036-新動力の使い方

 魔力によって伸び縮みする棒[ピクツ]をガシュン、ガシュンと動かしながら利用方法を考えてみる。魔力を流している間は伸びていて魔力を止めると縮む。


 似た原理の水鉄砲に応用してみましょうかしら? 大きな筒に[ピクツ]を仕込む。そして、水をためるところに圧力を掛けるように作る。すると、中心の棒を共有する注射器を2本くっつけたような形になった。


 伸びる時に水を発射し、縮む時に水を吸い取る動作になるはず。図工の教科書に載っていた竹水鉄砲と同じ原理だ。思いついてからは早いもので、あっという間に長さ40cmで筒状の[ピクツ水銃]が完成した。


 さっそく野外で実験する。右肩に[ピクツ水銃]を担いで、左手に水の入ったバケツを持ち研究所から外に出る。場所は……そうですね寮の前の広場にしましょう。


 まず魔力を流し空気を押し出してから発射口を水につける。魔力を止め水を筒の中に吸い込み準備は完了!


「[ピクツ水銃] 発射!」


 魔力を[ピクツ]に込める! すると勢いよく水が飛び出した。まるで弱い水魔法のようです。使い道はないけどできた! ついに新動力を使った最初の発明が完成した! 感無量ですわ……。


「マルレ、今のはなんですか?」


 急に声をかけられてびっくりした。


 後ろを振り向くとそこには、きれいな緑のお下げ髪のラーバルが立っていた。


「ラーバル! ちょうどよいところに来ましたわ! これは、ですね……」


 私は夢中になって[ピクツ]について説明し始めた。アリッサの助言から始まり、材料探しや改良の苦労まで事細かに説明した。なんだか引いてる感じがするけど、熱い思いが止まらない! 私は夢中になり一方的にしゃべり倒した。


「で[ピクツ水銃]ができたってわけよ!」


 そこでもう一度[ピクツ水銃]を発射してみせた。


「よくわかりませんが、第一歩を踏み出せたみたいですね。おめでとうございます!」

「ありがとう! ラーバル!」

「ところで、気になっていることがあるんですが……」

「なに? 何でも言ってみて?」


「[じゅう]ってなんですか?」


 あ……この世界……銃なんてないじゃん……。まったく気にしてなかったわ……。どうしましょう。どう説明すればいいかな? えっと……。


「ジューッと水が出るから[じゅう]ですわ」

「擬音でしたのね。独特な名前だったので気になりました」


 セーフ? セーフなの? ごまかせたみたいね良かったわ!


「あれ? そういえば戦闘魔術科は今日休みなの?」

「そうですよ。アリッサは、あなたの研究所に行くといっていましたから、入れ違いになってしまったようですね」

「あら? そうでしたの? では研究所に戻りますね」

「わかりました。私は騎士団の仕事を片付けに行きます。たまにはこちらにも顔を出してくださいね」


 そういえば、流魔血の訓練をはじめてから騎士団の訓練に全く行ってなかったな……。だってラッシュ団長から「君の運動能力は、騎士団の剣術の枠には収まらない。剣術を学ぶのではなく独自の剣術を見いだし磨いたほうが良いな」なんて言われてしまったのですもの……。さすがに足が遠のきますわ。


「ええ……。時間がありましたら、お伺いいたしますわ。団長様によろしくね」

「はい、ではまた」


 騎士訓練場に向かうラーバルの背中を見つめながら、手に持った[ピクツ水銃]を眺める。


 [じゅう]ってなんですか? さっきのラーバルの言葉だ……。


 私はある疑問が浮かんだ。それはまだ夏の頃、アリッサに試作品を見せたときだ……。どうして彼女は、[水鉄砲]と即答したのだろうか……? まさか! 確かめる必要があるわね。


 私は疑問を確信へと変えるために、アリッサが待っているであろう研究所へ、足を進めた。研究所に戻ると、アリッサが足を投げ出し座布団に座って待っていた。


「お帰りマルレ~。どこ行ってたの?」

「これをテストしてたのですわ」


 [ピクツ水銃]を見せ名前を言う……。じゅうってなに? とか変な名前だとかの言葉が出れば……違う……。


「[ピクツ水銃]ですわ」


「また水鉄砲を作ったの?」


 銃=鉄砲……やはりアリッサは……でもまだ確信はできないですね。


「どうしたのマルレ? 顔が怖いよ? 失敗した?」

「いえ、成功ですわ! 実は前のものとは違い別の動力があるのですよ!」


 [ピクツ]についての説明をしながらなにか確定できるような方法を考える……。


「――という新しい動力なのですよ!」

「すごいじゃない! マルレ!」

「フフン! そうでしょ! でも使い道が思いうかばないのよね……」

「なに言ってるの! ピストン運動はエンジンの要じゃないの!」

「ピストン運動? エンジン?」

「あ……」


 アリッサの顔がみるみるうちに真っ青になっていく……。まさか自分からとは……。どうしましょうかこれはアリッサも転生者だと確定ですよね?


「アリッサ? どうしたの?」

「なんでもないわ」

「ところで、エンジンとは何でしょうか?」


 追い詰めて自白まで持っていきましょう!


「ええと……あの……その……。あっ! 銃! そうだそれより銃ってなんですか」

「ええ!? あああのおお、擬音ですわジューッと水が出るでしょ!」


 墓穴ほってた事を忘れてましたわ!


「それに私が前に水鉄砲って言ったときは、なにも反応しなかったよね?」

「わからない言葉が出てきたから、流しただけですわ!」

「土足厳禁で床に座るこの部屋……。馬車とは似つかないこの車輪がついたおもちゃ……」


 あれ? なんで私が追い詰められているの?


「フフフ! その慌て方はやっぱりマルレ転生者なのね!」


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