16.監視者、接触する
大福と散歩と日向ぼっこをこよなく愛する二十六歳。
「五味、お前、明日、暇だろ?」
「あ〜、明日はちょっと足を伸ばして、小京都甘味ツアーに行こうかと……」
「暇だよな?」
「え?だから、甘味ツアーに……」
「俺、明日、例の子供の見守り役なんだ。暇なんだから代われ」
「いや、だから……」
「うるせぇ!感知能力だけのお荷物が!祓いもできねぇ足手纏いなんだから見守りぐらいやっとけ!」
「えぇぇぇ〜〜〜、そんなぁ〜〜〜休日はみんなでローテーション組んで交代で見守るって……」
力弱い反論は相手に聞いてもらえる事がなく、このようなやり取りを経て、今週もめでたく休日返上での見守り業務となってしまった。
色々事情があって社会に出たのは二年前。
周りからはまだまだ新人扱いで、おまけに武闘派揃いの実力主義の部署に入ったため、役立たず扱い。
署内随一の感知能力を持つ武知に見出され、鳴物入りで着任したのに、感知能力に反比例した『ゴミカスレベル』と言われる戦闘能力が判明してから、すっかり肩身の狭い身の上だ。
(武知さんが忙しくなかったら相談できたのに……)
面倒見の良い武知だが、市内に混乱をもたらした呪物を作った犯人の探索に加え、乾家を襲撃した犯人の特定も急いでいるので、迷惑はかけられない。
(……署内カースト最下層って辛い……まぁ俺みたいなのが公務員になれたのが奇跡みたいなもんだからね……)
そうして肩を落として、本日も休日出勤だ。
(今日は禅一さんが一緒で良かった〜〜〜)
戦闘力0の五味としては、禅一がいるだけで安心できる。
七歳も下の子供に頼るなんて、通常の人間はプライドが邪魔するだろうが、五味には恥ずかしげもなく頼りにできる自信がある。
プライドなんかでご飯は食べられないし、甘味も買えない。
弱い奴には弱いなりの立ち回りがあるのだ。
そもそも禅一の実力と貫禄は、十代という若さを全く感じさせない。
安心して、全力でぶら下がることができる。
(それにしても………禅一さん、意外と子供っぽいところ、あるんだなぁ)
そんな若年寄りな禅一だが、凄く楽しそうに妹と遊んでいた。
常に穏やかに笑っている印象ではあるが、笑い転げたりするイメージはなかった。
『穏やかさを装う仮面の笑み』を着けているタイプだと思っていたので、これはかなり意外だった。
(メチャクチャ周りから注目されてるけど)
禅一は色々な意味で元から目立つ。
日本人離れした長身、服の上からでもわかる鍛えられた体つき、他を威圧するような雰囲気。
一目見てわかる『只者ではない』存在感だ。
そんなのが、このお子様空間にいる。
しかも彼は子供という年齢ではないし、親としては若過ぎる。
雰囲気だけで異物感+1、似つかわしくない場所で+1、若さで更に+1で、立派な異物認定を受け、否応なく視線が集まっている。
そんな中で体操選手のように腕の力だけで体を持ち上げたり、子供用トンネルにみっちり詰まってみたり、爆笑しているので、更に注目を浴びている。
目立つ事に慣れているのか、単に鈍感なのか。
それでも禅一は動じずに妹と遊んでいた。
その後はアーシャが年相応の子と遊び始めたので、大人しくするのかと思いきや、受付に頭を下げて何やら頼んでいる。
(うわっ)
何だろうと五味は彼が指差している先を目で追って、顔を顰めた。
生者の薄汚れた氣と、死者の妄執が編み上がった鎖だ。
(うわ〜〜〜、あんなばっちいのが妊婦さんに繋がって……いや、あれは子供の方か。胎内に呪を繋ぐなんて……かなり身近な人間が術者だな〜〜〜陰険〜〜〜)
その鎖が繋がった人物を見て、思わず五味は同情した。
(あれはお母さんが、かなり引き受けちゃってるな。無意識なんだろうけど……可哀想に……あのままだと親子共倒れだ)
何とかしたいが、個人間の呪術にまで署内の人間は関知しない。
民事不介入とか、そんなわけではないが、世間には呪いが溢れすぎていて、個人間の物にまで対応に手が回らないのだ。
上司の武知に報告したら見過ごすことはしないと思うが、休日返上で働いている彼には言い難い。
(俺が何とかしてあげられるといいんだけど……)
一応胸元に入れている符を五味は探る。
(アレ、ちょっと年代物過ぎるなぁ……)
熟成された呪いと、己の操る符の弱々しい力を比べて五味は肩を落とす。
子供共々命の灯火が消えそうな妊婦を、陰ながら見守るしかできない五味とは対照的に、全く呪いの存在に気がついていない禅一は動き回っている。
受付で対応を断られてしまったらしい彼は、長椅子に座る男性に深々と頭を下げ、同じく長椅子に荷物を置いて場所取りをしている人間を探し出して、深々と頭を下げる。
何をしているのだろうと観察していたら、次は倒れそうになった妊婦を抱え上げ、お願いして空けてもらった長椅子に寝かせている。
妊婦でも全く危なげなく抱き上げた禅一には、周りの視線が更に集まっている。
(流石禅一さん)
そんな衆人環視の中でも、彼は全く動じることなく自分の荷物や上着を使って、女性を寝かせる。
(………何でジュース?)
そして可愛らしいキャラクターの自販機に向かい、ガコンガコンと次々に紙パックのジュースを買う。
(あ、脱水とか心配したのかな?)
寝かせた妊婦にジュースを勧め、余ったジュースを席を譲ってくれた人たちに配って、改めて頭を下げている。
(なんか、あぁ言うところが『らしくなさ』なんだよなぁ。羽目を外すとか、ノリで行動するとかなさそうだし、同年代に馴染めてるのかなぁ)
配慮が出来すぎていて、若さとかフレッシュさとか大学生っぽさがない。
妙に老成し過ぎてて他人事ながらキャンパスライフで浮いていないか、心配になる。
(何か浮世離れしてると言うか………ん?)
一階の和菓子屋で買った苺大福を齧っていた五味は、ピタリと動きを止めた。
妊婦と言葉を交わして、長椅子の端にちょこんと座った巨体の頭の上。
「……うっ……そー……」
格の高い神社でも滅多に目にする事ができない神霊がいるのだ。
しかも白蛇と小さいが人間型を持った神霊が、二体も。
いや『神』なのだから二柱と数えるべきか。
禅一の頭の上で、気持ちよさそうにとぐろを巻く白蛇と、その白蛇の鎌首を滑り降りたりして、ピョンピョンと遊んでいる童女は、ファンタジックに見ると微笑ましいが、現実的にはおかしい。
(禅一さんって可動式神域……!?)
浮世離れどころの話ではない。
人間離れだ。
(流石、藤護。分家の人たちも凄いけど、本家は格が違う。人間卒業しそうな勢いだ)
ゴクンと唾を飲み込むつもりで、齧っていた大福を飲み込んでしまって、詰まりかけた五味は自分の胸を叩く。
頭上の神霊には全く気がついていない様子で、禅一はのんびりと子供達を眺めたり、女性の様子を確認したりしている。
(白蛇は……恐らく
苺からフレッシュな果汁が漏れ出していたので、慌てて頬張りながら、五味は観察を続ける。
最早
そうこうしていたら、白蛇の鎌首から、更に勢いをつけたミニ童女がスキージャンプの選手のように滑空する。
「…………!!」
そして何かを叫びながら、雷光を放った。
雷光の尾は、禅一が妊婦に掛けた彼のコートに繋がっている。
(嘘だろ……!?呪いを斬ったぞ……!?しかもあの光、見覚えがある!!)
見事に呪いを断ち斬った童女は、そのまま妊婦の上に落ちるかと思いきや、フッと消えていく。
それを追うように、禅一の頭の上の蛇もスルリと移動して、消えてしまう。
(も……もしかしなくてもあの懐剣の
ほんの数日前までは、とんでもない出来だったが、一応ギリギリなんとか器物の範疇に入っていたはずの刀が、とんでもない進化を遂げている。
(持ち主が異常だと、刀も異常になるのかなぁ……)
呆然としながらも、五味は大福を食べ切る。
自ら呪いを断ち切りに行くなんて、無人兵器もびっくりのオートマチック戦力だ。
(でも、呪いは返されてない。経路を断ち切るだけじゃ、アレは消えないな。かなり古い呪いだから、大元から返さないと)
程なくして二度目の雷光が走ったが、切られても、切られても、呪いの鎖は女性に向かって伸びていく。
(刀自身が動いても厳しいかもなぁ……力を得ても器物は器物。
当の持ち主は、異常事態に全く気がつくことなく、子供と女性を見守っている。
五味には眩しく見えた雷光ですら、普通の人々には見えない物なのだ。
(ホント、禅一さんって惜しい。あれで『目』か『耳』があったら、それこそ鬼神のような働きを見せて大活躍を………いや、そんなことになっちゃったら、仕事がなくなって、俺みたいな無能なんか真っ先にリストラになるしな〜〜〜)
人ならざる物の害がなくなれば良いと思いつつも、それがなくなると、自分の食い扶持がなくなってしまう二律背反だ。
猫の手も借りたい程の状況だから、自分のような無能も職を得ていられるのだと、五味は自覚している。
(どうしよっかな……俺は禅一さんみたいに心臓に毛が生えてないから、
目の前の妊婦さんは助けたい。
でも隠密行動中の身で、緊急時を除いた対象への接触は禁じられている。
そんな事を悩みながら、次なる餅入り
禅一についている神霊たちに呼ばれたのか、
彼女は普通に神霊の姿も声も聞こえて、呪いもかなり視え辛いようだが、認識できているようだ。
(あの子はあの子で、『目』と『耳』を持っているし、他人の氣を流用できるし、全く知らない術式を使うし……人間離れしてるよなぁ)
それこそ神霊なんじゃないかと思ってしまうのだが、現世の器を持った神霊なんて聞いたことがない。
上層部が彼女の扱いで結構揉めていて、武知が対応に苦心しまくっているが、そうなってしまうのも仕方ないと思ってしまう。
神霊というには、人間の器に収まっている。
人間というには、性質が神霊に寄り過ぎている。
前代未聞の存在だ。
(ん、微かな塩っけが甘味を引き立ててる!うまい!)
真剣に考えつつも、基本的にマイペースな五味は
そんな事をしていたら、アーシャが禅一を引っ張って座らせ、その膝に乗っかり、禅一の腕をシートベルトのように自分の体に巻いている。
「んぷっ」
その様子が大昔のロボットアニメの、小型戦闘機が巨大ロボットの頭部にドッキングしてる様子を思わせて、五味は咀嚼中の最中が飛び出さないように口を押さえる。
(パ………パイ⚪︎ダーオン………!!)
禅一の雰囲気がその巨大ロボットに少し似ているので、一人でツボに入ってしまった五味は、笑いを堪える。
しかし呑気に笑っていられたのはそこまでだった。
子供のものと思えない、高音のはっきりとした、のびのある歌声。
大きくはないが、喉の使い方を熟知した歌い方の、妙なる歌に、一人、また一人と惹きつけられるように振り向く。
「うわ………」
五味も顔を上げて、思わず呟いてしまった。
「すっごい。あの子、歌、上手くね?」
「上手い。なんかヒーリングミュージックだわ〜〜〜」
通りすがりの学生たちがそんな言葉を交わす。
確かに上手い。
しかし五味が驚いたのはその歌声自体ではなく、力の動きが見えたからだ。
言霊の力を使った
しかし彼女が使う力は根本的にそういう物と違う。
力のある言葉を使っているのではない。
自分自身の力を、声という波にのせて、送り出しているだけなのだ。
前に保育園で彼女の祓いを見ていたから、その辺りはわかっていた。
しかし五味は今、自分の見ているものが信じられない。
氣は祓ったり、結界を張るために使用する。
その際、放出した氣は、その用途以外には使えない。
ボールと同じで、自分から離れた時点でコントロール下から離れるのだ。
カーブを投げておいて、打たれそうになったからストレートに切り変えるなんて事が出来ないのと同じだ。
出す瞬間まで自分の支配下にあっても、出してしまった後に干渉することはできない。
しかし目の前の少女は自分から離れた氣を、声で自在に操っている。
一度の放出量はかなり少ない。
しかし放った後の氣を継続して操れるので、『少しづつ』が堆積して、やがて大きな力になる。
その力で丁寧に女性に絡んだ呪いを解いていく。
(嘘だろ……)
少しずつ禅一の氣が彼女に流れ込み、それも併せて、ギリギリの所まで氣を放出する。
そして、それでも力でも解呪が成らないと判断したのか、『歌』が変わる。
(結界に切り替えた……!!)
先程まで浄化に使われていた氣が、常人には見えない光の壁になり、女性を覆う。
(こんなの……普通はできるわけないのに……!)
一度キャッチャーミットに入った球を、ピッチャーがマウンドから引っ張り戻すようなものだ。
それこそ超能力、現実では起こり得ない、荒唐無稽な能力だ。
自分の力の残量から、咄嗟に手法を切り替えた判断力と言い、やはりあの子は普通じゃない。
(本当に現世の器を持った神霊なんじゃ……)
これは武知に報告しなくてはいけないと、
そんな五味の視線の先では、最後は物理干渉とばかりに妊婦に触れたアーシャが、疲れ果てて、痔になったアヒルのような、不気味なガニ股歩きで禅一の方に戻る。
(…………神霊………?)
そしてヨタヨタと禅一の膝の上に登る背中に、お散歩から疲れて帰ったお爺ちゃんの、縁側に登る背中が重なる。
(…………神霊…………)
『あーどっこいしょ』とでも副音声が流れてそうな様子で、疲れ果てて横になる姿は、小さいおっちゃんである。
その後は暇になったお友達を誘って、寝そべりながらの完全介護で絵本の鑑賞だ。
シンデレラ、美女と野獣、眠り姫と、お話の打表格のような有名すぎるお姫様の絵本を、目を輝かせて、表情豊かに楽しみまくっている。
合間合間に、友達と手を繋いでキャッキャと笑い合う姿は、まるで無邪気な子供だ。
(神霊……じゃ、ないね)
五味は取り出したスマホを胸ポケットに戻す。
周りは歌の上手い子供に一時期注目したものの、子供らしく絵本を楽しんでいる姿には興味を払わない。
むしろ新規で入ってきた客が、父親とは思えない、若すぎる禅一が二人の幼児を膝に乗せて、ノリノリの裏声でプリンセスの台詞を読んでいる姿に、ギョッとして見ている。
(禅一さんって……本当に人目を気にしないというか、ノリがいまいちわからないというか……)
妙に老成しているかと思えば、真顔で愉快な事もする。
(それにしても……)
五味は絵本を読んでいる三人組から、その傍で眠る妊婦に目をやる。
その体に寄り付けない呪いは、無念そうにうねっている。
しかし今は結界で守られているとはいえ、符などの特別な媒体を使わないと、その力は術者と離れると、どんどん減衰する。
(………減衰、するよね?)
媒体無しと思えない堅固な結界なので、そんな疑いはあるが、通常は減衰する。
(それにあの呪いは絶対に身近にいる人間にかけられている。結界も破られる恐れがある)
無能で無力な五味だが、市民を守る立場におり、そのためにお給料ももらっている。
理不尽な休日出勤中だが、力になれるものなら力になりたい。
(詳細を書いて禅一さんにメッセージを送るか……でも禅一さん、何にもわかってないからなぁ〜〜〜。譲さんがいたら話が簡単に通るんだけどなぁ)
藤護の双子は二人で一揃え。
最高のパフォーマンスが出せる。
それなのに今日に限って別々なのか。
(武知さんなら自然に合流して、上手い感じに誘導して、術者を割り出して、近付かないように助言もできるんだけうけどなぁ)
自分が賢くない自覚がしっかりとある五味はウンウンと悩む。
いい案が出てこないうちに、結界に守られた女性が目を覚ます。
そして禅一と何やら話し、荷物をまとめて、二家族揃って移動を始める。
(え!?帰っちゃう感じ!?マズイマズイ。あのまま帰したら絶対にマズイ!!)
五味は大いに慌てる。
広げていた和菓子の袋や緑茶をバッグに放り込み、気がついた時には走り出していた。
「禅一さん!ぐ、ぐ、偶然ですね!!」
そして気がついた時には、遊び場から出てきた禅一に向かって、声を張り上げていた。
『緊急時以外、対象に接触してはならない』という決まりを破ったと気がついたのは、少々驚いたように目を見張った禅一の顔を見た時だった。
(し、し、しまったぁぁぁぁぁぁ!!また始末書ぉぉぉぉぉ!!)
五味は心の中で叫ぶ。
『ノリで動いてはいけません』
『行動に移す前に、一度心の中でそれは正しいのか確認する』
『失敗した時は急いで挽回しようとしない』
慌てて自分自身のフォローに動こうとした五味の脳内に、武知の教えが響く。
「………偶然ですね。買い物ですか?」
ハクハクと口を動かす五味に、禅一が苦笑する。
「あ、う、うん」
何回も頷きまくる挙動不審な五味の肩を、ポンポンと禅一が叩く。
「
怪しすぎる挙動の五味に向けられていた、女性の疑う視線が、柔らかくなる。
「アーシャちゃんと同じ保育園の笛吹です」
そして笑顔で挨拶してくれる。
まず職業を明らかにしてくれた禅一のおかげだ。
「悟さん、これから俺たち昼ごはんなんですが、どうします?」
「あ、あ、あの、こちらの方の……」
まずは彼女の危機を知らせねばと口を開いた五味だが、いきなり話し出したら、怪しい人に逆戻りだと気がついて言葉が続かない。
「あぁ、妊婦さんのお手伝いをしようと声をかけてくれたんですね。笛吹さん、重い荷物は悟さんが持ちますんで」
そんな五味の後を、巧みに禅一が繋げる。
「え、そんな、悪いです」
「い、いえいえ!何か顔色が良くないようですし!是非手伝わせてください!こう見えても力持ちなんです!体力も無駄に余ってます!」
ここでお断りされてしまっては、話が続かない。
色々と話を聞くためにも五味は頑張って自分の有用性をアピールする。
何とか女性のバッグを運ぶ任務を得られた五味は、何とか話を伝えて、対策を取らなくてはと焦るが、話の糸口が全く思いつかない。
「……あ、ご飯の前にトイレに寄って良いですか?アーシャの服を替えないと汗が冷えそうで」
そんな五味に再び、救済の手が伸びる。
さり気なく一度別行動をとって、事情を聞く時間を稼ごうとしてくれている。
「あ、そうよね!私もちょうど明良の服を替えたいと思っていたの。ここ、赤ちゃん休憩室が広いから、そちらの方が良いと思うわ」
「赤ちゃん休憩室?」
「おむつ替えとか、授乳ができる個室があるの」
「………へぇ〜、そんなのがあるんですね」
別行動時間は取れないんじゃないかと焦る五味を他所に、禅一は余裕の表情だ。
「でも授乳スペースとかある所は、入れそうにないんで、俺はトイレに……」
「あ!大丈夫!今までのお礼に私がアーシャちゃんのお着替えもしてくるから!アーシャちゃん、人見知りしないし。ね!」
言い掛けた禅一を女性が遮る。
「ね!」と言われたアーシャはよく意味がわかっていない様子だが、女性の真似をするように「ね!」と返してニコニコしている。
先ほどまで呪いで倒れかけていたとは思えないほど元気さで、女性は二人の幼児を連れてピンク色の扉の向こうに消える。
「………で、どうかしたんですか、五味さん?」
女性と離れて、いつもの『五味さん』呼びに戻った禅一は聞いてくる。
「彼女に何かありましたか?」
人ならざるものは全く見えないが、野生の勘が冴えているのか、話が物凄く早い。
「あ、あのですね……!」
五味はようやく現状を説明する機会を得て、話し始めた。
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