24.聖女、戸惑う

温かく自分を包む神気を感じ、アーシャはうっとりと微笑む。

(ゼンだ)

この気配は間違いない。

まだ微睡から覚めきれないままに、アーシャは手を彷徨わせる。

「アーシャ、おきたのか?」

たった三日程度離れていただけなのに、その声を聞いただけで、心が熱くなる。

大きな手が自分の手を包んでくれたので、思い切り握り返す。

「……じぇん……」

何とかそう呟いたら、意識が急激に覚醒に向かう。


まだくっついていたいと訴える瞼を引き剥がすと、暗闇だった視界に光が差し込む。

「ふわ……」

その強烈さにアーシャは一度強く目を閉じ、今度は慣らすように、ジワジワと目を開ける。

(眩しい……朝……?)

活動を始めたばかりの頭では、現状を理解できない。


———アァシャ、太陽ジャナイヨ

そんなアカートーシャの言葉に、そう言えばこの国の明かりは眩いんだったと思いつつ、アーシャは何とか目を開ける。

「……じぇん……」

しかしはっきりとした画像を結び始めた目に映ったのは、明かりなどではなく、一番会いたかった人だった。


元々強烈だった神気が、研ぎ澄まされたように明るさを増し、光り輝いている。

「おはよー、アーシャ」

真っ白な歯を見せて、その人は笑う。

その顔はいつもと変わらない。

「ゼン!ゼン!ゼェェン!」

完全に目が覚めると同時に、アーシャは飛び上がって、その首っ玉にしがみついた。

「ゼェェェン!!」

まるで三年ぶりのように、再会の喜びが噴き出してくる。


会いたかった。

ちゃんと我慢していたよ。

みんないてくれたけど、やっぱり寂しかったよ。

そんな言葉にできない思いを込めてゼンにしがみつくと、ゼンもアーシャを抱き返して、背中を軽く叩くようにして、さすってくれる。

ゼンの神気は強烈になっても尚、いつも通りにアーシャを温かく包む。

「よくねてたな〜」

肌を介して、直接響いてくる声が心地良い。


「ホレ、チビ」

感動に任せて、ゼンの首を締め上げていたアーシャだったが、ペリッと後から引き剥がされてしまう。

「ゼンッ!」

寝起きで全く力がこもっていなかった手は、あっさりとゼンから引き剥がされてしまう。

慌てて手を握りしめても間に合わなかった。

「ゼ〜〜〜ン」

「すぐにもどるよ」

アーシャは必死に手を伸ばすが、ゼンは優しく頭を撫でただけで、きびすを返す。


「ゼン〜〜〜?」

声をかけると、ゼンは一度だけ振り向いて、笑いながら手を振ってまた歩き出す。

ゼンは真っ白な、こちらの国の民族衣装と思われる服を身につけている。

肌を刺すような風が吹いている中、たった一枚だけの簡素な服はいかにも寒々しい。

アーシャなんか薄い服を三枚重ねた上に、ふかふかの上着まで着せてもらっているくらいなのに。


寒さを感じていないかのような、悠然とした歩みの先には、恐ろしく透き通った広い川が流れている。

「ユズゥ、ゼン?」

自分をゼンから引っ剥がしたユズルを、アーシャは見上げる。

こんな寒い中、見るからに薄着で、冷たい水の流れに向かっているのか疑問だったのだ。

「うひ〜〜〜、さむそ〜〜」

隣からよく知った声が聞こえて、そちらを見ると、

「ユッキー?ミニェコしぇんしぇー?」

少し風変わりな格好をした二人を見つけた。


シノザキの服は、生前のアカートーシャが身につけていた衣装に形は似ているが、色が全体的に暗い。

先程『くるま』の中で見た夜空色の上着の下は、いつも華やかな色彩の彼女が選んだとは思えない灰色と黒の、地味な配色のスカートだ。

いつも裾を風に自由に遊ばせているのに、このスカートは柔らかさとは無縁の、直線的なプリーツが入った重そうな生地で、くるぶしのあたりまで覆い隠しているので、風が吹いてもほとんど動かない。

「………?」

しかも書き足したのか、いつもと違う濃ゆい眉が、妙に存在感を放っている。

重い色を着ているのも相まって、まるで男性のように感じてしまう。

スカートを履いているのに、そう思ってしまうのはおかしいが。


ミネコの方はベール付きの帽子を被っているのだが、これは貴族女性が被るような、華やかなベールを垂らしたそれとは全く違う。

どちらかと言うと、修道女の被るウィンプルに、広いツバと濃いベールを着け加えた感じだ。

丈の長い黒の外套、その下から覗く女性用とは思えない重さを感じる靴と合わせると、星球武器モーニングスターが似合いそうな強者の風格がある。


「???」

見渡せば周りには沢山の人がいる。

二十か三十はいるだろうか。

これだけの人がいるのに、誰もが微動だにせず、お喋りもせず、真面目な顔でゼンを見ている。

老若男女がいるのに、皆が同じような顔でゼンを見つめ続けているので、アーシャは少し怖くなってユズルを見上げる。

「ユズゥ、ゼン、たいじょーぶ?」

そう聞く間も、ゼンは迷う事なく川に向かっていっているので、アーシャはハラハラとしてしまう。


「………………」

ユズルはアーシャの問いに答えない。

ただ、物凄く複雑そうな顔をして、目を伏せる。

「ゼン?」

ゼンは川際にある棚から、根元に白い紙が結び付けられた木の枝を取り、それを捧げながら深々と頭を下げる。

それと同時に朗々とした彼の声が響き始める。


枝を片手に構え、彼は歌いながらゆっくりと動く。

(……民族的な舞踏……?……何かの儀式……?)

アーシャは戸惑いながら、その様子を見守る。

———ソノ身ヲ清メ、洗イ流スヨウニ、神ニ請イ願ッテイル……ト思ウ

アカートーシャが少し自信なさげに教えてくれる。

(えっと……それはお風呂的な……?)

すっかりこの国に馴染んできたアーシャの脳裏には、清めると聞いて、毎日入るお風呂が頭に思い浮かぶ。


———今ノ言葉トモ、私タチノ言葉トモ違ウカラ、自信ハナイノダケド……

アカートーシャはそう前置きする。

———川?水流?……ノ、女神ニ請願シテイルミタイ

(川の女神………え!?じゃあ洗い流すって、川で洗うってこと!?)

アカートーシャの言葉に、アーシャはギョッとしてしまう。

普通の空気中にすら、小さな棘が入っているのではないかと思うほど、寒さが刺さるのに、川に入るなんてとんでもない。


しかしそう思うアーシャの前で、ゼンはゆっくりと舞いながら、川の中に身を浸していく。

ゼンは真っ白な息を吐きながら、流れをかき分けて、進む。

彼に当たった水流が、弾き返され、山の稜線にかかった夕陽を反射しながら弧を描く。

幾粒もの水の玉が光を弾きながら飛び、まるでゼンが光を生み出しながら踊っているようだ。


ゼンから神気が立ち昇り、それに反応するように、大地から、川の流れから、力が噴き上がってくる。

舞い上がった水の玉の一つ一つが、力を帯び、ゼンにぶつかって形を崩す度に、彼の体から黒いもやを追い出していく。

———凄イ……清メラレテイル……

アカートーシャが感動したように呟く。

それは確かに神々しいとも言える光景だ。


「ゼン」

しかしアーシャにはすっかり色を無くしている、ゼンの唇の方が気になる。

過去、アーシャも毎日毎日、朝一番から沐浴させられていた。

ゼンとは違って、風を凌げる屋根や壁のある場所で、水も地下水だったので、一年を通してそれ程寒さに変化はなかった。

それでも指先の感覚を失うほど冷たくて辛かった。

この吹きっ晒しで、どれほど冷たくなっているかわからない川の水なんて、絶対に辛いに決まっている。

最初は白く吐き出されていた息が、見えなくなっている。

内臓まで冷やされてしまっているのではないだろうか。


全身に自分の神気と、水に含まれた神気を纏い、ゼンはゆっくりと元の位置に戻ってくる。

そして手に持った枝を振って、その水を集まっていた人々に振りかける。

皆、頭を下げて、その水を有り難そうに被っている。

「………ッ」

少しだけ頬に触れた水は、切れそうな冷たさだ。

そこから、その冷たさと同じように澄んだ神気が溢れ出てくる。


「ちべたっっ!!」

「しっ!」

隣のシノザキが声をあげて、ユズルに嗜められている。

外で、これだけの人間がいるのに、小さな呟きすら皆に聞こえそうな、細い糸を限界まで伸ばしたような緊張がある空気だ。


ゴクンとアーシャは唾を飲み込む。

どう見ても何かの儀式中で、余計な事をしていけないのは何となくわかる。

しかし微かに震えているゼンの声と、真っ青になったその爪を見て、アーシャは大きく息を吸い込む。


アーシャに体を温める能力などない。

しかし体に活力と血を巡らせる事はできる。

幸い、ここは力に満ち溢れている。

治癒の力を最大限にぶち込んでくれる。

「もぁっ!!」

そう思って声を出そうとした瞬間、大きな手で口を塞がれてしまった。


「んんん!んゆぅ!」

アーシャは妨害した人物を睨みつつ、離してくれとばかりに、その手を叩く。

「……………」

「………んんんっ」

しかし数十倍の怒りを込めた視線に威圧されてしまう。

(そうだった……人前でやっちゃダメなんだった……でもでも、ゼンが凍えちゃうし……)

一瞬しょぼんと反省するが、やはりゼンの姿を見ると諦め切れない。

未練がましいアーシャの視線に、ユズルは小さくため息を吐く。

「いーから。みてろ」

そして彼は小さくアーシャに耳打ちした。


———今ハ大人シクシテオイタ方ガ良イカモ

アカートーシャにもそう言われてしまい、アーシャはユズルに押さえられた口を尖らせつつも、ゼンを見守る。

人々へ水を振りかけながら、奥へ移動していたゼンは、踊りながら、ぐるりとこちらを振り向く。

そして一度、二度、三度と足を強く踏み締めた後、最初と同じように、枝を捧げ持ち、深く頭を下げる。

朗々と紡がれていた歌も終わりを迎えた。


「ふっ!」

そう思った次の瞬間、足がもう一度強く踏みしめられ、捧げ持っていた枝を、空気を真横に斬るように鋭く振りかぶった。

「………………!!」

それと同時にゼンの神気と周りから溢れ出てきていた神気、そして川の水に染み込んでいた神気が一気に皆の間を駆け抜ける。

とんでもない豪風を浴びたかのような衝撃が体を通り抜け、走り抜けていく。

「……………!?」

思わずアーシャは目を閉じたが、実際には風など吹いておらず、髪一本揺れていない。

しかし魂が揺さぶられるような衝撃だった。


———一瞬デ清浄ニ……

アカートーシャが呆然としたように呟く。

彼女の言う通り、ゼンが放った神気は一帯を洗い流してしまった。

空気が恐ろしい程澄んでいる。

では押し流された物はどこへ行ったのだろうと、振り向くと、清流が全てを飲み込んでいる。


ゼンは川岸に戻り、深々と頭を下げた後に、手に持っていた枝を、元の棚に戻した。

それが合図であったかのように、大きな布を持った男たちが駆け寄り、それでゼンを包む。

「ゼンッ」

ゼンは微かに震えているようだが、かけられた布に包まり、アーシャに向かって、笑顔で手を振る。

アーシャも必死に手を振りかえし、その体を温めんと体を伸ばすのだが、

「ぬれるって」

ユズルに抱き直されてしまう。


「ユズゥ、ゼン!ゼン!!」

小さいが自分はとても温かい自信があるし、くっついていれば、周りにバレずに力を注ぎ込むことも可能だ。

そう思ってゼンを指差しながら、彼に自分を渡してくれと要求するが、ユズルは首を振るばかりだ。

「ゼン〜〜〜〜!」

そうこうしている間に、人々に囲まれ、ゼンが移動してしまう。

精一杯呼んでも、笑って手を振られるだけだ。


「すこしのあいだのがまんですよ」

そう言ってミネコが慰めるように頭を撫でてくれる。

(わがままじゃないんだよ〜〜〜!ゼンを温めたいだけなのに〜〜〜!!)

言語が通じないと言うのは、もどかしい。


———アァシャ、落チ着イテ。スグニ帰ルッテ言ッテイタワ

アカートーシャが苦笑混じりに、ついて行きたくてたまらないアーシャを諌める。

「う〜〜〜〜〜」

ゼンに対する心配と、力はあっても結局何もできない自分と、言葉が通じないもどかしさで、ぐちゃぐちゃなまま、アーシャは唇を引き結ぶ。


ゼンの所に走っていくとでも思われているのか、いつもはあまり抱いたまま移動しないユズルは、しっかりとアーシャを固定していて、地面に下ろす気配がない。

(普段の行いのせいか、信用ない)

———……アァシャヲ心配シテイルノヨ

アーシャが口を尖らせると、アカートーシャが困ったように、そう告げる。

(流石に今からゼンを追いかけようとは思わないよ……)

ゼンは幾重にも布をかけられながら、行ってしまった。

見えなくなってからも闇雲に追いかけるほど子供ではない。


しかし逃亡を警戒してか、ミネコとシノザキが左右を固めている。

ミネコはユズルの左腕に抱かれたアーシャのすぐ隣を、シノザキは半身がユズルにかかるように、右斜め前を歩く。

たまたま譲の左右を歩いているのではなく、アーシャの左右を固めているとわかる位置取りだ。




アーシャがようやく解放してもらえたのは、見覚えのある家の中に入って、引き違いのドアに鍵をかけてからだ。

「はぁ〜〜〜〜」

「ふわぁ〜〜〜」

アーシャとその他の荷物を下ろして、ユズルとシノザキは大きく息を吐く。

「おじゃまします」

ミネコはいつものように淡々としている。


(ここは、最初の家だ)

玄関先に下されたアーシャは周りを見回す。

この国に来てすぐに、ゼンと過ごした家だ。

『アァシャ』

懐かしい気持ちで周りを見て回っていたら、奥からスルスルと芋虫毛を生やした白蛇が姿を現す。

「バニタロ!」

かなり久しぶりに会った気がして、アーシャは駆け寄る。


「【何でここにいりゅの?ゼンと一緒じゃにゃいの?】」

いつもは姿が見えないことを良い事に、ゼンにベッタリなのに、珍しい。

『ココ、バニタロー、見ル人間、多イ。拝マレル、嫌』

バニタロはうんざりといった様子で左右に揺れる。

どうやらバニタロは、ここでは神様のような扱いを受けてしまうようだ。

ただゼンのそばにいたいだけのバニタロは、それが迷惑らしく、うんざりしている。


「【モモタロは?】」

もう一人(?)、ゼンにウキウキとついて行ったはずの、姿が見えない仲間をアーシャは探す。

『……ウン……自信喪失、中』

バニタロは瞼がついたことで表情豊かになった顔に、気まずそうな表情を浮かべる。

そしてついて来いとばかりにスルスルと移動する。


バニタロが導いたのはアーシャが寝起きしていた部屋だ。

その片隅に、ゼンの荷物がまとめられていて、モモタロの本体が入っている箱も、そこに置いてある。

その箱の上に、肩を落として丸くなってモモタロが座っている。

「モモタロ?」

声をかけると、小さな肩がビクリと動き、いつもの元気さが消え失せた顔がこちらを向く。

「【ど……どうしちゃの!?】」

あまりにげっそりとしてしまった姿に、アーシャは駆け寄る。


両手の人差し指でモモタロの両手を取れば、モモタロの目からブワッと涙が迸る。

『う………う………主人の……主人の……愛刀ほんめいは……愛刀ほんめいは………妾じゃなかったのじゃーーーーーー!!』

「ぎゅはっ!!」

慰めてくれとばかりに飛び込んできたモモタロを、顔面で受け止めつつ、アーシャは両手でその体を支える。


『妾と段違いの、勝負にもならんくらいの、霊剣がおったのじゃーーーーー!!妾、主人の愛刀としてついていこうとしたんじゃが、軽く弾き飛ばされてしまって……ここでお留守番なのじゃーーーー!!』

ピーとモモタロは泣き声を上げる。

「【剣………?あ……あの剣……!?】」

自分の鼻に抱き付いて、声をあげて泣くモモタロの言葉に、アーシャは記憶を掘り起こす。

ベルが沢山ついた神具と一緒に安置してあった、凄まじい力を持った剣だ。


———ソンナニ凄イ剣ガアルノ?

(うん。モモタロみたいな姿はないけど、意思を持っていそうで、ゼン以外の人は持てなさそうな、凄い剣があった)

物凄く気難しいタイプの神具だ。

『主人の浮気者〜〜〜〜!妾に名をつけたくせに〜〜〜!でも格が違いすぎて何も言えない〜〜〜!!』

アーシャとアカートーシャが会話を交わしている間も、モモタロはワンワンと泣き続けている。


「【モモタロ、でもゼンの一番近くにいられりゅのは、モモタロだよ】」

あの大きな剣は、とてもじゃないが持ち歩けるものではないし、気楽に持ち歩いたら、物凄く怒りそうな気がする。

『うぅ……』

ぐすんぐすんとモモタロは鼻を啜る。

「【多分あの剣は、時々力を貸してくりぇりゅ存在?みたいな感じで……えっと……なんて言うのかな……モモタロみたいにゼンを守りゅ剣じゃなくて……そう、お役目のために一時的に手を組む!……みたいな】」

モモタロの目から溢れる涙が落ち着いてくる。


「【ゼンを守りゅと言う意味ではモモタロが一番の剣だよ!】」

そう言うと、モモタロの目に光が戻る。

『………もっと言ってたも』

袖で涙を拭いながら、モモタロは呟く。

「【ゼンを守っていりゅ剣はモモタロだけだよ!モモタロが守りゅ剣、第一位!】」

言葉を連ねながら、

(これって何か愛人を応援する不埒者っぽい……?)

なんてこともチラリと思ってしまう。


『モモタロウ、泣ク、激シイ。器物、主人ノ物。変ワリナイ』

呆れたようにバニタロは呟く。

何番目だろうと主人の物である事に変わりはないのだから、気にする必要はない、と、いうのが、バニタロの主張らしい。

『バニタロのアホアホ!主人の物に変わりなくても、その中で一番でいたいのが刀心カタナゴコロじゃ!他の武器になど負けたくないぃぃぃ!』

バニタロの感覚に比べると、モモタロの方が、かなり人間寄りだ。


『アァシャ、アァシャ、今日は主人の眠りを妾に守らせたも!連れて行ってたも!』

「【えぇ……う〜ん、そうしてあげたいけど、私も今は何が何だか……】」

気がついたらゼンがいて、すぐに不思議な儀式が始まって、ゼンと別れてしまった。

再び会えるかも良くわからない。

自分が置かれている状況が、よく飲み込めていないのが現状だ。

『連れて行ってたもっっ!!妾、このままじゃ折れてしまう!!おーれーるー!おーれーちゃーうー!!』

しかし元気に床を転がり始めたモモタロの言葉を断りきれない。


「【う〜ん……うん。なるべく頑張りましゅ】」

困ったあげく、遂にアーシャは安請け合いしてしまったのであった。

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