077-アリッサ 心の世界

「ふふっ びっくりした?私は魂と魔力変換器官を見たり、いじったりできるのよ」


 マルレのお母さんであるレナータ様はさらっととんでもないことを言った。


 魔力変換器官は頭の中にあり、心臓付近にある魂から作られる魔力を各属性に変換して放出したり、身体強化などの特性として体内に戻す機能がある場所だ。それはノチド先生が持っているモノクルのような特殊な魔道具がなければ見ることも出来ない。


 その割合によって得意な属性に偏りがあったり、全く使えなかったりする。私の場合は光だけなので全魔力を光に変換するのみで。第二王子のアークは光土水の属性が均等にあるので各属性を三分の一ずつ使える。マルレの場合には流魔血で8割清潔の祝福で1割髪型固定の祝福(マルレは呪と言っていた)だけなため属性がなく魔法が使えなかった。


 そしてマルレが言っていて私が本気にしていなかった「この髪型固定の祝福いえ呪いというべきね……これはお母様にやられたの」と言ってた事が本当だとするとレナータ様は驚くべき能力を持っていることになる。


 例えば髪型固定のような特に役立たない祝福で器官を埋めてしまえば魔法をほとんど使えなくするなどと恐ろしいことが出来てしまう……。


 もしかしたらマルレが魔法を使えないのは……。


「あら~マルレが魔法を使えないのは元々よ私が可愛いいマルレちゃんにそんなひどいことしないよ」


 まるで考えを読まれたかのように牽制されてしまった。


「では髪型固定の祝福は……」


 私が質問し切る前にかぶせるように質問に答えた。


「あのままだと魂の魔力が多すぎでねー。流魔血に行く魔力が増えすぎて制御が効かなくなって常に全開状態になってしまうのよね!コップや食器やドアノブがいくらあっても足りなくなっちゃうわ」


 そう言ってふふふと笑っていた。その様子にぽかんとしているとそのまま説明を続け始めた。


「それでね別世界の魂は非常に魔力値が高いし少し色が違って見えるの普通の5倍ぐらいね、でもあなたは5倍まではいかないから肉体は滅んで魂だけでこの世界に来たと思うんだけどあってるかしら?」


 まさにそのとおりだった。私は前世で列車事故に巻き込まれて命を落としてた事はしっかりと覚えていた。


「はい……おっしゃるとおりです」

「やっぱりそうね、それでマルレの事なんだけど……」


 どうやら本題に入るらしい。マルレは転生者だということはわかっているが、それ以外の事はまるでわからない。


「本来のマルレは魂の力が弱くて流魔血に意識を潰されて人形のように何にも興味を示さない人間になってしまう運命だったの」


 ゆっくりレナータ様が話し始めた内容は悲しいものだった。


 マルレは生まれてすぐ流魔血を持っていることがわかったが魂の力が弱く、すでに意識が侵食され始めていたらしい。それを防ぐために魂の残滓を集めて魂の強化する儀式をしたらしい。


 しかし運悪くというか良くと言ったら良いのかわからないが、転生者の魂がフラフラと現れてマルレの魂と結びつく事故が起こってしまったらしい。


「マルレは昔からトラブルメーカーだったんですね……」


 私が呆れのあまり漏らした言葉に微笑みながらレナータ様は話を続けた。


 その転生者の魂は5倍どころではなく計り知れないほど大きくそして見たことない色まで混じっていたそうで、想定外の強さになってしまったらしい。


 魂の器の大きさ以外に問題は見られずスクスクと育ち意識もしっかり成長していたらしいです。


 そして次に問題が発生したのが10歳の誕生日の少し前に融合した転生者の魂が魔力の生産を始めたときだった。あまりに多い魔力に流魔血と清潔の祝福が制御不能になり物を壊したり消し去ったりと問題が起こり始めたようです。


 焦ったレナータ様は髪型固定の祝福を差し込むことによって制御することに成功したのだけど、縦ロール姿に反応して転生者の記憶が覚醒してしまったようです。


 それからの行動は私も知っているとおり冒険者を目指し始めたということでした。


「それで今のマルレちゃんの状況なんだけどね……」


 そして現在のマルレの状態についての話に移る。


 本来マルレには潜心術による攻撃は、清潔の祝福があるので効かないはずだ。しかし本来のマルレの魂を守るのが精一杯で転生者の魂まで守れなくて、魂が再び別れてしまったようです。


 そうなると問題が発生しました。マルレの魂が流魔血に耐えられず侵食され始め、転生者の魂は捕らえられ両方共に表に出てくることができなくなっているとのことでした。


「それでねアリッサちゃんには2人を助けに行ってほしいの」


 助けに行く?どこへ?


「マルレの心の世界にね……」


 心の世界……。


「きっと私達じゃ入れてもらえないと思うのよ……入れてもらえるとしたらあなたしかいないのよ!」


 君なら入れてもらえるかもしれない……。ザロット卿とヴィクトル様が言ってたことはこういうことだったのね!


 転生の事情を知っていて心を許せる人……。たしかに私が適任かもしれない。


「わかりました!私にやらせてください!必ずマルレを助けて見せます!」


 目の前で防御壁をすり抜けられてマルレに攻撃を許してしまった失敗を取り戻すチャンスだ。


「良かったわ それじゃあよろしくね!」


 そう言うとレナータ様は左腕を勢いよく突き出し私の心臓辺りに腕を差し込みニコっと笑った。


 意識が遠くなる……


 落ちる……落ちる……


 足元が明るくなる……


 そのまま光の中へ落ちていった……。


「ああああああ!って死んでなかった!良かった~」


 もうびっくりした……殺されたかと思った!なにか掛け声とか最終確認とかもう……。


 いや、もう過ぎたことはいいか……。


 あたりを見回すとそこは真っ白な空間で中心には大樹が一本生えていた。大樹には拳より小さいものから人ぐらいあるほどの大きな果実があちこちにいくつもなっていた。その果実には私もよく見知った顔が書かれている。


 マルレの家族やラーバルにアーク、ガオゴウレンさんのもある。その中でもひときわ大きいのが私とファーダくんの果実だった。


「なんだろあれ?」


 返事を期待していなかった質問に答えが帰ってきた。


「それは幸せの果実よ、簡単に言ったらいい思い出ってところね」


 驚いて振り返るとそこには誰だかわからないけど、絶対に会ったことのある顔があった。


 長い黒髪はポニーテールにくくられていて、キリッとした顔立ちは荘厳さを感じさせる。その服装は白地に金の刺繍のローブだった。


 私の着ているローブと似ている……。このローブは戦いの女神と呼ばれている神様の服が元になっていると聞いたことがあった。


「久しぶりね アシハラ・ハルカさん」


 アシハラ・ハルカ……前世の私の名前だ……。頭の中がグルンとひっくり返るような感覚が襲ってきた。


 すべて思い出した!今目の前にいる人は私をこの世界に転生させた神の使いと名乗った女性だ!

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