034-トリリア・リウス
「トリリア・リウス! すまない、また厄介事がふえた」
わたくしの名を呼ぶアーク様につい、ビクンとしてしまう。あの夢のような時から3カ月もたっているのに、なれることはないですね。
「アーク様? どうなされたのですか?」
「またマルレとアリッサ絡みだ……」
詳しく話を聞くと、卒業後に演劇をするそうです。そのためアーク様とアリッサさんが、恋人のフリをするのを許してほしいとのことでした。その話を聞きながらわたくしは過去に思いを巡らせた。
◆
トゲ
わたくしはくやしかった。憧れのアーク様の隣いるのはいつも彼女……。最近は平民の子までアーク様のそばに。わたくしは、アーク様からあしらわれる女性たちの一員だと言うのに。くやしさと自分のふがいなさから、恋心が嫉妬で塗りつぶされていく。そして、わたくしはとんでもないことをしてしまう。
二人まとめて排除する方法を思いついた! あのときは名案だと思っていた。水と光の複合魔法であるミラージュを使いマルレリンドの姿に変装し、アリッサに嫌がらせするというものだ。しかし計画は最初の一回目で終りを迎えた。
靴まで気が回らなかったわたくしの変装は、アリッサにあっさり見破られた。わたくしは、慌てて教室に逃げ帰った。しかしわたくしが、しでかしたことの報いはそれだけでは終わらなかった。
激怒したマルレリンドが乗り込んできたのです。逃げ出そうとするも「お待ちなさい!」と一喝されて止められた。それから、わたくしが平民へと使ったひきょうな力で、対処すると言われた。わたくしは、侯爵ひいては、王族によるリウス家のお取りつぶしを思い浮かべた。そのことから恐怖で声も出せなくなりただその場に座り込むだけでした。そのまま寮へと戻り私はとんでもないことをしてしまったと震えていました。
明くる日、わたくしの非道な行いに、皆様から軽蔑のまなざしを受けると思ったのですが、なぜかそれはなかった。原因は、いつの間にか私が被害者という、まったく逆のうわさに、なっていたことでした。そして、マルレリンドに、冷血マルレという通り名が付いた。
でもわたくしは、それは違うと声を上げられなかった。自責の念から心が、きしむような生活を送り、ついには心がつぶれた。わたくしは、こらえきれずに、ルームメイトのラーバル様の前で全てをぶちまけてしまいました。
それを聞いたラーバル様は「簡単よあなたが勇気を出して、うわさを否定し真実を話せばよいのです。今よりも、つらくならないでしょ?」そう言ってもらった私は決意した。翌日からうわさを否定して周り、うわさを消すことに成功すると心が晴れやかになった。
仕上げにマルレリンドとアリッサに、誠心誠意の謝罪をした。
マルレリンドは「何のことだかわからないけどいいわよ」とアリッサは「マルレちゃんのうわさを消してくれたんだもんもちろん許すわ」と簡単に許してくれた。
二人の優しさに感動して涙が止まらなかった……。
その時アーク様がおっしゃった言葉。
「あなたのような貴族の令嬢が、自ら非を認め謝るのは並大抵のことではない。一度は間違ってしまったが、きっとあなたは素晴らしい女性になるだろう、応援している」
初めてアーク様から声をかけてくれた。嫉妬で塗りつぶしてしまった恋心から嫉妬がきれいに剥がれ落ちた……。今度はこの恋心をきちんと育てようと決心した。
2年生では遠くからアーク様を眺めるだけで精一杯だった。それにマルレリンドとの婚約……。諦めようと思ったけど1年間遠くから見つめるだけでもどんどん思いをつのらせていった。
変化のときは3年生で公共事業科になったときでした。護岸工事の実地訓練で、偶然アーク様の隣になったときに、事件は起こりました。
今回の訓練は迫りくる水を土属性の魔法で止めるという訓練です。土魔法が使えない私は水を流す役として、アーク様のお手伝いをしていました。そして私の流した水とアーク様の土がふれた瞬間に、他の所より土が大きく盛り上がりました。
「なんだ今のは……。そうか、君のせいか」
「え!? 違います! わたくし、土魔法は使えません!」
「そうか……。ちょっと手を貸してみろ」
アーク様はそうおっしゃると、なんと私の手を握りながら魔法で土を盛り始めました。それは通常より大きくかった。先ほど水が触れたところと同じぐらい大きく盛り上がっていました。
「やはりだ……。君の魔力があると効果がかなり上がる」
「どういうことでしょう?」
「何だその、新しい魔法形態のことは知ってるな?」
「はい、形式化されたものより、自分にあった方法で魔法をつかうと、効果が上がるというものですよね」
「そうだ、私は友人などの
ずっと手を握られていて頭が回らない……。よく意味がわかりませんわ?
「はぁ……。そうですか」
「そこで、授業が終わったら、検証に付き合ってほしい」
「え? 私がですか? 他にもいっぱい、いらっしゃるじゃないですか!」
何言ってるの! わたくし! チャンスじゃないの! なんで素直になれないの、わたくしのバカ……。
「君じゃないとダメなんだ、威力が段違いなんだ」
「え? わたくしが? そんなわけ……」
「いいからこの後残ってくれ」
強引なアーク様に押し切られたわたくしは、フワフワした気持ちで待っている。
焦ってはダメ! また恋心を嫉妬で塗りつぶすような結果になりかねないわ! 落ち着いて、わたくし!
「残ってくれてありがとう」
「いえ、アーク様の頼みならいつでも聞きますよ」
「そうか、そう言ってくれると助かる。では、もう一度試させてくれ……」
アーク様がわたくしの手をそっと握る。
心臓が破裂しそう……。
顔も熱くなってきたしもうお顔もまともに見られませんわ……。
アーク様は、手をかざし無詠唱で一瞬のうちに堤防を築き上げる。今まで見たことないほど早く丁寧な作りです。とても一人が短時間で作ったものとは思えない、素晴らしい堤防ができていた。
「すごい。さすがアーク様」
「いやこれは君の力があって強化されたものだ」
「
「それは、だな……」
あれアーク様……お顔が赤くありませんか? 熱でもあるのかしら?
「私が君に友情以上の感情を持っているからだ!」
「?」
「君もあれか? はっきり言わないと納得しないタイプか……。いいか一度しか言わないぞ」
え? え? え? なに?
まさか! まさか! いえ! ありえませんわ!
「マルレとアリッサに君が謝っているのを見た時からずっと……」
うそ! うそ! うそ!
「君が好きだ……」
心の奥が欲しがっていたったた一つの言葉。それによって、育ちすぎた恋心からあふれた思いが涙となって頬を伝う。
「ごめん、泣くほど嫌だったか?」
「違います! うれしかったのです」
「そうか良かった……。だったら返事を聞かせてほしいな」
「わたくしもアーク様をお慕いしています」
最高の瞬間! 心が踊ったがすぐに思い出した。アーク様には婚約者がいたことを……。その事がつい表情に出してしまい、アーク様に伝わってしまったようだ。
「そう暗い顔をするな。君にだけは話しておくよ。マルレとの婚約の件は
「それは本当ですの?」
「証拠を見せるよ」
そう言うとアーク様は、わたくしの手をひっぱり体を引き寄せる。
そして、そっと腕の中に包み込んだ。
「これが証拠」
もうダメ……気絶しちゃいそう! お顔が近すぎますわ!
あ……でもアーク様もお顔が赤いですわ……。本心なのですね。
わたくしは、アーク様とついに心を寄せ合うことに成功した。
半分諦めてお墓まで持っていこうと思っていたこの恋心。
思わぬことに、アーク様からの告白で見事に成就したのでした。
◆
そんな甘い幸福感に浸っていたらアーク様より厄介な頼み事が……。
「というわけだから、卒業後までマルレとアリッサの奇行に付き合ってほしい」
「アーク様とあのお二人のためなら、それぐらい絶えてみせますわ!」
「ありがとうトリリア」
「いえ、わたくしは今最高に幸せですから、お気になさらず」
卒業までの半年……。この思いは何年も隠し通したんだから余裕ですわ! きっちりマルレリンドを送り出してあげましょう!
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