002-冒険者誕生!

 私は全力で家まで走った!


 兵士を振り切り、馬車で数分の道のりを休むこと無く、全力で駆け抜けた。


 視界が狭まるほどのスピードで、予定したルートをかける。

 

 家に着くと、裏の森の中に作った訓練場まで走った。この日のために、数日前から用意していた装備を身につける。上半身に革製の袖なしチェストアーマーを装備する。次に、下半身は、ドレスのようなフリルの付いたスカートを着用する。足元は編み込みブーツを履いた。そして、一番忘れてはいけない新品のロングソード!


 姿見がないのが残念だけど、仕方がないわね……よし! もう行かなくちゃ!


 再び走り出す。


 まだスピードを緩めるわけにはいかない! 走る! 走る!


 目的地はもちろん、冒険者の始まりの場所、[冒険者ギルド]だ!


 私の走るスピードに驚く人々を置き去りにして、待ちに待った[冒険者ギルド]の扉を開いた!


 体格の良いスキンヘッドの男が、ニヤリと笑うと声をかけてきた。


「おやおや! お嬢ちゃん来る場所を間違えたのかい?」


 私は感情をおさえきれず、両手を大きく広げ叫ぶ!


「素晴らしいわ! なんとも素晴らしい! その見た目、そしてセリフ! 完璧です! これぞ私の求めていた冒険者人生よ!」


 私に視線が集まるのも構わずそのまま続ける!


 脳内のイメージとすり合わせるように、一人一人を指差しながら叫び続ける。


「巨乳の受付嬢!」

「クエストクリアで酒盛りをするパーティー!」

「セクハラされそうな衣装の給仕人!」

「カウンターに一人で腰掛けた強そうなフードマントの男!」

「スキあらば、女性を口説いてそうな短剣男!」

「顔に傷のある大男!」


「まるで夢のよう……。あなたたちは最高ですわ……」


 私が作り出した沈黙を破ったのは初めに声をかけてきた男だ。


「よくわかんねーけど? 褒めてくれてありがとうよ! でも大丈夫なのかよ、その髪形はどう見ても貴族のお嬢さん、って感じだぜ? ちゃんと戦えるのかよ」


 ガハハと笑う男を見ていたらあることを思い出した。やりたかったことリストのうちの一つをやるチャンスだと思った。


 それは!


 腕相撲対決!


 私は、男が座っている正面の席に座ると、肘を付き腕相撲をする準備を整えて言った。


「試してみる?」

「本気かい? お嬢ちゃん!」

「ええ、本気よ!」


 私の細くてきれいな手が、大きくて固い手とガッチリ組まれる。男はニヤニヤと笑っている。


 ふふその余裕、いつまで持つかしら?


 私がさっき、[スキあらば、女性を口説いてそうな短剣男]と称した男が近寄ってきた。彼は、軽装鎧に短剣を装備した金色の短髪です。たぶん私よりちょっと年上ぐらいでしょうか? その青年が組まれた手の上に両手を乗せた。


「よし、オレっちが掛け声やってやるぜ」


 まさに黙っていれば、カッコイイと言う定義がピッタリです。自分の評価は間違っていなかったとよろこんだ。


「ふたりとも準備はいいか?」

「おう!」「ええ!」


「よーい初め!」


 短剣男の掛け声で、腕に力を込める!


 まったく手応えがない……。私は、すぐに相手の手を机に押し付けた……。


 その後、遅れて大男の体がひっくり返り、椅子をなぎ倒す音だけが響いた! まるで何かをためているように静まり返るギルド内……。そして、たまった物が吹き出す!


「「「すげえええええええええええ」」」


 気持ちいい! うれしい! 楽しい! もうサイコー!


 私は立ち上がり、右腕でチカラコブを作り、左手で自分の腕をパシンとたたいて、こう言った。


「私の力をわかっていただけました?」

「では、ギルド登録がありますので、失礼いたしますわ」


 そう告げると騒ぐ男たちを置いてギルドカウンターに行き、巨乳の受付嬢に話しかけた。


「登録をお願いしますわ」

「はっ、はい! 登録ですね、こちらの[ギルドカード]に魔力を流してください」


 何度も本で見て憧れていた白色のカードを受け取る。


 ついに! ついに! このときが!


 うれしさが顔に出ているのに気が付き表情を引き締める。もしかしたら、ニヤニヤ気味の悪い笑顔を見られてしまったかも……まぁいいわ! さっそく、[ギルドカード]に魔力を流してっと……。


 無地だったカードに文字が浮かび上がった。


==================

ランク:F

氏名:マルレリンド

性別:女

受付中、クエスト:なし

==================


 ふふちゃんと家名が消えてますわね、これで一安心ですわ。


「はい、登録完了ですね。このままクエストを受けますか?」

「もちろんよ! 簡単な討伐クエストをお願いするわ」

「でしたら、ロックタートル5匹の討伐はいかがでしょう?」


 ロックタートルねぇ、たしかどこにでもいる動きの遅い雑魚モンスターよね? 腕試しにはいい相手じゃないかな? 受けることにしましょう。


「それでお願いするわ」


「かしこまりました。討伐すると自動的にカードが記録しますので、とくに操作などは必要ありません。倒して戻ってくるシンプルなクエストですので、ご安心ください」


 我が家にあった[冒険者案内]にあったとおりのシステムね! 便利なものだわ。


「ではいってきます!」

「ご武運を!」


 受付嬢に手を振りおわかれし、まだ騒いでる男どもをかき分けて街の外へ向かう!


 私はようやく初めて街の外へと旅立った。


 初クエストよ! ロックタートル! 首を洗って待ってなさい!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る