14.連絡帳、記入される
連絡帳。
それは保育園と保護者が協力して子育てをするために必須なアイテムだ。
————————————
<家庭から>
消灯時間 20時 45分
就寝時間 時 分(風呂で寝落ち)
夕食 19時 10分
内容 鍋焼きうどん(うどん、椎茸、ほうれん草、鶏肉、ゴボ天)
朝食 7 時 分
内容 白米、味噌汁(豆腐、わかめ)、ほうれん草のおひたし、目玉焼き、ウィンナー
健康状態 良好
便通 多分有り?
検温 36.8 度
お迎え予定 16時 分
【連絡事項】
園からいただいたバナナを大喜びで食べていました。
(私も一口もらってしまいました。とても美味しかったです)
バナナの皮を食べようとしていたので、
保育園で与える時、注意してもらえると助かります。
先生に教えていただいた百均の練習帳で曲線を一生懸命練習しています。
ものすごいやる気で、上手にできたら嬉しそうに見せてくれます。
教えていただいてありがとうございます!
排便ですが一人でトイレに行くため、よくわかりません。
正確に記入できずすみません。
今日も一日どうぞよろしくお願いいたします。
<保育園から>
健康状態 良好
発熱 なし
授乳状況 -
昼食 大変良く食べていました
便通 なし
【連絡事項】
バナナの件了解しました。
排便などはわかる限りでお願いします。
(急に体調を崩した時、病院への報告がスムーズになります)
書き方の練習を楽しめているようで良かったです。
今日はお遊戯だったのですが、アーシャちゃんはとても楽しそうにしていました!
どうやら音楽に合わせて踊るのが大好きなようです。
お歌もびっくりするくらい上手です!
お遊戯発表会は年少さんに混ぜて行う予定なのですが、
これは年中さん、年長さんでも良かったねと話しています。
お昼ご飯は周りの子供達がつられるくらい美味しそうに食べてくれるし、
他の子が眠れずにいたら子守歌を歌って寝かしつけてくれています。
————————————
<家庭から>
消灯時間 21時 10分
就寝時間 時 分(ドライヤー中に寝落ち)
夕食 19時 30分
内容 白米、味噌汁(えのき、豆腐、ワカメ)、ナスの煮浸し、サバ味噌煮
朝食 7 時 分
内容 ホットサンド(ハム、卵、ツナマヨ、レタス)、コーンスープ
健康状態 良好
便通 多分有り
検温 36.9 度
お迎え予定 16時 分
【連絡事項】
トイレは何とか説明してみたのですが、通じませんでした……
朝ごはんの後に長めにトイレに行くので、排便はおそらくあると思います。
昨日はおやつだと思われる、ホットケーキを持って帰ってきてくれました。
多少ティシュがくっついていましたが、程よい甘さで美味しかったです。
アーシャも大変美味しかったらしく、色々と話してくれました。
幸太君に仲良く遊んでもらっているようで、色々と絵を描いて教えてくれました。
(一見ギロチンっぽい何かで楽しく遊んだようです)
友達の名前が出てきていてとても安心しています。
お遊戯発表会、とても楽しみです!
来月でしょうか?
日付などわかるようでしたら先に知りたいです!!
今日も一日どうぞよろしくお願いします。
<保育園から>
健康状態 良好
発熱 なし
授乳状況 -
昼食 残さず食べました
便通 なし
【連絡事項】
トイレは、今はお互いの信頼を築く方が大切なので、無理に確認する必要はないですよ。
出来たら、くらいでお願いします。
それから、こちらでも気をつけますが、こちらが持ち帰らせたオヤツ以外は、食中毒などの心配があるので、食べないようにお願いします。
(アーシャちゃんは本当にお兄ちゃんが大好きですね!美味しかったからプレゼントしたかったのだと思います!)
ギロチンは……多分滑り台だと思います。
今日は滑り台で『格好いいポーズで滑り下りるごっこ』をやっていたようです。
幸太君が後ろ向きに滑って、乾先生に捕まっていました……。
入園の時に年間予定表を入れ忘れていたようです
同封しましたので、ご確認ください。
お遊戯会では衣装作りがあるのですが、大丈夫でしょうか?
————————————
<家庭から>
消灯時間 21時 分
就寝時間 21時 分
夕食 19時 20分
内容 白米、味噌汁(えのき、麩、ワカメ、大根)、筑前煮、唐揚げ、レタス
朝食 7 時 分
内容 オムライス(ミックスベジタブル)
健康状態 良好
便通 多分有り
検温 36.8 度
お迎え予定 16時 30分
【連絡事項】
今日は布団まで何とか起きていました。
体力がついてきたようです。
年間予定有難うございます!楽しみにしています!
家でも地中から元気に生えてくるタケノコみたいなダンスを披露してくれました!可愛いです!
一通りの裁縫はできるので、衣装作りは問題ないと思います。
ミシンもすぐに借りられる環境です。
昼ごはんに食べたうどんがとても美味しかったらしく、家で沢山語ってくれました。
(給食表を見たらナポリタンでした。麺類は全てうどんと認識しているようです)
明良ちゃんが登園したのが嬉しかったようで、しきりに名前を出していました。
大きい組のお友達の名前しか出ないのですが、同じクラスの子とは馴染めているでしょうか?
今日も一日どうぞよろしくお願いします。
<保育園から>
健康状態 良好
発熱 なし
授乳状況 -
昼食 おかわりしてくれました!
便通 あり・普通
【連絡事項】
タケノコではなく、ミツバチのダンスだと思います(笑)
お遊戯発表会でやるダンスの練習が始まりました!
アーシャちゃんは本当にダンスが好きみたいですね。
朝に時間があるようでしたら、子供向けのテレビ番組を見せてあげると、喜ぶかもしれません。
今日の中華丼はとても美味しかったらしく、おかわりまでしていました!
うずらの卵が特に美味しかったようで、食べた後にビクトリーポーズをとっていました。
同じ部屋の子達もアーシャちゃんが美味しそうに食べるので、つられてモリモリ食べてくれています。
(アーシャちゃんは本当に美味しそうに食べるので、最近は給食室の先生もお昼に覗きに来ています^ ^)
ねんねさんたちは、まだ『集団で遊ぶ』事が得意ではないので、一緒に遊ぶというのは出来ていませんが、アーシャちゃんはとても好かれてますよ。
お昼寝の時はアーシャちゃんを取り合っています
————————————
<家庭から>
消灯時間 21時 分
就寝時間 21時 5分
夕食 19時 30分
内容 白米、味噌汁(えのき、大根、人参、豆腐)、甘酢あんかけ、レタス、ほうれん草の胡麻和え
朝食 7 時 分
内容 おにぎり(ゆかり、ワカメ、ノリ)、ベーコン巻きエノキ、目玉焼き、レタス
健康状態 良好
便通 多分有り
検温 36.7 度
お迎え予定 16時 分
【連絡事項】
馴染めているようで安心しました!
試しに子供たちが踊る動画を見せたら、物凄く楽しそうに踊り始めました。
これからは毎朝テレビをつけたいと思います。
教えてくださってありがとうございます!
保育園でよく動いているおかげか、家でも今まで以上によく食べるようになりました。
最初はガリガリだったのが、ふっくらしてきて、園でのご尽力に感謝しています。
お友達とひらがなを書く練習もしているようで、家でも披露してくれました。
あと何かのマネか、「おにゃーそちょー(?)」と言いながら元気に腕を回しています。
今日も一日どうぞよろしくお願いします。
<保育園から>
健康状態 良好
発熱 なし
授乳状況 -
昼食 全部食べました
便通 なし
【連絡事項】
恐らく「鬼は外」だと思います。
昨日、年長さんたちが鬼のお面を作ったので、節分気分が盛り上がったようです。
本園の節分はお父さんや自治会の方が鬼の変装をして、本格的にやりますので、経験者の子たちが、下の子達に鬼との戦い方を伝授していたそうですw
小さい子は怖がる子が多いのですが、アーシャちゃんはかなりやる気な様子です。
今日は幸太君たちと園庭の走り込みをしていました!
いつもねんねさんたちに優しくて、色々とお世話をしてくれる、おっとりさんだったので、保育士一同驚いています。
いつぞやも戦う気満々でしたし、実はとても活発なんですね。
(アーシャちゃんは意外と戦隊モノ、好きかもしれません)
————————————
<家庭から>
消灯時間 20時 50分
就寝時間 21時 分
夕食 19時 10分
内容 カレーライス
朝食 7 時 分
内容 白米、味噌汁(豆腐、ワカメ)、目玉焼き、ししゃも、サラダ
健康状態 良好
便通 多分有り
検温 36.9 度
お迎え予定 16時 30分
【連絡事項】
普段は大人しいのに、いざという時、前に出てしまうので、とても心配しています。
年間予定表を見ましたが、節分は園内のみの行事なのですね。すごく見たかったです。
一日保育になってから、びっくりするくらい話せる単語が増えました。
園であったことを、たくさん教えてくれようとします。
ほんの数日でこんなに成長を見られたのも、園の先生や友達のおかげだと思います。
有難うございます。
本日は兄(禅一)の方がお迎えに行きますので、よろしくお願いします!
<保育園から>
健康状態 良好
発熱 なし
授乳状況 -
昼食 おかわりしました!
便通 あり・普通
【連絡事項】
節分の鬼は有志でやっていただいているので、ぜひ、来年度は立候補してください!
園児たちが本気でやってくるので、大変ですが、きっと楽しいですよ。
アーシャちゃんは今日も鬼を倒す為に幸太君たちと修行をしていました。
ミツバチダンスもすっかり覚えてしまって、先生を全く見ずに踊れるようになりました!
連絡帳を書きながら麗美は小さく忍び笑いを溢す。
小さな保育士さんの子守唄のおかげで、子供たちはぐっすりと眠っているので、保育室は担任に任せて、麗美は事務作業や連絡帳の記入に集中することができる。
「麗美センセ、いい笑顔してるじゃ〜ん」
そんな麗美に、早番の同僚がニヤニヤとして話しかける。
彼女は連絡帳なども書き終わり、上がる準備万端だ。
「萌香先生、今日は定時で上がれたんだね。最近遅くなってたみたいだから心配してたよ」
本来お昼寝辺りで早番と遅番は入れ替わるのだが、子供相手の業務なので、毎日定時きっかりに仕事が終われるわけではない。
事務作業をしたり、掲示物を作ったり、連絡帳を書き終わっていなかったりしていると、残業になってしまう。
「あ、最近は自主居残りしてたの」
「え!?」
驚く麗美に同僚はカラカラと笑う。
「そんな驚く?あ、でもでも残業代とかつけてないから!ほら白兄、エプロン着けてないと
「……そういう事かぁ」
麗美は苦笑してしまう。
『自分の欲求には誠実に対応するのが健康の鍵』と言い切る彼女は、ヘラッと笑う。
『白兄』とは『藤護さんの白い方のお兄ちゃん』の省略形だ。
日光の方が遠慮して避けてしまいそうな白皙の兄と、太陽の恵みをたっぷりと受けて健康的な褐色の兄は、保育園で密やかに『オセロ兄弟』などと呼ばれている。
朝は黒いお兄ちゃんが送ってきて、夕方は白いお兄ちゃんが迎えに来る。
同僚は白い方のお兄ちゃん目当てに自主残業していたらしい。
通りで、お迎えが変わった今日は早々に帰り支度しているはずだ。
「あら、そんな
スッと黒い影が同僚の後ろに立つ。
「うわっ!み、峰子センセ……!!」
存在に気がついていなかった同僚は飛び上がったが、すぐにまたヘラッと笑う。
「ヨコシマとか〜!単なるWin-Win-Winな推し活ですよ〜!保育園は無給で人手が増えて嬉しい、園児は遊んでくれる人が増えて嬉しい、ついでにアタシは推しに挨拶できて嬉しい!ね!」
麗美の肩を抱き込んで、仲間のように演出するのはやめて欲しい。
「園児の保護者に手を出そうとするのは、感心できないわ」
峰子がそう言うと、萌香はブンブンと手を振る。
「手を出すとかはナイナイ!全然ナシですよ〜!アイドルはパーソナルスペースの最外円の更に外から愛でてこそ!」
彼女は持論を展開するが、峰子は疑いの眼差しを向けたままだ。
「いやマジで。身近に本尊がいたら、ごろ寝でネット配信見ながらポテチを貪るなんてできないし、うっかりオナラしただけで自害ものの心的ダメージだし。気楽に嘔吐下痢貰って、トイレで上から下からの大放出もできやしないし。狙うとかの前に、そもそも同一次元にいないんですって」
同僚は更に腕から手を振りながら弁解する。
「次元は一緒でしょう………嘔吐下痢は気楽に貰ってはいけないですよ。しっかりと対策してください」
あんまりな主張に峰子は頭を押さえる。
そんな様子に、同僚は許されたとばかりに両手を上げてバンザイする。
「しっかし、黒兄クンは筆マメだね。こんなに連絡欄びっしり書いて」
そして終わったとばかりに、麗美の背中におぶさるようにして、同僚は連絡帳を覗き込む。
「あはは、黒兄、鬼の変装、めちゃくちゃ似合いそう!………うわ、めっちゃ感謝してくれてる!!黒兄クン、外皮はどう見ても世紀末産なのに、中身は良い子じゃん」
ふむふむと彼女は、手を伸ばしてページをめくる。
「………てかさ、アーシャちゃんの保護者って、オセロ兄弟だけよね?」
「そうだよ?」
最初は笑顔だった同僚が真顔になったのを、麗美は首を傾げる。
「このオカンめいたメニューを男子学生が作ってんの?アタシより全然に家事力高くない!?朝からめちゃくちゃ良いモン食べてるじゃない!?こちとら毎日シリアルよ!?」
「あぁ……」
家庭ごとに食生活は千差万別なので、食べている物をそれ程気にした事がなかった。
食欲があるか、必要なカロリーが摂れているか、サラッと見る程度だ。
急な体調不良の時などは見返すだろうが、普段はそれほどしっかり見ない。
しかし改めて見ると、結構手が込んでいる。
「あ、あれかな、フードデリバリー的な?」
社会人としてのプライドが学生に負けることを良しとしないのか。
同僚はそんな仮説を立てる。
「う〜んどうだろ。裁縫も一通りできるって書いてたし、料理もできるんじゃないかな?」
朝からこんな庶民的なご飯をデリバリーしてくれる所もないだろう。
麗美はやんわりと否定する。
「料理は禅一さんが作っているらしいわよ」
横から連絡帳を覗き込んだ峰子は、何気なく真実を暴露する。
「えええっ!しかも黒兄が!?……ビジュアル的に白兄の方が作っているのかと……」
同僚は派手に驚いている。
確かに禅一は料理をしそうな外見ではない。
肉の塊を焚き火で焼いてそうなイメージがある。
驚いていた同僚は、何かを思いついたのか、急にニヤッと笑う。
「ねねね、麗美センセ、黒兄クンとか、いいんじゃない?」
「…………は?」
突然の問いかけに麗美はポカンとしてしまう。
「麗美センセ、黒兄と交流するようになって、何か明るくなったじゃない?お父さんたち相手にもビクビクしなくなったし!それに、さっきも嬉しそうにお返事書いてたじゃ〜い。あれあれ?最近、お肌もツヤツヤしてきたのは……もしかしてもしかするんじゃないのぉ〜?」
ニマニマと笑う同僚の言葉に麗美は目を見開く。
「いや、違う!違う!そんなんじゃないよ!?た、確かに最近、男の人がそれほど怖くなくなったのは、お兄さんのおかげではあるけど……」
そう答えると、相手の顔のニヤニヤはさらに深くなる。
「あ、ち、違う!変な意味じゃなくて!!ほら、ねんねさんたちの連絡帳ってほぼお母さんしか書かないでしょ!?お迎えの時もそんなに深く話す事がないし!だから男の人って未知って感じだったんだけど、お兄さんの連絡帳読んでたら、もう妹さん一色で、全力で可愛がってるのが伝わって、『あぁ男の人も変わらないんだなぁ』ってわかったの!それだけ!」
顔が妙に熱くて、麗美は誤解を受けないように必死に主張する。
「わかったわかった。麗美センセ、どーどー」
いつの間にか握り拳まで作って力説してしまっていた麗美を同僚は宥める。
「お料理上手男子なんてお買い得だと思ったから、気楽に薦めてみただけだって。ま、確かに、あんなに怖そうな人は無理だよね〜」
ヒラヒラと手を振る同僚に、麗美は戸惑ってしまう。
「えっ………あ、そ、そうだね」
確かに麗美も最初の頃は覇王的な空気を漂わせる禅一を『怖い』と思っていた。
「あ、で、でも、お兄さんは、怖いと言うより……可愛い、かも?」
しかし、そのまま『怖い人』と肯定したままにするのは、嘘をついたような気まずさがあったので、麗美はついつい余計な感想を述べてしまう。
「「………………」」
麗美のその一言で、今度は同僚と峰子が目を見開く。
「えっと……そっか……うん」
「『可愛い』の汎用性の高さに驚かされてしまったわ」
理解できないという空気の二人にますます焦ってしまう。
さっきよりも更に麗美の頬は熱を持つ。
「ち、違くて!!え、えっと、そうだ、『微笑ましい』!『微笑ましい』!!あんなに大きくて強そうな人が小さなアーシャちゃんに全力で振り回されているのが微笑ましいんです!!」
自分の気持ちを正確に表現できた麗美の肩を、峰子が優しく叩く。
「そうね。確かに猛獣でも子育てしている姿は、微笑ましく感じるわ。間違ってないわ、大丈夫。落ち着いて」
その目には何故か憐憫が宿っているような気がした。
散々先輩と同僚に揶揄われた麗美は、すっかり上気してしまった頬を冷ましながら、お昼寝後の作業に入る。
件のアーシャは、すっかりお昼寝リズムができたようで、カーテンを開けただけで、目をこすりながら起き上がる。
そしてウトウトとしながらも、鼻をひくつかせ、幸せそうに笑う。
(可愛い……!!)
おやつを早く食べたいのか、自分のお布団を畳み、周りの子のお布団を畳み、せっせとお片付けの手伝いをしてくれる。
キラキラと輝く目は、待ちきれないように、頻繁に教室の入り口を見つめる。
(お兄さんがメロメロになっちゃう気分、わかっちゃう)
今日のオヤツはカボチャ餅。
マッシュして片栗粉を加えたカボチャはモチモチで、外側はバターでカリッと焼かれている。
これに加え、中にはトロリととろけるチーズ。
アレルギー対応でチーズ抜きバージョンなどもあるのだが、モチモチカリカリのカボチャ餅は子供達に人気だ。
アーシャも例に漏れず美味しかったようで、言葉にせずともわかる『美味しい!』と言う顔で、両拳を突き上げて、雄叫びをあげていた。
口の端からこぼれ落ちた糸引きチーズを、唇を尖らせて、必死に吸い込んでいる様子も、小さいひょっとこのようで可愛い。
あまりに美味しそうに食べるので、今では二人いる給食室の先生が、交代で食べている様子を見に来るくらいだ。
麗美は笑いながら、連絡帳を開く。
そして
『今日のオヤツはとても美味しかったみたいで、久々のビクトリーポーズでした。かぼちゃ餅はレンジなどでも簡単に作れるのでご家庭でも試してみてください。』
と書き足した。
オヤツを食べ終え、お皿の回収を手伝ったり、泣き出した子の相手をしたりと、ウロチョロしていたアーシャだったが、お迎えが待ちきれないらしく、早々に麗美が書き足した連絡帳をリュックに詰め始めた。
「るぅっく、たおう、こっぷ、りぇんあくちょ」
指差し確認しながら用意する姿に、クラスの担任共々頬が緩む。
「アーシャちゃん、しっかり者ですよねぇ〜。もう新学期を待たずに年少さん……いや、年中さんくらい?に編入できそうですよねぇ」
「いえいえ、まだ保育園に通い始めて一週間!編入より環境に慣れてもらうのが大切よ!」
麗美が言うと、担任の赤松は強く首を振る。
彼女は態度こそ他の子達と平等だが、麗美以上に食いしん坊なしっかり者を可愛く思っているようだ。
「今日は黒い方のお兄ちゃんのお迎えよね」
どっこらしょと呟きながら赤松は、外遊びに行きたいと訴える子供たちと共に歩き始める。
「おっきなお兄ちゃんが走ってくるよ〜。きっとすっごい速いよ〜」
絶対に走ってくるという確信を込めて、赤松は外でお迎えを待つアーシャに続く。
(………なんでかな……私も100%走ってくる確信がある……)
スマートに車で迎えにくる白い方のお兄ちゃん。
対する黒い方のお兄ちゃんは全力で走ってくるような気がする。
超笑顔で放電するエフェクトを背負いながら走る姿が、妙にリアルに脳内で再生されてしまう。
「予想の倍の笑顔と、十倍くらいの速度で走ってきて、ちょっと怖かったわ」
その後、赤ちゃんたちと部屋に待機していた麗美に、赤松はそう報告してくれたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます