020-体力訓練

 [魔法が使えない]事件の翌日クラスの皆に、好奇の目で見られるのではないのか? そんな心配をしながら教室に入ると、いつも通りでなにも変わりありませんでした。むしろ私よりも転入生のファーダの方が注目を浴びてました。


 クラスの女生徒に囲まれて質問攻めにされています。作り笑顔を貼り付けて答えているファーダを見るとなにか別の生き物を見ているようで気持ち悪かった。


「マルレ様の従者なのですか?」「幼馴染おさななじみですって?」「私も平民です!」

「あの、そろそろお嬢のところに行かないと……」

「そうですね。失礼しましたではまた後ほど」


 私を理由に質問攻めから、開放かいほうされたファーダがこちらにやってきた。


「お嬢、今日の体力訓練についてお話があります」

「話? 何かしら?」


 私の能力はあまり表沙汰にできないので、目立たぬように務め隠すことにするとのこと。私は騎士団訓練場で、私が本気を出したときの新兵のリアクションを思い浮かべて納得した。


 体力訓練――騎士はもちろん魔法使いも体力がなければ始まらない。魔術師団の戦闘魔道士なら回避や行軍。魔導研究所の研究魔道士なら激務に耐える体。王族からなる公共設備魔道士なら自然災害に立ち向かう体力だ。とにかく魔道士は筋力こそいらないが、持久力が全てだ。魔法を使えるだけじゃ成り立たない! そこで意識改革として体力訓練が行われる。


 今私は体力訓練のために、王都の城壁の上に来ている。城壁の上は3人が並んで走れるほど幅広く、一周10kmほどの長さがあった。


「体力訓練教官のガンゴウオンだ! おまえたちは1年で基礎知識を学んだ! 頭を鍛えたら次は肉体だ! 魔法実技で肉体が覚えるまで魔法を繰り返し放ち! 体力訓練でひたすら走り込み持久力をあげる! 春は城壁、夏は砂丘、秋は山中、そして冬は雪原! とにかく走れ! それだけだ」


 あぜんとするクラスメイト達……。誰でもわかるこれは地獄だ……。


「城壁2周だ! さっさと行かないと夜になるぞ! いけ!」


 真っ青な顔のクラスメイトたちは、慌てて走り出す! 私は先頭を切って走り出したアークに駆け寄り話しかけた。


「アーク! あなたこれ知ってたでしょ!」

「もちろんだ、魔道士はとにかく持久力だ常識だろ」


 やはり知っていたのね! どうしましょう? 私この訓練の意味ない……。


「まって! マルレ! みんなで一緒に走ろうよ!」

「私も行きます!」


 アリッサとラーバルが追いついてくる。


「お嬢! 先頭って! さっきの話し忘れました?」


 ファーダも続く。


「みんなに合わせれば平気でしょう?」

「まぁ……。そうですが……」

「では、このまま維持で!」


 城壁の上をただひたすら走る。黙々と走る……。暇だから誰かに話しかけようかしら? でもみなさん息が上がってそれどころではなさそうですね。トップ集団のまま一周目が終わり二週目に入った。


 初めと順位が少しかわりました。先頭がラーバル続いてアーク、アリッサ少し後ろにファーダそして最後尾に私の順番で走っている。


「いいペースだ! そのままいけ!」


 どうやら一周したようで、教官が声をかけていた。


 後ろを見ると少し離れて大きな集団がある。やはり、この3人はすごいなと感心かんしんする。もし私の特性とくせいがなければ追いつくのは無理でしょうね……。


 ふとファーダを見ると、なぜか息が上がっている。


「ファーダ? なんで息が上がってるの?」

「そりゃさすがに10km走れば疲れますよ」

「え? 特性とくせいは?」

「忘れたんですか? 持久力アップは、清潔の祝福との合わせ技だ、って旦那様が言ってたでしょ」

「そういえばそうですね……。じゃあファーダが本気で逃げても、私が諦めない限り追いつけるってことですか?」

「なにを怖いこと言ってるんですか! そりゃ隠れるところがない空間で延々追われたら捕まりますよ。だけど、お嬢はまだ俺が気配消したら見えないでしょ?」

「そうだ! あれは一体何なんですの?」

「簡単に言えば心動を消しているんです。そうすると気配が完全に消えて、見えてるのに意識から外れるんですよ」

「へぇ! それって私はできるのかしら?」

「できますよ。清潔の祝福があるから、お嬢のほうが効果も長いですよ多分」

「とっても楽しそう! 魔法実技の楽しみができたわ!」

「それは良かった。他のことは、じゃべりながら走るのはきついから、魔法実技の時でいいすか?」

「そうね、ごめんなさい、頑張ってね」


 また暇になってしまいましたわ……。一年これが続くとなると精神的に厳しいですね。そうだ! 追放計画の事を考える時間にしましょう。


 まず、だいじなのは周りの評判ですね。嫌がらせしそうだと思われるようにしなくてはいけませんね。私は人気がなさそうだから、少しの悪事ですぐ準備は整いそうですね……。そうだ[冷血マルレ]これを目指せばいいんだわ! そういえば、性格が悪そうな令嬢とかいるのかしら? 後でアリッサにでも聞いてみましょう。


「よし! おまえらは、もう上がっていいぞ!」


 突然教官の声が聞こえた。いつの間にか終わってしまったらしい。疲れてはいるけど姿勢を崩していないラーバル。膝に手をおいてかなり疲れた様子のアーク。座り込んでしまっているアリッサ。それと「つかれた~」と声を出す余裕がのこってるファーダ……。


 そして、全く疲れていない私……なんか疎外感を感じる。


 私は体力訓練が嫌いになった。体力訓練は地獄だと言うクラスメイトたちに同意したが、私だけ理由がまったく違っていた。


 とにかく暇!


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