030-アリッサの決意

 私は見慣れた寮の自室で目を覚ましました。あのまま寝てしまったのか……ベッドに横になったまま昨日の出来事をゆっくりと思い出す。


 追放処分……マルレが回避するのではなくそれを望んでいる……。もし運命が彼女にそう思わせているのであれば多分回避は不可能なのだろう。ならば回避するべきは裁判の後に彼女が殺されることだろう。


 そもそも彼女はなぜ殺害されたのだろう? 確か判決は、婚約破棄と追放処分で死刑ではなかったはずだ。そもそも死刑なら正当な手順に沿って行われるはず……。


 つまりゲーム内で死亡したのは事故か暗殺? あのスチルの出血量から刃物による傷と見て間違いないだろう。すると暗殺か?


 しかし、暗殺なら裁判所なんて警備が厳重な所で行うより、追放処分後にすれば良いことだ。つまりは事故ということになる? 裁判所で罪人が死亡するケースは……。


 逃走を図った?


 しかし、一人を捕縛するのは簡単なはず……。そうなると協力者がいて捕縛は難しいと考えた場合かな? 逃走されるぐらいならと衛兵が殺した可能性が高いか?


 マルレの逃走を手助けする人たち……[トレイル]だろうか? いや3人で国をつぶせる彼らが協力すればやすやすと逃走できるはず。


 すると誰か? 私はマルレに味方しそうな人たちを思い浮かべてみた。王都の住民たち……。マルレが彼らの手助けをしているのはよく見ている。もしかしたら冤罪えんざいだと知ってる住民が押し寄せたのだろうか? それなら説明が付くかもしれない。


 衛兵はむやみに住人を傷つけられない。しかし、マルレを逃がすわけに行かない……。それならばいっそ……ということなのかもしれない。とにかく裁判の場に刃物を持ち込めるのは、衛兵が最有力だ。この推論を軸にマルレが死ぬことを避ける手立てを考えよう。


 運命によって起こされるであろうことは、冤罪えんざいでの婚約破棄と追放処分。そして、マルレの死すなわち滅亡……。マルレの死後[トレイル]を止めるのは不可能だろう。冤罪えんざいもマルレが望んでいることだ。きっと虚偽の自白をして普通に冤罪えんざいを晴らすより、難しく不可能だろう。唯一誰も望んでいないのはきっとマルレが死ぬというところだけだろう。


 マルレの死その一点だけを全力で回避する。そうすれば、全てまるく収まるような気がする。


 やることが決まった私は、決意する。


 目的は裁判で冤罪えんざい追放処分をされた後マルレを無事に逃がすことだ。


 ベッドから体を起こすと、心配そうな表情をしたマルレがこちらを見ていた。


「昨日はおかしなことを言ってしまって、ごめんなさい」


 その言葉から私は、マルレが一人でも冤罪えんざい追放をやり切ると感じ取った。


「大丈夫! 全力で協力する!」


 絶対にあなたを死なせない!


「そうですの? 助かりますわ! 事情を知っているアリッサにしか頼めませんもの。良かったわ!」

「マルレは心配しないで! すべて私がかたをつける!」

「え? そこまでしていただかなくても……」

「いえ! マルレは下手に動かないで! 絶対に私がどうにかするから!」


 きっと運命に逆らえるのは、転生者である私だけ! それならばマルレには何もしてもらわないほうが良いはずだ。


「そっそうですか、ではよろしくおねがいします」

「うん! 任せて! 卒業式までに準備を終わらせとく!」


 猶予は約1年! 工作に根回し、そして、マルレが斬られても治療できるような最高の回復魔法! そうだ! 衛兵なら騎士団管轄だからラーバルにも協力を頼む必要があるわ!


「マルレ、ラーバルにも協力してもらおうと思うけど、いいかな?」

「ええ! もちろんですわ! 私の夢を知っているのは、二人だけですし心強いですわ!」

「わかった! じゃ、ラーバルには私から話しておくから任せておいてね!」


 ん? ちょっと表情が暗くなった? でもここは我慢してもらわないと困る!


「わかりました。私にもなにかできることがあったら、教えてくださいね」

「もちろんよ」


 やはり自分でも、なにかしたかったみたいだね。けれども任せてもらうしかないわ……。さっそくラーバルに協力を求めたほうが良さそうね。


「マルレ! すぐにラーバルと話してくるわ」

「え? 何もそんなに急がなくても!」

「いえ時間が足りないぐらいだわ! 経過報告は、きっちりするからマルレは、どっしり構えててね!」


 そう言い残すと、ラーバルがいるはずの騎士団訓練場へと急いだ。


 学園の隣りにある騎士訓練場に付くと、入り口の騎士にラーバルの所在を確かめる。今日は休みで寮の自室いるとのことでした。部屋番号を聞いて寮へと向かう。


 寮の玄関にある案内図で部屋の位置を調べて、寮の中を進む。春休暇中はほとんどの生徒が家に帰っているので、人通りはなくとても静かだ。目的の部屋に着き扉をノックする。


「アリッサです。ラーバルはいますか?」

「どうぞお入りください」


 この国のため……というよりもマルレのために覚悟を決め部屋へと入る。


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