9.聖女、狂乱する(後)
アーシャが紙のエプロンで、一人楽しんでいる間に、卓の上の火は見えなくなっていた。
何もせずに鎮火したのかと、アーシャは伸び上がって丸い金属に覆われた、卓の穴を覗き込む。
「…………?」
金属の籠の下に赤黒い塊は見えるのだが、それが火なのか否かアーシャには判別がつかない。
そんな事をしていたら、部屋の硝子の扉が再び開かれた。
「しつれーします」
今度は男性が入ってきたのだが、その手にはとんでもなく大きな皿がのっている。
(凄い大きさ!今の私なら、丸くなれば、あの皿に乗れちゃうかも)
あまりの皿の大きさに、アーシャはそんな事を考えてしまう。
見たこともない大きさの陶器に驚くアーシャは、その後に更なる驚愕に襲われるとは予想していなかった。
皿を運んできた男性が、卓の横にしゃがみ、その中身が見えた瞬間、アーシャの喉はヒュッと音を立てた。
「お……お……おぉぉぉぉ」
そして口から意味不明な呻き声が漏れていく。
肉、肉、肉、肉、肉。
大きな皿の上は肉が敷き詰められた、肉の楽園だったのだ。
美しい繊細な絵が描かれた絵皿だったのだが、その絵が見えなくなるほどの肉が敷き詰められている。
(薔薇……肉の薔薇……私が乗れそうなお皿一面の肉の薔薇……)
真ん中に巻かれた肉がそびえ立ち、その周りを放射状に、規則正しく並んだ肉が取り囲む。
その様は正しく、肉の薔薇だ。
そこに敷き詰められた肉は、驚くほど正確に厚さと大きさが揃えられ、花弁と呼ぶに相応しい。
小さくこそぎ取られた肉片しか見たことがないアーシャにとっては、肉を均一の形にするなど、信じられない技術だ。
アーシャは花が好きだが、この花は狡い。
お肉で作った花に、心が震えないはずがない。
アルラウネに魅了された哀れな犠牲者のように、アーシャの目は、眼前を通過する肉の群れに釘付けになってしまう。
肉は焼かねば食べられない。
「おぁ………あぁぁ……あぁぁぁ」
そんな事を知っているのに、アーシャの体は皿に引き寄せられるように動く。
「アーシャ、アーシャ」
生きた人間に群がるゾンビのように、手を伸ばして皿に向かって動こうとするアーシャを、ゼンがおかしそうに笑いながら制する。
「はっ!!」
お尻を押されて、椅子に座り直させられて、アーシャは漸く正気に戻った。
見れば、皆が吹き出しそうな顔でアーシャを見ている。
「うっ………うぅ………」
何たる醜態だろうか、肉の群れに完全に魅了されてしまった。
(聖女にあるまじき失態……!!)
アーシャは椅子にしっかりと座り、背もたれに背中をくっつける。
(ダメダメ!私はレディよ!レディ!)
断じて生肉にかじりつこうとする、残念なゾンビもどきではない。
アーシャは背筋を伸ばして肉との距離を置き、恐るべき魔力に魅了されぬように、心の体勢も立て直す。
(レディ!レディ!………レディ………れでー……)
しかし目の前で、皿に盛られた薔薇の花弁が一枚づず剥がれ、見せつけるように動くと、再び意識を持っていかれる。
金属の火バサミに掴まれた肉の、何と魅力的な事だろう。
血が滴りそうなほど新鮮な、美しい赤。
その鮮やかな赤の中を走る、肉の脂身と思われる白い筋。
それはたっぷりと餌を食べて肥え太った動物の肉である
焼く前から美味しそうな肉なんて、何て罪深い存在が、この国には存在するのか。
肉は皿から卓の中央の穴に向かって運ばれ、金属の籠の上に並べられる。
「は……はぁ〜〜〜!!」
何故卓の上で火を燃やしたのか。
その答えがここにあった。
目の前で肉を炙るのだ。
並べられた肉は、熱されて蕩けた脂が表面に広がり、テラテラと輝いて、美味しくなっていく過程をアーシャに見せつける。
金属の籠の下にあった赤黒い塊は、その下に炎を隠していたようだ。
肉の表面に留まれなかった脂が滴ると、それに火が吸い寄せられるように燃え上がる。
その脂が焼ける匂いが、アーシャを更に引き寄せる。
「アーシャ、アーシャ」
気がつけば、覚悟を決めて椅子にくっつけたはずの背中や尻は浮いており、頬に熱を感じるほど肉に顔を近づけていた。
そんなアーシャをゼンが困ったような顔で諌めている。
しかし肉の引力は凄まじく、アーシャの尻は椅子に戻れない。
ゼンは『仕方ないなぁ』と言う顔で、黒いベルトを手に取る。
横に垂れていて気が付かなかったが、その黒いベルトはアーシャが座っている椅子にくっついている。
「え?え?あっあっ」
力を込めて、お尻を座席に下されたかと思ったら、アーシャの腰にはそのベルトが巻かれ、カチャンと音を立てて固定されてしまう。
アーシャの座高では椅子に括り付けられると、肉が焼ける様子が見えない。
「ゼン〜〜〜〜〜!」
外して欲しくて、ジタバタと動くが、ゼンは困り顔でアーシャの頭を撫でるだけで、解放はしてくれない。
「アーシャ、いーこ、いーこ」
口を引き結んで、アーシャは懇願の眼差しでゼンを見るが、彼は眉尻を大きく下げるだけで、やはり解放はしてくれない。
———アシャ スワル マツ。ヌシ ヤケド シンパイ
紙のエプロンをつける際に肩から下ろされ、アーシャの隣に置かれたバニタロが、ゼンの援護をするように、アーシャを諌める。
「うぅ………」
固定されていないと、またアーシャは肉の魔力に惹かれて、火に近づいていってしまうだろう。
今はゼンが止めてくれたから良かったが、次は顔を焼いても止まれないかもしれない。
(その場合は治癒すればいいんだけどなぁ)
肉に対する執着が暴走して、そんな事をついつい考えてしまうが、治癒はゼンたちに止められている。
こちらでは使ってはならない力を、己の欲望のせいで使うわけにはいかないのだが、魅惑の肉が思想を狂わせる。
肉の観察ができないアーシャは、せめてもの抵抗で、肉が焼ける芳香を胸いっぱいに吸い込む。
あふれ出す涎を、水を飲むような勢いで飲んでアーシャは堪える。
外見は子供だが、アーシャは立派な聖女だったのだ。
そこそこ尊敬もされていたし、戦場では頼りにされていた。
(すっかり甘やかされて、緩んでいたけど、このくらいの我慢、何でもないんだから……!)
そう思いながら、上と下の唇で押し合いをするように、口を引き結ぶ。
(何でも……何でも………)
そのアーシャの眼前で、溶け出した脂を纏い、こんがりと網型の焼目がついた肉がサルベージされる。
「はい。どーぞ」
「はわ……はわわわ……はわわわわわわ!!」
いつの間にかアーシャの目の前に置かれていた、三つに仕切られた四角い皿に、こんがり肉が着陸する。
皿には茶色と透明の二つの液体が入っていたのだが、肉は真ん中の茶色の液体に着水する。
液体に触れた瞬間に、トロリとその表面に広がった肉の脂が、何と美味しそうなことか。
「ひゃ……ひゃ……ひゃ〜〜〜!!」
皿が鼻につきそうな距離で、肉を目から吸い込むような勢いで見ていたアーシャの手に、フォークが握らせられる。
「『おいしーな』!?」
食べていいのか尋ねたかったのだが、アーシャの語彙ではこれが精一杯だった。
「おいしーよ」
そんなアーシャに、ゼンはおかしそうに笑って頷く。
「『いたーきましゅ』!!」
一応口ではそう言ったが、手を打ち鳴らす余裕はアーシャにはなかった。
言い終わると同時に、啜るように肉を口に入れる。
「はひゅっはひっはふっ!!」
先程まで炙られていた肉は熱々だったが、アーシャに吐き出すという選択肢はない。
口の中に空気を取り込みながら、肉に歯を突き立てる。
「ひょっっ!!」
熱々の肉は驚くほどあっさりとアーシャの歯を受け入れた。
肉とは思えぬ柔らかな歯触りと共に、旨みたっぷりの脂が口に広がる。
「〜〜〜〜〜〜!!」
肉が蕩ける。
そんなわけあるかと思うのだが、実際に口の中に肉が広がる。
噛む毎に肉と、溢れ出す脂と、それらを引き立てるソースに、口中が包み込まれるのだ。
もっと、もっと噛んでいたい。
そう思ったのに、アーシャの喉は我慢できずに、柔らかな肉を飲み込んでしまう。
「………………!………………!!」
そうしてアーシャは声にならない雄叫びをあげる。
酒は喉で味わうなんて言う人がいたが、肉も喉で味わって良い。
むしろ喉で味わうべきだ。
口も喉も、胃袋も、全身が感動に震える。
美味しすぎて言葉が出ない。
肉を受け入れた胃袋から、途方もない量の幸福感や、誰にぶつけたら良いのかわからない感謝が湧き上がってくる。
アーシャは気の昂りのままに、両手を天に向かって上げた。
体から途方もない感謝のエネルギーが放出されている気がする。
今のアーシャには、天上から降り注ぐ神々しい光が見える気がする。
「えっと……アーシャ?」
感動に打ち震えるアーシャの肩が、遠慮がちにチョンチョンとつつかれる。
想像の中で天国の門をくぐりかけていたアーシャは、それでようやく正気に戻る。
「ぬぉ!!!??」
突然現世に戻ってきたおかげで、思わず雄々しい鼻息が出てしまう。
昇天寸前になっていたアーシャに驚いたのか、ゼンは口が半開きになって、物凄く戸惑った顔をしている。
「ゼン!!」
「は、はい!」
「『おいしーな』!『おいしーな』!『おいしーな』!」
こんな柔らかく、コクまであって、後口はまろやかで甘みすら感じ取れる肉は初めてだとか。
胃が沸騰しそうな勢いで喜んでいるとか。
危うく天国が見えそうになったとか。
色々伝えたかったが、残念ながらこの国の言葉に堪能ではないアーシャは、万感の思いを込めて、その言葉を繰り返すしかできない。
感情は言葉だけで伝わる物ではない。
「…………よかったな」
アーシャの熱い思いが伝わったのか、ゼンは目尻を下げる。
「たくさんあるからな」
そして彼は持っていた火バサミで、アーシャの皿を指し示す。
「っっ!っっっっ!!!!」
そこで初めてアーシャは自分の皿に追加の肉が盛られている事に気がついた。
しかも三枚も、だ。
(三回!あと三回!あと三回も天国が………!!)
天国の大売り出しである。
アーシャは皿ごと食べる勢いで、肉に飛びつく。
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
既にその感動を知っているのに、口の中に入れると、感動が極彩色になって復活してくる。
これは本当に肉なのか。
柔らかに歯を受け止め、口の中で蕩けるこれは、何か新しい飲み物なんじゃないか。
美味しすぎて、そんな疑念すら浮かび上がってくる。
そのまま放置していたら、幸福感で体がはち切れてしまいそうなので、アーシャは両手の拳を交互に打ち上げることで発散する。
「アーシャ、あ〜ん」
そんなアーシャの口元にスプーンが運ばれる。
その上には『こめ』が山盛りだ。
正直、今度は喉の反逆が起こらなかったので、より長くこの幸福を噛み締めていたかったが、ゼンに食べ物を差し出されては断れない。
「…………あむっ」
渋々肉を飲み込み、アーシャは口の中に『こめ』を迎え入れた。
「……………。……………っ!?…………!!」
そしてこの国の主食を、いつものように咀嚼していたのだが、アーシャの目は噛む度に見開かれていく。
最初はいつも通りだったのだが、肉が残した肉汁と脂とソースが、噛む毎に甘さを増す『こめ』に絡まると、相反する味が引き立って、味がとんでもなく濃く、よりまろやかになる。
噛めば噛むほど甘味が強くなって、より味が引き立ったのだが、やはり我慢できない喉が、美味しい塊を飲み込んでしまう。
アーシャは口に残る、ほのかに甘い味の余韻を、呆然としながらも楽しむ。
(『こめ』が肉の一部……いや、肉そのもの、いやいや、肉と合わさって新たなる喜びに……!!)
アーシャは信じられない気持ちで、見開いた目を、ゼンに向ける。
「…………『おいしーな』!!!」
そして力強く報告する。
ゼンはアーシャの言葉を聞いて、顔を綻ばせる。
「これ、アーシャの」
微笑んだゼンは、小ぶりの器に山盛りになっている『こめ』をアーシャに示してくれる。
「アーシャの」
その器を、アーシャはうっとりと見つめる。
二枚の肉と山盛りの『こめ』
まだまだ祭りは、ここからのようだ。
ゼンの前には、アーシャの器が三つぐらい入りそうなほど大きい『こめ』の器がある。
嬉しさのあまり揺れ動くアーシャの頭を撫でてから、ゼンは新たに取った肉を、その上にのせる。
一体何をするのだろうと見ていると、彼は器用に、いつもの二本の木の棒で、肉を『こめ』に巻いて、口に放り込む。
「………………!!!」
肉と『こめ』を同時に味わってしまう。
豪快な食の楽しみ方に、アーシャは感動して震える。
そして早速自分もと、スプーンとフォークを使って、苦労して肉を『こめ』の上にのせる。
アーシャは手が器用に動かないので、肉を巻くことはできない。
仕方ないので、アーシャは二つを一緒に掬って口の中に突っ込む。
肉だけでも口の中は満員気味だったのだが、『こめ』まで入れると、口を閉めることも難しいほどの超満員になる。
「んふっ!んふっ!んふふっ!!」
多少食べ難かったが、噛む毎に、納得して大きく頷いてしまうほどの美味しさだ。
不思議なことに肉だけを食べた時より、肉の味が濃厚になったように感じる。
『こめ』の甘みと、弾力のある噛み心地が、肉だけではカバーできなかった味の範囲を補完しているのかもしれない。
「アーシャちゃん、アーシャちゃん!うし、おいしーね!」
シノザキがアーシャと同じように幸福感に満ち溢れた顔で、ゼンと同じ、巨大な『こめ』の器を掲げて笑う。
「『うし』!『おいしーな』!!」
アーシャは彼女に大きく頷く。
シノザキは幸せそのものの顔で、カパカパと『こめ』を口の中に入れてしまう。
淑女にあるまじき量を口に入れているが、美味しそうに食べる彼女は最高に可愛らしい。
チマチマと小鳥のように食べ物をつついて食べるのが美しいとされていたが、シノザキのように豪快に食べた方が、アーシャには何倍も魅力的に思える。
(そっか、これは『うし』なんだ)
アーシャは最後の一切れも『こめ』と一緒に口に入れて楽しむ。
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
何回味わっても、いとも容易く屈服させられ、意味もなく納得しまくってしまう。
(『うし』は牛じゃないわ!!!)
そしてアーシャはそう結論づける。
畑を耕したり荷物を運ぶ、力持ちの牛の肉はカチカチで、木の皮を食いちぎっているようだと聞いたことがある。
と、言うことは、この『うし』は形が何となく似ているだけの、別の生命体だ。
「アーシャ、アーシャ、ぶ・た」
そんな事を思いながら、両手を掲げ、風に揺れる葦のような動きで、感動を発散していたアーシャの皿に新たな肉が積まれていた。
「『ぶた』!」
今度は白っぽい、肉汁と脂で表面を艶々と輝かせている肉だ。
(『こめ』との最強の組み合わせを味わう前に、まずは肉の基本的な戦力を確認………!!)
既に『うし』と『こめ』の共闘を味わったアーシャは、慢心していた。
少し食べたことで、胃のひりつくような空腹感も和らいでいるし、肉単体なら冷静に受け止める自信があった。
「…………んんんっ!!」
しかし口に迎え入れて、噛みついた瞬間、目を見開く。
肉から、これでもかと噴き出してくる、甘く感じる脂。
『うし』とは異なる柔らかさで、身は容易く歯を受け入れて分離するが、しっかりとした形が口の中で主張を続ける。
肉を食べているという、しっかりとした感覚を与えつつ、次から次に染み出してくる肉汁がソースと混ざり、口の中がトロトロになる。
アーシャは両頬を手で押さえながら、天を仰ぐ。
こんなに、食べるだけでお腹の底から爆発しそうな喜びを与える、罪深い肉があっていいのだろうか。
いや、罪深いのは、こんなに美味しく感じてしまうアーシャ自身なのか。
「お……お……おひひ〜〜〜〜!!」
あまりの美味しさに口に物を入れたままで、雄叫びを放ってしまう。
(『ぶた』も豚のことじゃないかも!?豚は確かに美味しかったけど、もっとこう、獣臭くて硬かった気がする!味は似てるんだけど、そっくりなんだけど、こんなに甘くなかった気がする!!)
『うし』よりも、しっかりと噛んで飲み下すと、砂糖などとは全く違う、肉の甘みというものが、体を震えさせる。
「おいしー?」
「『おいしー』!『おいしー』!『おいしーーーーー』!!」
ゼンに聞かれると、拳を突き上げながらアーシャは張り切って答える。
どれ程美味しいかと、言葉では表現できないので、アーシャは出来るだけ大きな振りで、美味しさを表現する。
アーシャが一生懸命答えると、ゼンは嬉しそうに頷きながら、白い肉をアーシャの皿に追加してくれる。
もちろんその肉は『こめ』の上にのせて、一緒にいただく。
「ん〜〜〜〜〜〜!!」
こちらの肉も『こめ』と一緒に食べると、たまらなく美味しくなる。
『こめ』は肉の最高のパートナーだ。
『うし』も『ぶた』も最高だが、どちらがより『こめ』に合うかと聞かれたら、『うし』かもしれない。
『ぶた』は自身の甘みが強いので、『うし』の方が『こめ』の甘みが引き立つ。
「アーシャ、『うし』?『ぶた』?」
ゼンに質問されて、卓の上を見れば、いつの間にか赤い肉薔薇の横に、白い肉薔薇の皿が置かれている。
火バサミで『どちらが欲しい?』とばかりに、肉の薔薇を交互に指すゼンに、アーシャは考え込む。
甲乙つけ難い。
どちらも美味しすぎて選択などできない。
「『うしぶた』!」
悩んだ末にアーシャは答えた。
どうしても選べなかった。
するとゼンは笑いながら、皿に白と焦茶の二切れの肉をのせてくれた。
「ふわぁぁぁ〜〜〜〜」
選べないなら、どちらもどうぞと言うことなのだろう。
しかしこんなに惜しみなく、肉をアーシャに与えてしまって良いのだろうか。
(ここまでもう五切れも食べてしまったんだけど大丈夫なのかしら!?)
嬉しいが、ちょっと食べすぎな気がする。
確認するようにアーシャはゼンの顔を見る。
「ん?」
アーシャの皿に肉を入れたゼンは、自分も肉を食べ、次々と『こめ』の塊を口に放り込みながら、首を傾げる。
一口一口が凄い量だ。
見れば、シノザキは楽しそうに、ユズルは真剣な顔で、吸い込むように肉を食べている。
卓の上にのる皿も、いつの間にか増えている。
———アシャ イソグ タベル。ヌシ タクサン タベル ヨロコブ
隣のバニタロからも激励が入る。
ここはどうやら、本物の肉の天国らしい。
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
アーシャはフォークを掲げ、肉と『こめ』を口の中に放り込み、感動に震えた。
そこからずっとアーシャの皿は空になることはなかった。
『うし』か『ぶた』、アーシャが希望した方を、ゼンはドンドンのせてくれた。
途中でシノザキが『ほるもー』なる、『うし』でも『ぶた』でもない、不気味な幼虫のような物を入れてくる事があったが、夢のような時間が続いた。
「『おいしーな』…… おいしー…… 」
丸々となったお腹が、腰に巻いたベルトにつっかえて、本物の夢に落ちるまで、アーシャは心ゆくまで天国を貪り続けたのだった。
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