029-アリッサの画策
ゆううつな思いを抱えたまま私は入学した。
入学式が終わり、振り分けられた教室に向かう途中の階段でそれは起こった。
私はこの世界の結末について考えながら歩いていた。そのために階段を踏み外し宙に浮いた。世界が終わる前に死ぬ……。それも良いかと思いながら力を抜いた。
次の瞬間に私の体は、お姫様抱っこの形で優しく抱きかかえられた。私を抱きかかえた人物は、悲劇のヒロインのマルレリンド・ドレストレイルだった。
つい先ほど生を諦めた私だが、彼女の顔を見て思い出した。監督のSNS炎上騒動の前に唯一このキャラが好きだと言っていた姉の事を! そして、絶対この子を助けたいとの思いが燃え上がった。
マルレをお茶に誘う王子に便乗して、私も一緒にお茶をする約束を取り付けた。幸いなことにクラスも一緒で、私はどんどん彼女との中を深めた。寮の部屋も一緒になることに成功し周りの動向に気を付けた。
私への投石や私物の紛失など、小さな嫌がらせが起こり始めた。だけど、マルレと常に一緒にいることから、マルレが疑われることはなかった。しかし事件は起こってしまった。
見慣れない生徒を引き連れたマルレが私の前に立ちふさがった。そして、私に向って「平民のくせに」だとか「身分をわきまえろ」だとかの暴言をはいている。あまりのことに混乱したがすぐに思い出したコイツは偽物だ!
よく
私が「その靴……」というと、彼女はハッとして私を花壇に突き飛ばし逃げ去っていった。私は、尻餅をついてしまいスカートが泥だらけになった。
しかしそんなことは気にならなかった。すぐに立ち上がりこの世界を破滅へ導いた犯人への対処方法を頭の中で考えていると思わぬ人物が現れた。それはマルレだった……。今誰かに見られたらまずい! 絶対に勘違いが起こる! 運命はここまでするかと怒りを覚えた。そんな私のスカートの泥をマルレが手でなぞりきれいにしてくれた。「ありがとう」とお礼を言うと自分の無力さに涙があふれてきた。
「誰がやったの!」怒りに震えるマルレの迫力に負けて、靴を証拠にトゲ
ゲーム監督やドレストレイル家の行動も納得するほどの素晴らしい人だとわかった。お姉ちゃんはこの事を見抜いていたのかなと?
ゲームイベントであるマルレからアークへの強引な婚約もなく。安心した私はマルレとの学生生活を楽しんだ。世話好きな姉と重なることと尊敬の念から、お姉様と呼んでしまい変な顔をされたりもした。そんなかんじで、お茶に勉強会と順調に学生生活を楽しんでいた。
しかし、ある時[冷血マルレ]の通り名が浸透していることに、気がついた。うわさを消そうとする私の努力もむなしく、通り名が消えることはなかった。打つ手が無くなった私は途方に暮れていたが、悩みのタネは勝手に消滅した。なんとトゲ
しかし事件は、ゲームの終わりである1年生の修了式の直前に起こった。なぜか今になって王子の側から強引に婚約が決まった。追放への流れはまだ終わっていない? 断罪イベントは修了式のあとだ、今からなにかやっても間に合わない! 私は証拠がなくても裁判でマルレの無実を訴える覚悟を決めた。
マルレが冒険者を目指していることや騎士団で訓練するなどの予想外の出来事もあった。しかし、とくに何も起こらなかった。そして修了式も無事に終わり、裁判が行われる様子もなかった。
運命に勝った! マルレの命と、この国の破滅を防いだ! 私は誰とも分かち合えない私だけの喜びをかみ締めた。
数日たち春休暇も終わると、2年生から始まった魔法実技の授業中に、マルレが魔法を使えないと知り倒れた。目覚めたマルレは「私はひとりじゃないし夢も希望もある。あなたたちからもらったものは、つまらない現実を消し飛ばしてしまうほど、大きかったようです」とうれしいことを言ってくれた。安心と信頼を同時にもらった私たちは、マルレを囲んで皆で泣いた。落ち着いたあと互いに敬称をつけずに名前で呼ぶことになった所で魔王が現れた。
ラスボスである魔王ザロットが私たちのいる部屋に入って来ると顔が引きつり体が固まる。”仕事”を放り出したや
話が終わり魔王ザロット、いや、ザロット
入れ替わりで部屋に戻るとそこには首刈りファーダが立っていた! 思わず私は目を細める……。「誰ですか?」その言葉に、首刈りファーダは丁寧に自己紹介した。すぐには安心できなかったが、そのあとのラウンジでのマルレとのコントを見て警戒心は取り除かれた。彼は首刈りファーダではなくマルレが好きな普通の使用人ファーダだとわかった。
何も恐れることはない……。今までおびえていたもの全てに向き合ってみると、何も問題はなかった。マルレがいれば前世の記憶を抱えたままでも、この世界で十分に暮らしていけると確信した!
しかしまた運命は顔を出した。
「私がアークとアリッサが親しいのに嫉妬するのです。そして、えげつないイジメをして婚約破棄&追放処分になるという計画ですの」
私は涙が止まらなかった悲しみに押しつぶされるようにそのまま眠ってしまった。
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