037-転生者
「あ! 今
「なに言ってるのよ! 先に前世の言葉を使ったのはマルレでしょ!」
「う……でも転生者って決定的なこと言ったのはアリッサでしょ!」
アリッサが転生者かな? と思ったときは、もっと大ごとになるかと思ったけど、なにも変わらないですね。
「あ~あ。フローリングに寝そべってさ。水鉄砲とミニカーを周りに散らかしているマルレを見たときにピンときてね~。なんかさ~もっとシリアスな雰囲気になるのかな~と思ってたのに」
「私も今そう思ってましたわ」
「で、マルレも日本人なの?」
「この部屋見ればわかるでしょ? ちゃぶ台と座布団よ?」
アリッサは座布団の端をいじりながら、なにか言いづらそうにしている……。
「えっとさ……」
「なんですの? アリッサ」
「前世の話はさ……。つらくなるから禁止にしない?」
「そうですね……。私も賛成ですわ」
残してきた妹のハルカのことを思い出すと、また会いたくなる……。唯一の肉親だった私がいなくなって心細いだろうか? 元気にしているかな……。ちゃんとご飯を食べてるかな? 夕飯をパン一枚で終わらせてないかな? 洋服を散らかしていないかな? 洗濯はきちんとしているかな? ヨレヨレの制服着てないかな?
心残りが多すぎて自然に涙があふれてきた。
「マルレ? 泣いてるの?」
「ごめんなさい、ずっと考えないようにしてたんだけど、思い出してしまって」
「私も……。やっぱり話さないようにしようね……」
やはり、アリッサも残してきた家族や友人がいるのだと思うと、私まで気分が落ち込んで来る。
「それに、もうこっちでの人生のほうが長いし……」
「そうなのですか? 私はちょうど同じですわ」
「ということは? 16で転生したの?」
「そうです」
「そっか……私は14だった」
「年下でしたのね……」
「いや同い年だよ! そうしないと私30になっちゃうもん……」
「うん! 同い年ですね! 合算してもいいことなんてないですわ!」
「32……」
「止めてください!」
そんなやり取りに笑い合うと、先程の涙が出るほどの悲しみは、
この世界も悪くない……。
物心付く前に私たちの両親は亡くなった。後見人の遠い親戚のおばさんと、弁護士が管理する遺産から、生活費が振り込まれるだけだった。つながりがあるのは、一緒に暮らしてた妹だけで、友達もいなくゲーム三昧の日々……。人間関係が希薄だった前世よりも、親も兄弟も友達もいるこの世界のほうが、居心地が良い。だだここに妹さえいれば……。それだけが心残りだった。
「どうせなら、この世界について、思ったことを話さない?」
「ええ、そうしましょう!」
まず話したことは、食事についてです。この世界というか、この国は食糧難とは縁遠く平民の間でも、味についての追求と開発がすごい! 前世にあったものは、大体あるしかなり過ごしやすい。ただ和食がないのがつらい、アリッサも「そこだよね!」と同意してくれた。
次に戦争や
モンスターはたくさんいるが、街は騎士団が完璧に守っている。外は冒険者が国や街からの依頼で、モンスターを倒している。人間が束になってかかっても倒せないモンスターもいるのですが、その姿を見ることはない。基本的に魔の領域とよばれる森林山岳地帯や、ダンジョンから出てくることはないのです。
その証拠に私はまだモンスターを見たことがない! だって街から出られないのですもの……。
最後にこの世界のベース? になったであろうゲームの話を聞いて私は驚いた。私が死んだことをきっかけに、この国が滅ぶというものでした。その原因は、お父様やお兄様それにファーダが「ドレスを脱ぐ」と言う言葉のもとに、
私はふと思い出した。清潔の祝福をかけたご先祖様のことを……。書物で理由はふせられていたが、自分の命と引き換えに一族に祝福を授けたと書かれていた。その後に[トレイルはドレスを脱いだ]という謎の記述の意味が今わかりました。
「そんなすごいゲームだったのね……」
「そうよ、私が必死だった理由がわかったでしょ?」
「私はプレイしていなくて、自分がどうあがいても追放されることしか知りませんでしたわ」
「それで、追放後のことしか考えてなかったんだ~」
「そうですわ、けれども、私は死にませんよ?」
「わかってる! ちゃんとファーダ君と訓練したもんね」
私は、なんだか申し訳ない気持ちになった。流魔血は、記憶を取り戻した10歳の時から発動していました。力を入れてないアイドリング状態でも剣を弾くぐらいの防御力があったのです。なので、運命が変わったのは、私がこの世界に転生した瞬間だったことになる……。その事をアリッサに説明した。
「
取越し苦労? 無駄骨? これだと言葉が悪い気がするわね……。
「ええと……。空回りかしら?」
「から……まわり……」
アリッサが放心してしまいました。運命を変えることに関しては、空回りでした。けれどアリッサが私のためにしてくれたんだから、正確には違いますね。
「いえ! それは、運命を変えることに限っての話ですわ!」
アリッサの肩を揺すり意識を取り戻させる。
「正確に言いますと、私への親愛ですわ!」
「しんあい?」
「そうです私を思ってしてくれた事でしょう?」
「うん……そっか親愛か」
「ですから後は、卒業後に私が冒険者になれば、ゲームはハッピーエンドですわ!」
「そうね! 頑張ってアークをだましましょう!」
本当に不思議……。お互いが転生者だと分かっても結局やることは同じで、何も変わらなかった。私たちの友情の前には、転生者なんて大した問題ではなかった。
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