお姉ちゃんに告げた。いやだ!いやだ!と泣き叫ぶお姉ちゃんに死んでしまったものは仕方がないと別れを告げてこの世界に来たのだった。
「聞いてもいいかな?今まで記憶がなかったのはなんでなの?」
「神の使いと会ったなんて口走ってひどい目に会った人がいっぱいいるからね記憶は消してあるんだ」
たしかにそうだ、この国はさほど宗教熱が高くないが他の国によっては祭り上げられたり異端だ!と糾弾されてひどい目に会ったりしそうだ。
「じゃあ、前世の記憶が大きくなってから戻ったのは?」
「言葉と生活様式をすんなりと受け入れられるようにというのが大きな理由ですが、暇に耐えきれず赤ん坊のまま動き回って死亡するケースも有りましたので……」
確かに危険だね……私も同じ立場だったら無理して動き回っていたと思うよ。
「じゃ最後の質問……なんであなたはマルレの中にいるの?」
私は最大の疑問をぶつけた。場合によっては彼女は敵かもしれないと身構える。
「それは全員揃ってから話します。」
「なにか話せないわけでも?」
「いえ3度も話すのが面倒だからですそれに被害者の私の言い分だけ聞くのも良くないでしょう?」
「被害者?」
「そうですよ、でもあれは事故みたいなものですがね……」
何故かこの話題には触れてはいけないと私の中の何かが警告をしている……。そんな事よりマルレを助けるほうが先だ。
「マルレ達?はどこにいるかわかります?」
「ええ、あの大樹の根本に鍵のかかった扉があります。きっとあなたなら入れてくれるでしょう」
大樹の根本には大きな両開きの鉄の扉があった。その扉のリンク状のドアノブに手をかけて思い切り引くとすんなりと開くことができた。そこに現れたのは下へと続く階段だった。
「行きましょう」
神の使いの言葉に頷き階段を降りていくとそこは小さな部屋になっていた。壁は真っ白で証明もないのにとても明るくて、部屋の中心にはベッドがぽつんとあり奥には下り階段が見えた。
部屋の中心にあるベッドに、眠っている小さなマルレがいた。髪は縦ロールではなく艷やかなストレートで白いワンピース姿だった。
「手を繋いであげて、そうすれば、あなたの魔力で流魔血の侵食から守ることが出来ます」
「わかりました」
私は神の使いに誘導されて小さな親友の手をそっと握る。
魔法を使ったときのような魔力を消費するような感覚と似た感触があった。
マルレの体に魔力が満ちる。閉じていた目はゆっくりと開き私の顔を確認すると、マルレは勢いよく体を起こし私に抱きついてきた。
「ありがとうアリッサ!動けるようになったわ」
「良かったマルレ!」
まずは一安心……マルレの片方を無事に見つけた。
「アリッサ!急ぎましょう!私の半分が危ないの!」
そう言うと私の手を引き階段をどんどん下りていく。階段を下りきるとそこは真っ白いトンネルのようなところだった。
トンネルの途中には小さな窓があり、その先には小さなマルレが家族と食事している風景や庭でお茶お飲んでいる風景が見えた。これはきっとマルレの記憶なんだろうなと思った。
暫く走るとトンネルが黒くなっているところが見えた。するとマルレは「えっとね……少しのあいだ目をつぶっててほしいの……」と頼んできたので、ギュッと目をつぶり握った手を頼りにマルレに誘導を任せた。
声が聞こえる……。
「ねぇ?お返事聞かせて……」
「え?無理でしょ」
マルレとファーダくんの声だ……私は壁が黒い理由と目をつぶらせた理由を察した。
「もう!あのバカ!なんでここだけ音付きなのよ!アリッサにバレバレじゃない!もう良いわよアリッサ」
「あ……うん……わかった」
うわぁーとっても気まずい……。
何事もなかったように黒い壁の中をどんどんと先に進むと、今度は壁が赤くなり窓が一気に増えた。
「ここからは前世の記憶が戻ったところね……もうすぐ私の半分のいるところに着くわ」
窓からは森で訓練するマルレや学園での風景などの窓がどんどんと通り過ぎていく。
「着いたわ……ここに私のもう半分がいる家があるのよ」
大樹の根本にはあったのと同じような大きな両開きの鉄の扉があった。その扉のリンク状のドアノブを私とマルレで片方ずつ手をかけて思い切り引いた。
扉が開いた先は広いのか狭いのかよくわからない真っ白な空間でその中心には前世でよく見た現代日本様式の家があった。
「あそこに私の半分がいるの」
私は思わず走り出した!玄関にある表札をじっくりと見る。
Asihara Tomoka
Asihara Haruka
「ねぇ……マルレ……なんで私の家がここにあるの?」
マルレは驚いた顔をして言葉が出ないようで口をパクパクと動かしている。その様子を見て今まで黙って付いてきていただけの神の使いが口を開いた。
「さてどうしてあなたの家がここに在るのかは、中にいる転生者に聞いてみたらいいんじゃない?アシハラ・ハルカさん」
「やっぱりそうなんだ!アリッサ!早く行ってあげて!」
マルレが満面の笑顔で急かしてくる。
私の家にいる……もうひとりの転生者……。
私は急いで玄関を開け見慣れた家の中をちらっと見ると家具も小物も私がよく知っている物だ!
急いで階段を駆け上る。
いるとしたら絶対にあそこだ……2階のお姉ちゃんの部屋……。
私はノックもせず勢いよくドアを開けた!
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