17.聖女、部屋を得る
ゼンは誰にでも優しい。
家路の途中で、ゼンは数件の家に寄り道した。
ちんまりとした佇まいだが、冬でも咲く愛らしい花が植えてある家。
木材が朽ちてしまわないか、少し心配になる古い家。
大きな塀に囲まれた四角い家。
どうやら彼は老人に品物を配布して回っているようだった。
(流石ゼン!!皆を助けているのね!!)
アーシャは尊敬の眼差しをゼンに向ける。
「おそくなってごめんな」
すっかり落ちてしまった日を見て、ゼンは申し訳なさそうにアーシャの頭を撫でる。
温かな手に頭を包まれると、外気で冷えた頭にじんわりと熱が伝わってきて気持ちが良い。
「ゼン、『たのし』、ね」
老人たちはゼンのことが大好きなようで、彼が家を訪れると目尻を下げて、嬉しそうに迎え入れ、盛んに話しかけていた。
まるで遠征に出ていた息子を迎え入れる親のようだった。
そんな様子を見るだけでもアーシャは嬉しかったのだが、彼らのゼンへの好意の恩恵に、彼女も預かってしまった。
最初の家ではアーシャが座り込んで花を眺めていたら、老女がアーシャの手を引いて庭を見せてくれた。
とても冬とは思えないほど華やかな庭にアーシャが喜ぶと、花を掘り起こしてまで、プレゼントしてくれようとした。
慌ててゼンが止めたので、花が掘り起こされることはなかったが、それならばと言うように、食べ物らしき物を沢山持たせてくれた。
次の家では恰幅の良い老婦人に「まぁ〜!まぁ〜!」と、言いながら抱き上げられ、可愛がられまくってしまった。
アーシャとしてはゼンと同じように親しくしてもらって嬉しかったのだが、ゼンはかなり落ち込んでいた。
実は事前にゼンに依頼されて、アーシャは彼に張り付いて神気を押さえ込んでいたのだ。
アーシャが離れてしまったせいで、力の均衡が取れなくなってしまったゼンは、猫に触れようとした寸前で逃げられてしまった。
猫に逃げられて肩を落とすゼンに、老婦人はカラカラと笑い、ゼンとアーシャに「あめたん」という甘やかな香りのする、小さなリボンのような包みを沢山くれた。
三軒目は、二軒目のお隣さんだった。
ゼンは何か板のような物を恰幅の良い婦人に託されていた。
三軒目の主人は少し気難しそうな老紳士で、口調は少しつっけんどんな感じがしたが、盛んにゼンに話しかけていた。
彼らが話している間、アーシャは見事な陶器が庭先に放置されていたので、不思議に思って覗き込んでいた。
透き通った水越しに見える、底の丸い小石。
優雅に水面を泳ぐ、円形の丸い葉。
石を組み合わせた小さな島。
そこから青々とした茎を伸ばす植物。
小島から水面に向かって伸びる、流木の桟橋。
そして流木や緑の下を、小指よりも小さな魚が泳ぎ回り、波紋を作っている。
その中には美しい風景が詰まっていた。
まるで森の中の清浄な池が、陶器の中に収められているようで、アーシャは目が離せなかった。
気難しそうな老紳士は、いつの間にかアーシャの隣に座り、言葉がわからなくても、根気強く、色々と陶器の中の池を解説してくれた。
その上で、やはり食料を沢山持たせてくれた。
おかげさまで、アーシャ用の袋は随分膨れてしまった。
(こんなにいっぱいあったら、みんなに沢山お裾分けできるわ!)
みんなが喜んでくれるかと思うと、アーシャはにやけてしまう。
シノザキやイズミ、ケーは別の家で暮らしているのだが、よく一緒に夕飯を食べるし、ケーとは最近一緒にお風呂に入っている。
最早家族のような存在だ。
(みんなが来るまで、この袋をどこに置いておこうかな)
『りゅっく』をかけている所に一緒に掛けておくのも良いが、どこかに隠しておいて、驚かせたい気持ちもある。
(小分けにしておいて、一人づつに渡せると更に良いんだけど)
折角だからプレゼントのようにできないだろうかとアーシャは考える。
———『ちらし』デ フクロヲ ツクレルヨ
夢が膨らむアーシャに、アカートーシャが助言してくれる。
実は、食べ物が描かれた色彩豊かな紙『ちらし』を、アーシャは密やかに集めている。
混沌と色々な物が描いてあって、賑やかで可愛いのだ。
(じゃあ帰ったら用意して、『だんぼぉる』に隠しておこう!)
錫杖や宝物入れ、文字の練習帳、ユズルに作ってもらった人形に、『もちもち』。
今やかなりの物持ちになってしまったアーシャは、家にあった『だんぼぉる』という箱を貰い受け、これらを管理している。
(お風呂……で作業したら変に思われるよね。『といれ』で食べ物を扱うのはちょっと…… やっぱり卓の下とかかなぁ)
隠す場所が決まっても、隠れて作業する場所は中々思いつかない。
(喜んでくれるかなぁ〜)
出来上がったものを受け取る顔を思い浮かべて、アーシャはにやける。
昔は何一つ持っていなかった自分が、こんなに物持ちになり、大好きな人たちにプレゼントまでできるようになるなんて。
アーシャは体の中を蝶がはためくような高揚感を感じる。
「アーシャた〜ん!おかえり〜!」
家の扉を開けると、いつもは夕飯時にやってくるケーに、両手を広げて出迎えられた。
こっそりとプレゼントを用意しようと思っていたアーシャは慌てて袋を背中に移動させる。
「ケーオネチャン!ただーま!」
そして彼女の腕の中に飛び込む。
彼女の両手は、そうするのが当然と言うように、アーシャを抱きしめてくれる。
「アーシャたん!ユッキーもはぐはぐ〜!!」
シノザキも既に来ていたらしく、奥から走り出てきて、大きく手を広げる。
「ユッキー、ただーま!」
シノザキは羊の毛皮をそのまま被ったような服で、ふかふかだ。
その割に、飛び込むとケーよりかなり硬いのは何故だろう。
「?」
いつも陽気な二人だが、今日は更に浮かれているような気がする。
弾むような足取りだし、言葉の端々が踊っている。
後ろをついてくるゼンも、心なしか、いつもより笑っている気がする。
二人揃ってのエスコートで手を洗い、口を濯ぐと、アーシャは抱き上げられる。
「みちゃだめ〜」
「ないしょないしょ〜」
そして何故か手で目隠しをされる。
「????」
シノザキに抱き上げられ、ケーに目隠しをされたアーシャは首を傾げる。
視界を遮られても、二人にされる事なので、怖いことは何もない。
『何やら我がかぬちが盛り上がっとるの〜……って!!おぉぉぉぉ!!』
『オォォォ!部屋、増エタ!!』
しかし先行したモモ・バニ組の盛り上がりに、そわそわしてしまう。
「じゃじゃじゃ〜〜〜ん!!」
「アーシャちゃんの!だよ〜〜!」
そんな中、パッと手が離れ、一瞬明るさに目が眩む。
「…………。わぁ〜!」
目を何回か瞬かせた後に、アーシャは目を見張る。
部屋の壁の中で、一部分だけ木の板になっている部分があったのだが、そこが綺麗に取り払われ、真っ白な部屋が新たに姿を見せていた。
その部屋は小さなクロークや棚、そしてアーシャの上着が掛けられたハンガーがある一階、そして斜めに掛かった踏み板の広い梯子で上がる二階に分かれている。
二階には貴族のバルコニーのようなお洒落な柵が付いていて、棚やクッションが並んでいる。
梯子も、手すりも、中に入っている家具も、壁紙も真っ白で、真新しく、清潔感がある。
(でもちょっと小さいかも?)
アーシャであればいざ知らず、他の者が入るには高さも広さも足りない気がする。
小柄なケーやシノザキでも、しゃがまないと入れそうにないし、ゼンやユズルが入ったら身動きが取れなさそうだ。
「はい!アーシャちゃん!」
「のぼって、のぼって〜!」
そんな事を思いながら部屋を観察していたアーシャは、梯子の所に下ろされる。
———アガッテホシイ ミタイ ヨ
「???」
良くわからないが、アカートーシャに促され、アーシャは真新しい梯子を登る。
手触りが優しく、踏み板には滑らないように布が引いてある。
その上、アーシャにあつらえたように、登り易い間隔なので、スイスイと登れる。
「……わぁ!」
登りながら上を見ると、真っ白な壁紙の中、天井だけが空色で、沢山の星が瞬いているような柄が入っている。
「『かわいーな』ぁ!」
家の中なのに空が広がるなんて、素敵だ。
感動しながら登り切ると、梯子正面の、小さな飾り棚がアーシャを出迎えてくれた。
そこには『だんぼぉる』に入れていたはずの、ユズルが作ってくれた、手袋の人形たちが仲良く腰掛けている。
「うわぁぁぁぁ〜!!」
しかも彼らが腰掛けているのは、小人サイズの可愛らしいソファーだ。
人形の表情が変わるはずがないのに、心なしか嬉しそうにしている気がする。
そんな彼らの頭をアーシャはそっと撫でる。
「わぁ……!!」
そして二階を見回して、歓声を上げた。
ぐるりと部屋を囲む、愛らしい模様の入った白い柵。
その先には、可愛い柄の布に包まれたマット。
マットの上には『もちもち』と、可愛らしいフリルのついたクッションが並んでいる。
マット隣の柵側には、三段の棚と、台が並んでいる。
棚にはアーシャの宝物箱や『ちらし』が置いてあり、台には小さな本棚があって、アーシャの文字の練習帳が並べられている。
(ここ、私の物が並べられている)
『だんぼぉる』に入っていた物が、全部ここに並べられている。
そういえば下の階も、アーシャの服や錫杖が並んでいた。
(もしかして……もしかして……)
ドキンドキンと自分の心臓の音が鼓膜を動かす。
「アーシャたん、アーシャたん」
新しい部屋を見回すアーシャに、柵の向こうからシノザキが声をかけてくる。
彼女はヒラヒラと手を振ってから、柵の外側にあるレースのカーテンを一度閉めて見せる。
そうしてから、少しだけ開いて手を振る。
「ど?アーシャちゃんの、へ・や!」
レースのカーテンは透けて見えるが、閉めると外界から隔絶された『部屋』になる。
「『アーシャの』?『ここ』、『アーシャの』?」
そう尋ねる声は少し震えてしまった。
「そー!」
「アーシャちゃんの!」
「アーシャのだぞ〜」
シノザキの後ろでケーとゼンも嬉しそうに笑っている。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
血が一気に駆け上がってきて、身体中が熱くなる。
「『アーシャの』……!!」
アーシャは既に家族として迎え入れられていると感じていた。
しかしここにきて、家の中に明確な『自分のための場所』が作られた事に、胸が熱くなる。
『改めて受け入れられた』感覚とでも言えば良いのか。
ここが自分の居場所だという根拠が貰えたといえば良いのか。
改めて、ここがアーシャの居場所なのだと、家族なのだと言われた気がする。
「アーシャ!?」
「「アーシャたん!?」」
驚いた皆の顔が歪む。
「あ、あっ、うぅっ」
気がついた時には頬に熱いものが伝っていた。
「どうした!?」
シノザキを押し除け、レースのカーテンを手荒に払って、柵の外からゼンの腕が伸びて、ふわりとアーシャは宙を移動する。
「だいじょーぶか!?」
ゼンは大慌てで、アーシャを抱きしめる。
「じぇ、じぇん………たのっ、たのしっ、たのしっっ」
喜びが喉に詰まって、上手く声が出せない。
嬉しくて堪らないのに、それを伝えたいのに、次から次に涙が溢れて止まらない。
顔は緩むのに、しゃっくりで体が引きつる。
「へっ!?たのしー!?」
何とか言葉が通じたらしいゼンが驚いた顔でアーシャを覗き込む。
アーシャは必死に頷く。
頷いて、ゼンにしがみつく。
「ふっ……うぅ……あいっ、あいがっっと!ふ……あいが……っっと!」
あとは吠えるように、そう言うしかできない。
アーシャが登り易いように作られた梯子、ソファーに座らせてもらった大切な人形たち、真新しいクッション、愛らしい柄のマット。
どこを見ても、どれだけアーシャの事を考えてくれているのかがわかる。
ここでのアーシャは小さくて無力で、ろくな手伝いもできない、無駄飯食らいだ。
そんな『聖女』ではない、役立たずなアーシャの事を考えてくれている。
物で愛情を測るわけではないが、これだけのものは愛情がなくては、用意できないだろう。
胸が温かいを通り越して、熱い。
目も涙で熱い。
「アーシャ、アーシャ」
そんなアーシャの肩をゼンが優しく叩く。
「ふぐぇっ……?」
ゼンが指差す先には、嫌そうな顔をしてソファで寝そべっているユズルがいる。
その隣には困った顔をして笑っているイズミもいる。
「アーシャの、へや、ユズルとイズミがつくったんだ」
ゼンがそう言うと、ユズルはますます不機嫌そうな顔になる。
「ゆ……ゆじゅう……いじゅに……?」
部屋とユズルたちを指差して聞くと、ユズルはムッツリとして黙ったままだったが、隣のイズミが困った顔をしながら、小さく頷いた。
アーシャが二人に手を伸ばそうとすると、心得たゼンは、アーシャを下ろしてくれる。
「あいっ……あい……あどっ……あいがどっ」
差し出されたイズミの手と、腕を組んだまま寝転んでいるユズルの頭に触れて、アーシャは感謝の言葉を告げる。
拙い言葉では伝わりにくい心が、触れた所から流れ込んでくれとアーシャは願う。
『アァシャも遂にヤシロ持ちかえ〜良いの〜』
『モモ、社、欲シイ、カ?』
『別にヤシロとまでは言わんが、主から離れると身の置き場がなくての〜。バニもあの
『社ツク、力増エル。デモ自由、ナイ、ナル。バニタロウ、主ト一緒。重要』
常人には見えないモモ・バニ組は、真新しい部屋を探検しつつ、呑気にそんな会話を交わしている。
『んんんんん!?こ、ここここれ!!これこれこれ!これは!!』
アーシャが感動に震えているのもお構いなしだったモモタロは、俄かに騒ぎ始めた。
グシュグシュと涙を拭いながら、アーシャは彼らの方を見る。
一階の洋服などが掛けてあるスペースに、蓋の開いた美しい木箱が置いてあるのだが、そこからモモタロの尻と、バニタロの尻尾が生えている。
『桐っぽい材木!この長さ!そして中の刀受け!……ま、ま、間違いない!間違いない!!これは……』
『刀箱ダ』
『バニ〜〜〜!!キメ台詞をとるな!!』
バタバタと足をばたつかせるモモタロに、鎌首を持ち上げて逃げるバニタロ。
「?」
見覚えのない、あの箱は何だろうとアーシャは彼らに歩み寄る。
「わぁ……!!」
そしてその美しさに目を見張る。
外側は白肌の木目に、美しい花の彫刻が施されている。
箱と蓋を繋ぐ蝶番は本当に蝶の形になっていて、箱の角を補強する隅金具も、美しい蝶の羽を思わせる紋様が刻まれている。
箱の中には、モモタロの着物と同じ柄の布が貼られ、その上に、丁度刀が納まりそうなくぼみがついている。
「かたなばこだよ〜〜〜」
細やかで美しい箱に見惚れていたら、ゼンを連れてきたシノザキがそう言う。
「ほら、ゼン!」
声をかけられたゼンは、もそもそと服の中に手を突っ込んで、モモタロの本体を取り出し、ベルトを外す。
「わ〜〜〜〜!!」
『ふわぁぁぁぁぁぁ!!』
モモタロが収まると、更に箱が華やぐ。
最初からここにモモタロが収まることを前提に作られた、彼女のための箱なのだ。
『刀箱!刀箱!かぬち!かぬち!嬉しい!嬉しいぞぉぉぉぉ!!』
アーシャと同じく、家の中での居場所ができたモモタロは物凄い勢いで飛び回る。
その動き、蝿の如し、だ。
(何か……思っていたベッドじゃないけど……モモタロ、嬉しそうで良かった)
今、モモタロの喜びを、一番理解できるであろうアーシャは微笑む。
「ユッキー、モモタロ、あいがとー!」
もちろん彼女の感謝の言葉を、代わりに伝えることも忘れない。
シノザキは真っ白な歯を見せて、満面の笑みを浮かべる。
「これわさんにんがっさくね。ユッキー、ユズル、イズミがつくったの」
そして彼女は自分とユズル、イズミを順に指差す。
———サンニンデ ツクッタンダッテ
アカートーシャがすかさず通訳をしてくれる。
「………!あいがとー!!」
アーシャの居場所も、モモタロの居場所も作ってくれた。
改めて感謝を示すために、アーシャは一人一人を抱きしめる。
「や・め・ろ」
しかしユズルには顔面を押さえられて拒否されてしまった。
「へ〜、へ〜、へ〜」
そんなユズルを、ニヤニヤと笑うシノザキが覗き込む。
「うぜーぞ」
アーシャの顔は手で押さえられたのだが、シノザキの顔には足が繰り出される。
レディにそれはないと思ったのだが、シノザキはそれをひらりと避けて、アーシャの部屋に手を突っ込む。
「アーシャた〜〜〜ん」
二階の柵の中を探ったシノザキは、人の悪い笑顔でアーシャを呼ぶ。
「はい!」
アーシャは返事をして、彼女に駆け寄る。
「うふふふふふふ、はい、どーぞ!」
するとアーシャの前にオルゴールくらいの大きさの箱が差し出される。
「わぁ!」
間仕切りのある透明な箱なのだが、その蓋には煌めく美しい石が散りばめられており、まるで宝石の畑のようだ。
左上の部分に、それらの宝石たちを統べるように、宝石の花が咲いている。
「…………!!」
アーシャは目を見開く。
真珠のように光のあたり具合で微妙に色が変わる、濃い紫の花。
これには見覚えがある。
「これ、アーシャたんの!たからものばこ!」
自分のものだとシノザキに聞いて、アーシャは後ろを振り向く。
これは確か、ユズルと買い物に行った時に、アーシャに選ばせてくれた花だ。
ソファに寝そべったままのユズルは渋い顔をしている。
「ゆ・ず・る・がつくったの!ゆ・ず・る!!」
シノザキがそう言うと、ユズルの眉根の皺が深くなる。
「っっっ!!」
不機嫌そうなユズルが口を開く前に、アーシャは走り出した。
そして勢いそのままに、大きくジャンプして、ソファに飛び越えてユズルに抱きついた……
「うぐっっ!!」
つもりだったが、残念な跳躍力がそれを阻害し、顔面を彼の腹に打ちつけただけで終わってしまった。
「チビ!」
そのままたたらを踏んで転けそうになったアーシャの首根っこを、ユズルが捉える。
「うぅぅぅ………ゆひゅう、あいがひょ……」
アーシャは顔を押さえながらも感謝を告げると、ユズルは大きくため息を吐いた。
「………いいから。チビわいったんおちつけ」
自分の身体能力をもっと上げないと、感謝もおちおち伝えられない。
「アーシャちゃん、だいじょぶ!?」
「だいじょーぶか!?」
アーシャは心配そうな顔をしたケーやゼンに囲まれてしまった。
『アァシャ、アァシャ、わらわの刀箱は、主の枕元に移動してくれんかの〜』
ゼンたちによる鼻の点検を終えたアーシャが、早速『自分の部屋』に、おやつを隠しに戻った時、まだまだ浮かれて箱の中を転げ回っているモモタロが言ってきた。
『………アシャ、『もちもち』モ。主ノ枕元、良イ』
少し心配そうにアーシャを見ていたバニタロも、遠慮がちに引越し依頼を出してきた。
———アノ………ワタシハ ズットイッショ ダカラ……
アーシャの真新しい部屋に配置される事を拒否する二人に、アカートーシャは遠慮がちに、とりなすように囁きかけてきた。
(アカートーシャが一緒だと心強いよ!)
姿はないものの、心強い応援である。
(よし!早速こっそりとお礼の品を作るわ!!)
態度で示せないなら品物で。
モモ・バニ組の要望は後回しにしつつ、隠れる場所を手に入れたアーシャは、おやつを入れる袋作りを始めるのだった。
『おりがみ』なるものが、どれ程難しいかも知らずに……。
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