29.鍛冶、呪物連隊、出動す
「底冷えするぅ〜」
構造的には神社の神殿そのままな広間は、板間ということもあり、下から直接冷気が忍び込んでくる。
「ユッキーちゃん、頭をこちらにのせますか?接地面積を減らした方が冷えませんよ」
白装束の男たちが居なくなると、周りは黒い着物だらけで、白い服の峰子は目立っているが、篠崎と同じで、あまり周りの視線が気にならないらしく、背中をまっすぐ伸ばして座り、ポンポンと自分の膝を叩く。
「わ〜い」
言葉に甘えて、篠崎は毛布に包まれたまま、モソモソと動く。
「……ネコちゃん、意外と……」
そこまで言って、篠崎は言い淀む。
硬い。
温かいけど、圧倒的に硬い。
高反発な筋肉を感じる。
「私は膝枕界の箱枕と言われています」
「箱枕?」
「時代劇で殿様とかが使っている木の枕ですよ」
「あぁ……あの、ちょんまげ専用枕……」
思わず納得してしまう、張りのある太ももだった。
(確かにネコちゃんの蹴り、凄いもんな)
そう考える篠崎の胸の上に、関節球体人形が置かれる。
真っ黒な髪に緑の瞳。
「これ作ったの、和泉姉だな〜」
かなり良い出来だが、何となく和泉の作品ではないだろうと思う。
上手く表現できないのだが、和泉が作った人形は、ただ人の形をしただけの物体ではなく、無生物なのに魂を宿しているように見えるのだ。
この緑の瞳は美しいが、何かを語りかけてくる雰囲気がない。
美しいだけの無機物だ。
「愛らしいですよね。豪華にカスタマイズしたいです」
「わかる。ちょっと服が地味すぎるんだよね。超ゴシックに仕上げたい」
「真っ黒なヘッドドレスに真っ赤なレースをつけて……」
二人がそのままドレス談義に入ろうとした時、
「えっと……少し、お話良いかしら?」
遠慮がちに、一人の女性が声をかけてきた。
よく言えば大和撫子、悪く言えば気の弱そうな女性だ。
(ん〜〜、顔は若いが首のスキンケアがなってないな。アラフォーの親世代で……着物は紋付き。結構高い地位の人だな)
頼りない表情のせいで、若く感じるが、それ以外の所から篠崎は年齢や地位を推測する。
「どうぞ」
突然声をかけられても、膝枕状態でも、峰子は動じない。
手の平で自分の正面の空間を指し示す。
「あっ、はい」
女性は真っ向から向き合うことを避けたのか、神棚に尻を向けるのが嫌だったのか、示された空間に斜めに座る。
(……135°……)
微妙な角度で向き合うので、篠崎はちょっと笑ってしまう。
「藤護
細やかな声で女性は名乗る。
(宗主の妻ってことは………!)
篠崎はギョッとしてしまう。
禅一たちの『母』と名乗らなかったのは、血のつながりがない故か。
「乾峰子です。保育士です」
息を呑んだ篠崎とは対照的に、峰子は全く動揺することなく自己紹介を返す。
(多分、『宗主の妻』は職業じゃないと思うんだけど……)
友人の親で、商売相手の奥さんなら自分も挨拶した方が良いのだろうが、篠崎は面倒なので毛布に潜り込み、狸寝入りを決める。
「えっと……失礼ながら、確認をさせていただきたくて……峰子さんは、譲さんの……?」
はっきりとは言わないが、一緒の部屋に寝たので、恋人疑惑をかけられている。
「いえ、私は七歳児未満が専門なので譲さんではなく、アーシャちゃんの先生をさせていただいております」
予想外の切り返しをされた、禅一たちの継母は言葉に詰まる。
(ゆずっちの保育……!!)
毛布の中で篠崎は笑いを噛み殺す。
「冗談です。関係を確かめにいらっしゃったのなら、私はアーシャちゃんに付き添って来たに過ぎません。こちらの血筋の方々と縁を結ぶつもりはありません」
全く冗談に聞こえなかった。
「あ、そ、そうなんですか……」
思いっきり継母は出鼻をくじかれている。
「あ、で、でも、結構、禅一さんや譲さんと仲良くしていらっしゃるみたいで……」
「ええ。私を怖がらない子供は稀有ですので、全力で仲良くさせていただいております」
「あ、いえ、あの、そっちじゃなくて、禅一さんと譲さんの事を……」
「ええ。二人とも一生懸命妹の世話をしている、可愛らしいお兄ちゃんだと思っております」
義母が投げるヘロヘロの球を、峰子は大リーガーの如き迫力で、異次元の方向に打ち返している。
「え……?お兄ちゃん……?あ、え?子供?子供って、え、禅一さんたちを言っていますか……?」
「法律は十八歳を成人と定めましたが、心身的に十代までは子供と思っております」
篠崎の頭をナデナデしながら峰子は答える。
(あ、俺のこと女の子扱いしてるわけじゃなくて、子供扱いしてたのか)
遠慮なく膝枕に頭を預けながら、篠崎は納得する。
「えっと……と、言う事は……二人が二十歳を超えたら……」
「未来のことはわかりませんが、二十歳を超えたからと突然大人扱いできるものではありませんね」
藤護に近い血筋の峰子を直系の二人に添わせたいのだろう。
継母は弱々々腰のくせに頑張って食い下がっている。
いや、食い下がるように誰かに指示されているのだろうか。
「あの……年齢を抜きにしたら、二人は、その、峰子さんの好みでしょうか……?」
「人としては大変好ましいと思っております」
「だ……男性としては……?」
「残念ながら子供を性的に見る性癖は持ち合わせていません。特に譲さんの方はそのような目で見られることを嫌がっている傾向が伺えますので、無理ですね」
(ぶった斬った……)
これは蘇生不可能なレベルに斬った。
「……禅一さんは希望がある、と言うことでしょうか?」
それでも継母は食らいついてくる。
儚い雰囲気なのに意外としぶとい。
「大変、言い難いのですが……」
「はい」
「私には小中高と絡んできたクソ……失礼、少し厄介な幼馴染がおりまして」
「……?………は、はぁ………」
「その男は何かにつけては私を殊更馬鹿にしたように眺めた後に『不二子のくせに凹凸がねぇなぁ』と馬鹿にしくさりやがったのです」
「…………?」
「ご存知ないかもしれませんが、峰不二子という凹凸に富んだ有名なキャラクターと私の名前が似ている事と、私の慎ましやかな体型を一粒で二度美味しく馬鹿にしくさっていたわけです」
「そ……そうなんですか………」
相槌を打ちつつも、継母は話について行っていない。
「最終的に性的な象徴をいじられる辛さを体感させてやるべく、ブーメランパンツで校内一周をさせ、無事討伐したのですが、彼が私の『嫌い』の象徴になってしまいました」
「……ブーメランパンツ……」
「彼は女ウケする体育会系部活に入っていて、それは日焼けしていて、体もなかなか鍛えていました。髪もエセ爽やかな短髪で……禅一さんは人間的には大変好ましい人なんですが、その男の外見的特徴に共通点が多くて……」
ふぅと溜息を吐く峰子に、遂に継母は諦めたらしく、深く頭を下げた。
「すみません……立ち入った話を聞いてしまって……」
「いいえ。関係性をクリアにする機会を与えていただいて感謝しております」
それに対し、峰子も大人な対応で会話を終わらせる。
いや、終わらせようとしたのだが、継母は立ち去ろうとしない。
「あの……清めが終わったら、会食が開かれるんです。これに峰子さんも是非参加して欲しくて……」
今までほぼ無視していた峰子を食事に誘うなんて、かなり怪しい。
『清め』という一大イベントが無事に終わったから、満を持して嫁の取り込みにかかってきたとしか思えない。
(……おぉう、仏頂オブ仏頂面。トップオブブッダフェイス)
薄目で峰子の反応を確認した篠崎は、普段から無表情な峰子の顔が、更なる虚無になる瞬間を見た。
「残念ながら宗教上の理由で他所での食事は……」
明らかな大ボラで峰子が断ろうとした時だった。
ガタガタと篠崎の上に乗った関節球体人形が痙攣するように動き始めた。
「わっ!」
一瞬峰子が怒りのあまり動かし始めたのかと思ったが、彼女の手は篠崎の頭にのっている。
人形が一人でに動き始めたと知った篠崎は、芋虫状態のまま飛び上がった。
カタンっと床に落ちた人形は、一瞬動きを止めたが、すぐにまたガタガタと動き始める。
まるで背筋運動をしているように、反り返っては力尽きてを繰り返している。
「ひ……あ………あ……」
このような状態に一番対応できるだろうと思った、藤護宗主の妻は口を押さえて、後ろに下がって行っている。
「………立ち上がりたい感じでしょうか……?」
逆に峰子は極々冷静に人形を観察している。
「ゆずっちあたりがモーター仕込んでる……とかじゃないよね!?」
あまりに非現実的な出来事に、流石の篠崎も毛布から腕を出して、体を起こす。
「いえ、何かが入り込みました」
峰子は髪を振り乱す人形にそっと手を伸ばす。
「ネコちゃん!大丈夫!?」
「わかりません。しかしアーシャちゃんの人形を損傷させるわけにはいきません」
どこからどう見ても呪いの人形だが、峰子にとっては可愛いアーシャの、大切にするべき人形という認識らしい。
慎重に手を伸ばして、少し背中をつついて安全確認してから、峰子はがっしりと人形の腰を掴む。
「おお……ロブスターの掴み取りっぽい……」
ビチビチと動く人形は活きの良い海老を彷彿とさせる。
「人形に入ったあなた、落ち着きなさい。私に害意はありません」
激しいヘドバンを見せる呪いの人形と対話を試みる貞子。
失礼ながら、人形に話しかける峰子の姿は、呪物界の異世界コミュニケーションのようだ。
声をかけられた人形は、ハッとしたように、動きを止める。
「対話できますか?私の言葉が伝わっていますか?」
ギッと関節球体の首が動いて、小さく頷く。
「ひとまず、この人形から出てもらって良いですか?」
ギッギッと人形の首が左右に揺れる。
首を振ったというより、首のストレッチをするような動きだったが、『否』と答えているのはわかる。
「出られない理由がありますか?」
ギッと人形はまた小さく頷く。
そして少し顔の角度を変えて、ギッギッギッと何かを示すように、何度も頷く動作を繰り返す。
「ふむ?」
峰子は人形の首が指し示す先を見る。
そこには昨日篠崎が着替えを取りに帰った時に持ってきたバッグがある。
「これですか?」
それを指差すと人形は頷く。
「ユッキーちゃん、中身を見ても良いかしら?」
「うん。全部出していいよ」
峰子は人形と喋りながら、篠崎のバッグの中を改めていく。
その様子を継母を含めた、広間に残った人々が、怯えるような眼差しで見守っている。
(うん。気持ちはわかる)
髪を振り乱した人形と交信する光景は、ホラーそのものだ。
淡々とコミュニケーションをとっている峰子も、そのままホラー映画に出演できそうな空気を漂わせているので、神聖な神殿の中に、怪奇空間を作り上げている。
「これは……」
峰子は人形とのYES・NOコミュニケーションで、一つのカード帳を荷物から取り出している。
「あ、それはアーシャちゃんのリュックに入ってた単語帳。もしかしたら要るようになるかなって、こっちに持ってきたんだ」
「ふむ……個人名が書いてありますね。これはお兄ちゃんのどちらかが作った物でしょうね」
ペラペラと中身を確認する峰子に、人形はギッと頷く。
それを見た峰子の目は、僅かに大きくなる。
「アーシャちゃんの持ち物を知っていて、首と胴体以外動かしていない……もしかして貴女……アーシャちゃんの中にいた巫女様……?」
ギッギッギッギッと何度も人形は頷く。
「成程。どうして立ち上がれなかったのか得心いったわ。手足の動かし方がわからないのね」
ギッと人形は恥じるように俯く。
「……ごめんなさい。馬鹿にする意図はなかったの」
相手が呪われた人形でも峰子の対応は丁寧である。
味方と判定したらしく、海老掴み状態から、髪を整え、峰子は人形を胸に抱える。
「アーシャちゃんたちに何か起こったのね?」
囁くような峰子の質問に人形は、ギッギッギッと頷く
「急いで駆けつけた方が良いかしら?」
人形は頷き、単語帳をめくって欲しそうな動きを見せる。
「事情の説明は良いわ。行きましょう!」
峰子は勢い良く立ち上がった。
呪い人形を胸に抱いて、突然立ち上がった貞子……いや峰子に、継母たちが驚きの視線を向ける。
「ええぇっ!!」
腕こそは出したが、下半身は毛布巻きになって、なんちゃって人魚のような状態の篠崎は驚きの声を上げる。
「ユッキーちゃん、担ぎますか?」
「えっ、いや、俺、結構重いから」
「走りますよ?」
そう言われて篠崎は慌てて毛布から足を出す。
「ちょっとお待ちください!」
ズンズンと進み始めた峰子の前に黒い着物の女性たちが立ちはだかる。
「手荒なことはしたくないわ。お下がりください?」
しかし覇王女の気配に女性たちは腰が引けている。
「こ、困ります!勝手な行動は困ります!」
禅一たちの継母も引き留めにかかる。
一触即発。
そんな空気の中、峰子が進んでいた先の扉が荒々しく開けられた。
「か、鍛冶殿!鍛冶殿!おいで下さい!神剣を、神剣を……!!」
そして息を切らした数人の男たちが走り込んでくる。
「どうしたと言うのです!?清めは!?」
継母が男たちに問いただす。
「清めは無事終わりました!」
「しかし御使い様と若様たちが……!!」
「神剣を放り出して行かれて、誰も動かせなくて……!」
「とにかく鍛冶殿に神剣を!!」
男たちは口々に答えるが、事情はよくわからない。
とりあえず禅一たちに何かがあって、神剣が放り出されてしまったらしい。
「まぁ、大変!行くわよ、ユッキーちゃん!」
大根演技で峰子は大きな声を出す。
そしてガシッと篠崎の胴に掴み掛かる。
「おあぁぁぁぁ!!」
かと思ったら、一気に肩に担ぎ上げられた。
「ちょっ!」
「困ります!」
女性たちは立ち塞がろうとする。
「鍛冶が神剣回収に向かうわよ!邪魔しないで!」
しかしそれを押し除けて、峰子が走り出す。
「おぁおぁおぁおぁっ」
激しく上下に揺れて、篠崎の口から声が漏れる。
慌てて峰子にしがみついて体勢を安定させながら、篠崎は後ろを見る。
「わぉ!追って来てる!追って来てる!」
ヨタヨタと走る男たちがついて来ている。
「着物ではそんなに速く走れないわ」
そうは言っても、人間一人を抱えて、峰子もそれほどスピードが出せるわけではない。
「ネコちゃん、俺も走るよ!」
「中々足裏が痛いわよ?」
そう言われて、篠崎は自分が何も履いていないことに気がつく。
「ネコちゃんは!?」
「こう言うこともあろうかと、百均のペラペラマリンシューズを靴下がわりに履いておきました」
アンクル丈の短い靴下かと思いきや、底のついたマリンシューズを履いていたらしい。
用意周到過ぎる。
「………」
篠崎は余計なことを言わずに、せめて峰子が走り易いように、重心を彼女よりに移動させる。
お米様抱っこ状態の篠崎は逆さまになりながら、進行方向を見る。
獣道のような道を峰子は辿っている。
「鍛冶殿〜〜〜!そちらではありません〜〜〜!」
「禁域に近づいてはなりません〜〜!」
そんな声が追いかけて来ている。
「ネコちゃん、どこに向かってるの?」
「巫女様が示してくれている方向です」
前を覗き込むと、ギッギッと進むべき方向を人形が深くお辞儀をして指し示している。
途中から獣道から外れて、峰子は山の中に踏み入って行く。
「道から外れて大丈夫そ?」
「恐らく」
ギッギッと人形が大丈夫と言うように頷く。
(今の俺たちって誰が見てもニュー怪異だよなぁ。都市伝説になれそう)
動く呪いの人形に、真っ白い服を着た女性霊、それに抱えられた巨大芋虫。
そんな奴らが森の中を疾走しているのだから、伝説になれる気がする。
呑気な篠崎がそんな事を考えている間に、流石に峰子の息が上がり始めて、後のヘロヘロの男たちが追いついて来た。
「ネコちゃん、ネコちゃん、追いつかれそう!」
「………いた!」
相手の表情が見えるほど近づいて来て、篠崎が焦って声を上げた瞬間、峰子も呟いた。
「「峰子先生!?」」
二つの驚いた声が重なって聞こえる。
そこには真っ青を通り越して、少し紫色になった二人組が立っていた。
禅一はブカブカの白オムツに
珍しく寄り添っていると思ったら、二人とも支え合ってようやく立っているという有様だったらしい。
「アーシャちゃん!!」
走り寄った峰子は、毛布巻きの篠崎を地面に下ろすと、一も二もなく譲が抱っこしているアーシャに駆け寄った。
そっと首に触れて鼻の前に手をやり、瞼を開けて瞳孔を確認し、ホッと峰子は息を吐く。
「寝ているだけですね」
そう言いながら譲からアーシャを受け取り、大切そうに抱きしめる。
アーシャと一緒に抱っこされた人形は、『良かった、良かった』とばかりに、ギッギッと彼女に頭を擦り付けている。
「も、も、毛布!」
「毛布!!」
「ぎゃーーーー!!ちべたい!ちべたい!」
兄二人は寒さに震えかねて、毛布蓑虫の中に押し入ってくる。
氷のように冷たい二人組に挟まれて、篠崎は悲鳴をあげる。
「うわっ人間湯たんぽ」
「あったけぇぇぇぇ!!」
「いや!いやぁぁぁ!!俺のヌクヌク体温が奪われていくぅぅぅ!!」
逃げようとしたところを、熱を求める冷凍ゾンビどもに捕まって、生けるホッカイロとして扱われてしまう。
「若様!」
「宗主!!」
「ご無事で!!」
そこにランニングによって体を温めてきた、新たなる生贄が走り寄ってくる。
「ほら、程よく温まった人間湯たんぽが追加で来たぞ!」
「「………却下!」」
篠崎は自分以外に冷凍ゾンビどもを押し付けようとするが、ゾンビどもには好き嫌いがあったらしい。
そのまましばらくぎゃぁぎゃぁと一頻り騒いでから、禅一が譲を背負い、峰子がアーシャを抱えて戻ることになった。
篠崎の毛布は藤護兄弟に
皆が戻る中、篠崎だけ駆けつけた村人の靴と上着を借りて、禅一が放り出した神剣を拾いにいく羽目になってしまった。
「うぇぇぇぇぇ〜手すりも滑り止めもない安全意識低めな階段を登りたくないよぉ〜〜」
篠崎は、情けなく叫びながら、絶壁の階段を上った。
行きは良い良い帰りは怖い。
上りより下りの方が数倍怖くて、半泣きの回収作業だった。
後になって、この崖から自らダイブした大馬鹿者がいると知って、心の底から『生存本能が仕事してねぇだろ』と言ってしまったくらいだ。
神剣や、土のついた懐刀の手入れをして、どうにかして引き止めようとしてくる村人たちを振り切って、車に乗り込んで、村に入れる唯一の道路を後にした時、ようやく全員力を抜いた。
問題は起きたが、何とか乗り越えた。
日常に戻ってきた。
譲を病院に連れて行き、念の為、アーシャも診てもらった。
譲の方はかなり酷い捻挫をしていると診断されたが、アーシャの方は問題なしとの診断を受け、皆が顔を合わせて安心し合った。
大きな山を無事に超えた。
そんな空気が漂っていた。
「……アーシャが目を覚まさない……」
しかしどれほど待っても、緑の瞳が開かれることはなかった。
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