17.聖女、社交を試みる(後)

少し皆から離れた所から観察して、上手く『社交』のルールを学ぶ。

そう思い定めたアーシャが、丁度腰掛けるのに良さそうな木の根を見つけて、歩み寄った時だった。

「………ん?」

何気なく座れそうな木の根に近寄ったアーシャは、立派な木の根の裏に、気になる物を見つけてしまった。


木の根と根の間に隠れるように、格子状に組まれた木の柵があり、その内側に、何とも可愛らしい、小さな家が建っていたのだ。

「か……かわいい……!!」

それを見て、アーシャは思わず声を出してしまった。


小さな家の屋根は銅らしき赤味を帯びた金属で作られており、何枚も貼り合わせているように見える細工がしてあって、まるで本物の瓦を敷き詰めてあるように見える。

屋根の頂点には大きな飾り柱のような物がのっていて、とてもお洒落だ。

屋根を支える梁等は、小枝ほどに細くて小さいのに、まるで本物の木材のように均一に切り出され、形を整えられ、繊細に組み合わされている。

屋根の下には凝った細工のノッカーまでついた、本当に開きそうな可愛らしい扉がついている。

家の周りには柵付きのウッドデッキまで拵えられている。

丁度木のウロに入り込むように作られているので、小さな家は少し高い位置に床があるのだが、そこに地面から上れるように、手すり付きの階段までついている。

ウッドデッキや階段の手すりの柱は、小指よりも小さいのに、可愛らしい涙型の装飾までついている作り込みようだ。

小さいが、本当に誰か住んでいそうな家だ。


(ノックしたい……!!)

アーシャは小さな家を囲う、木の柵に張り付く。

絶対妖精か小人が住んでいる。

そう信じたくなる程、出来が良い。

しかし残念なことに、木の柵が邪魔で小さな家には触れられない。


アーシャは左右を見て、誰も近くにいないことを確認する。

「……妖精さん?いますか?」

そしてコソッとその家に話しかけてみる。

「……………」

しかし反応はない。

(こんな騒がしい所に建っているから、声じゃ届かないのかも。どうにかあのノッカーを動かせないかしら?)

アーシャはノッカーを動かせる手頃な小枝などが落ちていないか、周囲を見回す。

「……………?」

そうして周りをよく見てから、小さな家が建っている木と、その周囲の異変に、ようやく気がついた。


(おかしいわ。これだけの大樹に神気が殆ど宿っていない)

大地に深く根を張る木は、地の奥底を流る力を引き上げる。

根が深く潜るほど、引き上げる力は強くなるので、大きい木になればなるほど、大きな力を吸い上げる。

なので通常は、大樹の周りは、木が吸い上げた神気が溢れているはずなのだ。

しかしこの大樹は、周りはおろか、本体にすら蛍の光よりも儚い力しか宿っていない。


(それほどまでに、この地は神気に乏しいのかしら)

アーシャは大樹の幹にそっと触れる。

神気は別に植物に必須の存在というわけではない。

大地から切り離して鉢植えにしても普通に育つ。

しかしここまで大きく成長した大樹には神気がないと辛いだろう。

(今の所は病気も虫の侵食も何もないけど、神気がこれほどまでにないと、危ういわ)

目を閉じて、しばし木の中を調べてからアーシャは眉根を寄せる。


更に意識を集中して、大樹の根元へ自分の感覚を移動させていく。

何の補助もないと、それ程下の方まで感じる事はできないが、この木の根に同調することで、地下を感じることができる。

(これは……神気が流れていたはずの空洞……?)

神気の奔流によって穿たれたであろう穴を取り囲むように、大樹の根は張り巡らされている。

しかし今は淡い残滓のような光が残っているだけで、ほぼ何もない。

(神気が枯れる。そんな事ってあり得るのかしら……?)

まるで水門を閉じられた水路のような空洞に、アーシャは納得いかないものを感じる。


(こんなの聞いたことがないわ)

神気は絶えず大地を巡り続けるはずなのだ。

聖女が地上に呼び起こしても、いずれまた巡って大地に還る。

流れる場所が変わる時も、川と同じで、ゆっくりと軌道を変えていくので、周りに似たような流れもなく、つい最近まで神気が流れていた痕跡を残して、こんなに不自然に枯渇するなんて考えられない。


―――神気を集める邪法

―――大罪を核に神気の浄化作用を利用して……


目を閉じて木に同調していたアーシャは、頭の中に流れた声に、ハッとして目を開ける。

「……………?」

そして胸を押さえる。

鼓動がドグンドグンと嫌な音を立てている。

緊張した時や、高潮した時、体を動かした時の鳴り方ではない。

酷く嫌な、忌まわしい物に狂わされている感覚だ。


(神気を集める邪法……?神気なのに邪法?大罪?何だっけ?)

乱された鼓動を深呼吸で治めながらアーシャは首を傾げる。

いつか何処かで聞いた事がある話の筈なのだが、その詳細や、誰が語ったのかも思い出せないのだ。

(小さい頃の記憶ならあやふやになるのはわかるけど……こんな気になる内容を忘れたりするかしら?)

流石に色々忘れ過ぎている自分の記憶力が心配になってくる。


うんうんと脳みそを絞るように頭を両側から押しても、それ以上の記憶は出てこない。

(神気を集める邪法って言うのは、とんでもなく怪しいけど、もしそんな物があるんだったら、この突然消えた神気にも説明はつく……けど、こうも記憶があやふやだとなぁ……)

大地を巡る力を、誰かがき止めている。

結果、周辺の神気が枯れた。

そう考えると筋が通る気がするが、根拠となる自分の記憶が不明確すぎる。


アーシャはため息を吐く。

ここまで枯渇が進んだ大地で、アーシャに出来ることはない。

神気を勧請してもろくな力を呼び起こせないだろう。

(明日、頂いた神具を持ってこよう)

しかし長い年月をかけて立派に成長した大樹が、神気も纏えず滅んでしまうのは切ない。

幸い、アーシャの手元には超強力な神具がある。

あれさえあれば、少しは大樹に神気を届けられるかもしれない。

(明日まで待っていてくださいね)

アーシャはガサガサとした木の幹をポンポンと叩く。


気を取り直し、アーシャは妖精の家をノックするための小枝探しを再開する。

しかし掃除が行き届きていて、ここの庭には小枝一本、葉っぱ一枚落ちていない。

「んんん!?」

諦めきれない気持ちで、もう一度木の柵の中を覗き込んだアーシャの目に、ぐったりとした老婆が目に入る。

小さな家の外廊下に、とんでもなく小さい老婆が倒れているのだ。

ネズミより尚小さく、小さくなったアーシャの掌にのせられるくらいの、手乗り老婆だ。

「あ、お、お婆しゃん!!大丈夫でしゅか!?」

思わず声を掛けると、老婆は辛そうながら、顔をあげる。

『誰かが呼んでおると思ったら、小さき器かえ』

老女は皺々の顔で微笑む。

『落ち着いたようだな。重畳ちょうじょう、重畳』

微笑むその顔は、昨日、出荷されると思い込んだアーシャに、散歩に出るだけだと教えてくれた老婆に違いない。

袖が大きくて、垂れ下がった服など、昨日見たままだ。


どうしてそんなに小さくなったのかとか、そんなに息も絶え絶えなのだかとか聞きたいが、言葉は通じない。

「………いや、通じてりゅ!?」

諦めかけて、しっかりと相手の言葉がわかっていた自分に気がついて、しばしアーシャは驚きのあまり固まってしまう。

「お、お婆しゃん、昨日はありがちょうごじゃいましゅた!」

何はともあれお礼を述べると、老女は倒れ伏したまま、ニコニコと笑って頷く。

『良き、良き。言葉の通じぬ異界暮らしは辛かろうが頑張るが良い』

やはり言葉が通じている。

老女は皺々の顔を更に皺くちゃにして、満足そうだ。

自分が倒れていることに気がついていないかのような鷹揚さだ。


久々の完全なる意思疎通に感動を覚えるが、小さな老女がぐったりとしているので、それに浸ることはできない。

「あの、お婆しゃん、お体に何かあいましちゃか?」

何で小さいんですかと率直に聞けないので、アーシャはそう問いかける。

『うむ。あと少しで消える所なのだ』

アーシャの問いかけに、老女はアッサリと答える。

あまりに平然とすごいことを言われて、アーシャは再び固まってしまう。

「き、消えりゅ!?」

『うむ。すまんの。小さき器がこちらに馴染むまでは保つかと思ったが、意外と早く力がつきてしもうた。前々から何処ぞの痴れ者が地の力に干渉しておったんだが、闇の君がお荒れになった時に、大きく力が動いて、体を維持できなくなってしまっての』

多分昨日が初対面だったはずなのに、老女はアーシャを支えることができない事を悔やんでいる。

そして自分が消えることを当たり前のように受け入れている。

「お婆しゃまは………この国の神………でしゅか?」

頭で理解するより先にアーシャの口からそんな疑問が転がり出た。


よく見れば老女は燐光を纏っている。

ゼンの強烈な神気とは違って、今にも消えそうで、昼間のランプのように頼りないが、確かに光を持っている。

『人の子がとして祀ってくれたモノだよ』

老女は背後に立つ大樹を見上げながら、肯定のような、否定のような、微妙な回答を返す。

『小さき器よ、ここでの生活は大変と思うが、ミネコがそなたを支える。あの子は我の瓶子をってしまったり、さかきたてに孔雀の羽を突っ込んだり、みずたまにふぁんたを入れて蟻を大量発生させたりして、やんちゃで困った子だった分、優しゅう育った。存分に頼る事だ』

「みにぇこ……みにぇこしぇんしぇい?」

ウンウンと老女神は頷く。

起き上がることもできない様子なのに、彼女の目はとても優しい。


「お婆しゃまは……消えてしまって良いんでしゅか?」

『良くはないな。ここの子らは春は花、夏は草、秋は木の実、冬は雪団子。いろんな物を捧げてくれた。健やかに育つ様をいつまでも見守りたかった』

そう言いながらも老女神はあまり生にしがみついてる感じはない。

先を望みながらも、滅びを運命と受け入れてしまっている、その不思議な感覚は神だからだろうか。

(神が消えるなんて……)

アーシャには信じられない。

元の国では神にも妖精にも出会ったことはないが、何となく不滅の存在だと思っていた。


「あの……人間のちかりゃでも、お婆しゃまにしょしょげば、元気にないましゅか?」

彼女は昨日、泣いて混乱するアーシャのために、無理を押して駆けつけてくれた。

人であれ神であれ、恩義がある相手が困っているのだ。

やれる事をやりたい。

『うん?祀ってくれるのかの?信仰は我らの源だ。人々の祈りが大地よりいずる力を我らに注ぎ、形作る。……まぁ、今の状態では万人が祀ってくれても脈が途絶えているからの』

諦めたように老女神は笑う。

結局は神気が必要ということだろう。

アーシャの中にある力は神気ではない。

神気と自分が食べ物を食べて作った力が混ざり合っている状態だ。

神気からも活動する力を得ることができるが、それだけでは人間としての体を維持できない。

人間である以上、食べ物から得る活力も重要なのだ。


「何か……できりゅことあいまちぇんか?私、きじゅや病気を治しゅとか、植ぶちゅを育てりゅとか、結界とか、浄化はできゆんでしゅ。人間相手には自分の力を移しゅこともできましゅ!」

人知を超えた存在なら何か方法を思いついてくれるのではないかとアーシャは意気込んで老女神に尋ねる。

そんなアーシャに老女神は目を細める。

「おやおや。小さき器は立派なかんなぎなのだね。ふふふ、じゃあ、我の木を元気にしてくれんかの?もう花芽をつけることも出来ぬから、ミネコがやたら心配して、良くわからん物を根元に刺しまくっての。……せめて綺麗な花を見せてお別れしてやりたくての」

「木!?」

アーシャは驚いて大樹を見上げる。

「お婆しゃまは……木……?木が神しゃま……!?」

理解が追いつかなくて、アーシャは高くそびえる枝々を見回す。


一神教が国教であったアーシャには驚くべき事実だ。

農民の中には土着の古い神々を未だ信じる者も沢山いたが、王都暮らしが長くなったアーシャには何となく神は天から降臨してくるイメージになっていた。

まさか巨木が神になるとは。

(恐るべし、神の国……!!)

信仰さえあれば神が本当に生まれてしまうなんて、驚嘆すべき事実だ。

それならばポコポコと人造の神を作り出せてしまうという事なのではないだろうか。


(神気を呼び起こさずに、これだけ高い位置にある木にどれだけ力が注げるかしら)

アーシャはチラリと時計台を見る。

『じーいちじ』まではまだ二目盛り残っている。

ゼンが迎えにきてくれたら、彼の神気をわけてもらえる。

彼の神気を分けてもらって注げば、きっと木も元気になるはずだ。

気負わずに、それまでの応急処置するくらいの気持ちで良いはずだ。


アーシャは息を吸い込む。

一瞬怒られるだろうかと考えがよぎったが、

(大丈夫。花を満開にしようってわけじゃやないもの。足りない元気を少し補充するだけだから、誰にも分からないわ)

そう心の中で言い訳をする。

神気は水のように高い所から低い所へは注ぎ易い。

そして低い所から高い所に注ごうと思ったら、水と同じで大きな力を使って汲み上げなくてはいけない。


吸い込んだ息を思い切りアーシャは吐き出す。

歌声にのせた力を更に上げるように、腕を舞い上げる。

くるりくるりと体を回して、勢いをつけて、下から上に力を押し上げる。

―――満ちよ

―――我が力を、その枝へ

―――幹を漲らせ、大地の恵みを受け取る根に再び力を

小さな体では音が伸びない。

風に散らされて、上手く上から力を注ぐことができない。

しかし途中からでも力が木の中に入っていくのは感じる。

残念ながら枝の先にまで力が満ちず、蕾をつけるまでの事は出来ないが、根が元気になれば、大地に残る微かな神気を吸い上げられる。

そうすれば病気や虫に食い潰されることはないだろう。


ゼンが来たらもう一度やらなくてはいけないので、自分の中の半分くらいの力を出してから、アーシャは歌と舞を止める。

大樹には大きな変化はない。

しかしその根本の家に住んでいる、老女神は起き上がって、ポカンとした顔をしている。

『これは……驚いた……遥か昔に絶えた………』

とりあえずの元気を得た老女神の姿にアーシャは胸を撫で下ろす。

これですぐに消えるなどという事態にはならないはずだ。


「おばあ……」

アーシャは老女神に話しかけようとしたが、パチパチと手を打ち合わせる音に遮られる。

驚いてそちらを見ると、ミネコセンセイが珍しく顔を紅潮させて手を叩いている。

「アーシャちゃん、すごい!」

砂の池の中に立っていたレミも激しく手を叩く。

レミの声が引き金になったかのように、周りの子供達も一斉に手を叩き始める。

「え?え?え?」

かなり大きな声で歌ったので、周りの目を集めたことは確かだが、外から見た大樹に、これと言って大きな変化はない。

アーシャがやった事など誰にも分からないはずなのに、小さい子たちは目を輝かせて、次々にアーシャに話しかけてくる。

何やら賞賛されているのは感じるが、特異な力に驚いているとか感銘を受けているわけではない。

子供たちは口早に何かを言いながらアーシャの腕を掴んで、振り回す。

中には横で大声で歌い出す者もいて、お前も歌えとばかりに肩をどつかれる。

「????」

突如人の波に飲み込まれたアーシャは意味がわからない。


「あーさ!」

もみくちゃにされているアーシャの前に立ち塞がったのはコータだ。

「コータ!」

まるで全身で子供たちの波を押しとどめるようにコータは両手を広げる。

「あーさわ蒐隷韓港ないんだよ!牒摘然線淵柁詞ないの!」

コータは何事かを、大きな声で、皆に伝える。

そして落ち着けとばかりに手を振って、熱狂を鎮める。


「おうた、じょーじゅ」

コータが皆を押しとどめる横で、ニコニコと猫目の男の子が話しかけてくる。

先程コータと一緒にいた、おそらくコータの弟であろう少年だ。

良くわからないが、コータの弟はアーシャの頭をヨシヨシと撫でる。

突然子供たちの荒波に揉まれたアーシャを労ってくれているようだ。

アーシャはホッとしてコータの弟に笑いかける。

「あーさ、あしょぼ」

すると嬉しそうに笑ってコータの弟はアーシャの手を引く。

別の所に一緒に行きたいようだ。


「あ、こ、コータ」

助けてくれたコータを置いていくわけにもいかないので振り返ると、コータは既に皆を鎮圧し終えたらしく、『どうだ!』とばかりに鼻高々な顔をしている。

コータに説得を受けた子供たちは、もうアーシャを引っ張り回したりしない。

「あたし、めい、めい!」

気がつけばコータの弟に握られていない方の手を、可愛らしい女の子に握られている。

先程までの早口が嘘のように、しっかりと話しかけてくれる。

「あちゃしめいめい?」

名乗られたのかと思って確認すると、女の子は盛大に噴き出す。

「め・い!」

「めい?」

「そー!」

「メイ、アーシャ」

女の子に自己紹介していたら、コータの弟がアーシャの手をブンブンと振る。

「あーさ!るーた!」

どうやら彼も自己紹介してくれているようだ。

「るーた?」

「ん!」

ルータは嬉しそうに頷いてくれる。


メイとルータの自己紹介を皮切りに、どんどん周りの子たちも自己紹介をしてくれる。

そして何故か、全員で砂の池に入る。

(あ、全然観察してない………)

何をするべきなのか全く理解していないアーシャは焦る。

そんなアーシャの手を、ルータは穴を掘れとでも言うように、自身が掘っている穴に導く。

「ほいほい!」

「ほいほい?」

良くわからないが、ルータの指導の元、アーシャは一生懸命穴を掘る。

アーシャやルータが掻き出した砂で、メイや他の女の子は山を作っている。


彼女らは楽しげに歌いながら山をどんどん大きくする。

讃歌だろうかと思ったが、それにしては随分と調子が良くて、踊り出したくなる曲だ。

まるでお祭りの時に皆が酔って楽しむ歌だ。

彼女らは歌ったり喋ったりしながら、大きくした山に洞窟を作っていく。

とても器用だ。


洞窟がある山があって、谷がある。

城壁のような細い山や、川のような窪みもある。

それはまるで小さな世界のようだ。

(習うより慣れろとは、よく言ったものだわ)

アーシャは目を輝かせる。

砂を捏ねるなんて初めての経験だが、やってみると、すごく面白い。

手の動きに沿って、砂は自由に動く。

筋をつけたり、深く掘ったり、丸めてみたり。

面白いほど、砂は姿を変える。

しかし自由になる反面、急に壊れてしまったりして、中々難しい。

きっとこれは自分達の世界を砂で再現する遊びなのだと気がついて、アーシャは夢中になって皆と一緒に山を作る。


言葉は全く通じないが、みんなが歌っている歌を真似したり、笑い合ったりして、とても楽しい。

みんな面白がって、次々にアーシャに歌を教えてくれる。

神の国には無限の歌があるのではないかと思うほど、沢山教えてもらった。

全部踊り出したくなるような楽しい曲だ。

(これが『社交』……!)

やれ夜会だお茶会だと貴族たちが熱心に集まりたがる意味がわかった。

神の国と向こうの国は違うので、砂を捏ねたりはしないだろうが、凄く楽しい。

一緒に何かを作って、同じ曲を口ずさみ、笑い合う。

ただそれだけの事が、こんなに楽しいものだとアーシャは知らなかった。

(誰かと一緒にすることなんて、行軍とか、浄化とか、そんなのばっかりだったもんなぁ)

何故こんなに受け入れられているのかは良くわからないが、きっとここの子供たちは凄く親切なのだろう。


時々大樹の方を振り返ると、みんなに話しかけてもらえるきっかけをくれた老女神が、木の根元に座って微笑んでくれる。

少し元気になったらしく、昨日と同じ人間大になっている。

(後で花芽をつけられるように頑張りますね)

無事子供たちの『社交』の輪に入れたアーシャは心の中で、老女神に語りかけるのだった。


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