14.兄弟、考察する

料理は最小限の手間で、そこそこ美味しいものを。

それが禅一の料理スタイルだ。

みじん切りにした玉ねぎはバターを加えてレンジに放り込み、ブロッコリーは今から使うフライパンに水を張って茹でる。

人参も面取りなどはせず、切ったものにバターと醤油などの調味料を入れて、こちらもレンジに放り込む。

因みに禅一はグラッセなどと言う名前は知らない。

バター入り人参の煮物という認識だ。


合い挽き肉に振りかけるのは塩コショウとして既に一緒になっている物だし、ナツメグなどの香辛料はそもそも家にない。

二十歳未満しかいない家には赤ワイン等存在しないのでソース作りに使うのは料理酒だし、みりんもみりん風調味料で、『本格派』な人々が食べたら眉を顰める出来上がりかもしれない。

しかし譲を含め、禅一の周りの奴らからは文句が出ないので、これで良いのだと思っている。

アーシャが大喜びで食べてくれるので、そのうち調味料類はきちんと揃えたいと思っているが、当面はお互いに無理せず馴染んでいくのが重要だ、と、マイペースな彼は思っている。


簀巻きにして強制休憩中の弟と、アーシャが仲良くしているうちに、禅一は手早く夕飯の準備を済ませる。

先程アーシャにもらったマニアックな錫杖のお礼に、篠崎の夕飯も作って、持っていく旨を連絡したが、応答はない。

(絶対集中しているな)

スマホを確認した禅一はため息を吐いた。


普段は着飾ってチャラチャラしている篠崎は、物作りにかける情熱だけは凄い。

彼は家業の手伝いをして生活費を稼いでいるのだが、作業に入ると全く周りが見えなくなってしまう。

親のデザインはダサいだの、もっと斬新なものを作りたいだの文句を言っているが、作業には一切の妥協がなく、比喩表現でも何でもなく、普通に寝食を忘れて集中してしまうのだ。

もう三回くらいは現代人にあるまじき、飢え死に寸前の栄養失調で発見された事がある。

三回中二回は禅一が見つけ、残りの一回は同じアパートに住む友人が見つけた。

二日くらい見かけなかったら生存確認しないといけないと言うのが、近辺に住んでいる友人たちの共通認識だ。


(別れた時の様子が、既にヤバそうだったからな)

そう思って夕飯を取らせるため部屋を訪れてみたら、玄関のドアは靴のヒールが引っかかって綺麗に閉まっていない。

「おいおい……篠崎?」

ドアを開けると、靴は脱ぎ散らされているし、先程背負っていた巨大なリュックは中身を漁ったまま玄関に放置している。

物取りの犯行後のような有様だ。

玄関からそのままリビングが見える構造は、禅一たちの部屋と同じだ。

篠崎は華美な服装のまま、リビング兼作業場の机に座り、一心不乱に何かを書きつけている。


「篠崎、上がるぞ」

そう言っても全く反応する事なく、篠崎は机に向かっている。

「ちょっとは作業場を片付けたらどうだ?」

返事のない背中にため息を吐いて、禅一は慎重に部屋の中に足をすすめる。

篠崎のリビングは工場のように、よくわからない器具や部品、工具が散乱している。

もう夕闇が広がる時間なのに部屋の電気がついてないので、光源はデスクスタンドだけだ。

正体不明のシルエットたちの中、真っ黒な影がガリガリと音を立てながら机にこびり着く姿は、さながら恐怖映画のワンシーンだ。


「おい、いくら田舎でも玄関くらい閉めないと、危ないぞ」

真横でそう言っても、篠崎は反応しない。

何かに取り憑かれたかのように、目を爛々と光らせながら、紙に何かの図案を書きまくっている。

知らない人間が見たら、狂人にも見えるトランス状態だ。

こうなると他人の声は全く届かない。

満足するまでやらせるか、殴って気絶させない限り、篠崎は止まらない。


(絵だけならすぐ復旧するだろ)

それ以上は邪魔せずに、禅一は勝手知ったる他人の家でメモを探し、『冷蔵庫・夕食入り、鍵・ポスト』と書いてデスクスタンドに貼り付ける。

それから部屋の電気をつけ、冷蔵庫に持ってきた夕飯を詰め込んで、玄関に放置された荷物周辺を重点的に鍵を探した。

(意外と時間がかかってしまった……)

玄関を開けた時に鍵を投げ捨てて、机に走ったらしく、脱ぎ散らかされた靴の中に鍵は入っていて、探すのに苦労してしまった。

施錠して、鍵をポストに投げ込んで、家に帰るまで結構時間を食ってしまった。




アーシャが寂しがっていないか心配しながら、急ぎ足で帰ったら、意外なことに譲が抱っこしていた。

「良かった。篠崎の家の鍵が見つからなくって時間がかかってしまって心配していたんだが、仲良くやってたんだな」

警戒心の強い弟と、新規加入の妹が仲良くなったようなので、素直に喜んだだけなのだが、怒った譲に尻を蹴り飛ばされてしまった。

「俺はお前が面倒見るって言うから家に置くのを了承しているだけなんだからな!世話を忘れてフラフラしてんじゃねぇ!」

プリプリと怒る譲を見ながら、

(犬猫を拾って帰ってきた子供が面倒を見忘れて、親に叱られているみたいだな)

と思ったのだが、言ったら火に油を注ぎそうなので、禅一は素直に謝った。


アーシャは禅一が帰ってくると、嬉しそうに、後ろをついて回る。

夕飯の支度を急ぐ禅一の邪魔にならないように、遠慮がちにちょこんとズボンを掴んでいる姿を見ると、無条件に顔が緩んでしまう。

(こんなに可愛いんだから、堂々と可愛がればいいのになぁ)

譲はブツブツと文句を言いながら、プリントアウトした地図に何やら書き込んでいる。

抱っこをしている所を見られたせいか、いつも以上に機嫌が悪い。

いや、機嫌が悪そうな顔を作っている。

(昔はもっと素直だったのになぁ)

そんなことを言うと余計に怒らせるので、禅一は沈黙を守って夕飯を食卓に並べる。


「ふあっ!?」

まだ誰かにくっついていたい様子なので、椅子同士を近づけてから座らせると、アーシャはテーブルの上を見て固まる。

彼女の熱い視線はハンバーグに釘付けだ。

いつもは腹の虫が鳴くと、恥ずかしそうにお腹を押さえたりするが、今日は複雑な音を立てても耳に入っていない様子で、ハンバーグを一途に見つめ続けている。


しばし停止していたかと思ったら、突然自分の両手で丸を作って上から重ねてみたり、皿に指を立てて厚さを測ったりし始める。

「こら!手で食べるんじゃない!」

譲に注意を受けても全く気にする様子もなく、天使でも召喚しそうな勢いで、天を仰ぎながら、何かを呟いている。

「アーシャ、アーシャ、いただきます」

そのままでは天使が降りてくるまで動きそうにないので、禅一はその背中をポンポンと叩いて食事を促す。

「ゼン!にーいみ!えいにぃ!にーいみ!!」

するとアーシャは禅一に突撃してきて、ぐりぐりと頭を擦り付ける。

肉が好きだと思っていたが、ここまで喜ばれるとは思っていなかった。


もう一度背中を叩いて促すと、

「いたぁきましゅ!」

と、パァァンっと音が響くほど手を打ち合わせる。

手を合わせるという行為自体は素晴らしいのだが、やはり迫力が凄まじい。

譲は頭を抱えてしまっている。


相変わらず何とも幸せそうに左右に揺れたり、頬を押さえて悶えたり、叫んだりしながらアーシャはご飯を食べる。

否、肉のみを食らう。

「アーシャ、アーシャ」

自分の適当デミグラスハンバーグが大ウケなのは嬉しいが、肉だけを貪る様子に、そろそろ譲の教育的指導が入りそうなので、禅一は白米をスプーンにのせてアーシャに勧める。

忙しく口を動かして、頬袋に肉を移動させて、口の中にスペースを空ける様子はハムスターそのものだ。

限界まで詰め込む様子は禅一にとっては物凄く可愛いのだが、視界の隅に入る譲は絶対零度の視線で見ている。


「んふぅぅぅ!」

アーシャは雪女ならぬ雪男になりそうな譲の様子など見えていない。

炭水化物とタンパク質の最高のコラボレーションに、ほっぺたを押さえて、元気に左右に揺れまくっている。

(日本人じゃなくても『美味しくてほっぺたが落ちる』なんて言うのかなぁ)

満杯の頬袋を小さい手で支えながら食べている姿を禅一は微笑ましく見守る。

(やっぱり肉は白米あってこそ輝くよな)

そしてウンウンと頷きながら自身もハンバーグと白米を一緒に味わう。


しかしここには、いわゆる『ばっかり食べ』を許さない男がいる。

「チビ!や・さ・い!」

ハンバーグばかりのアーシャに我慢できず、遂に教育的指導が始まった。

指導を受けたアーシャは、まるで今気がつきましたとばかりに驚いた顔で野菜を見る。

しかしすぐに謎の余裕の笑みを浮かべる。


アーシャは自信に満ち溢れた動きでブロッコリーをフォークで刺し、ワインでも掲げるように持ち上げ、渾身のドヤ顔を決めて禅一と譲を見る。

「ぶおこいー」

「「んふっ!!」」

自信満々に間違えられて、笑ってしまった禅一は、咄嗟に顔を背ける。

子供でも間違いを笑うのは可哀想だ。

見れば、譲もプルプル震えながら自分の顔を両手で隠している。


アーシャはテイスティングするようなノリで、ブロッコリーを口に放り込んだのだが、咀嚼する度に、目に見えて眉が下がって、しょんぼりとなってしまう。

「………………ん………うん」

茹でただけのブロッコリーは、子供には素っ気無い味だったのだろう。

得意満面な顔から、あっという間に情けない顔になってしまうから、禅一と譲の腹の痙攣は止まらない。


そんな中、気を取り直して、再びアーシャは胸を張る。

「にんしん」

そして二人の腹筋へのトドメとばかりに、再びドヤ顔を決める。

「「んんんっ!!」」

譲は完全に机に突っ伏して震えているし、禅一も腹筋の震えが止まらなくて、自分の腹を両腕で押さえつける。


悶える兄弟をよそに、アーシャは和風人参グラッセがいたく気に入ったらしく、次々に平らげていく。

再びの『ばっかり食べ』だ。

譲が復旧しないうちに、他の野菜も消費させようと、禅一はアーシャのフォークにブロッコリーを刺す。

「アーシャ」

それを口元に持っていくが、アーシャは再び情けない顔になってしまう。


「あ〜ん」

そう声を掛けると、凄く小さく口が開く。

眉も完全に下がってしまっていて、食べたくないというのがありありと伝わってくる。

それでもきちんと口に迎え入れてくれるから、素直なものだ。

微笑ましく思いながら、禅一はハンバーグもフォークに刺す。

「アーシャ、あ〜ん」

今度は口元に持って行った途端、飛びつくようにして食らいつく。

本当に反応が素直すぎて、笑ってしまいそうだ。


「………ん!」

不思議そうな顔で二、三度咀嚼してから、アーシャは顔を輝かせる。

どうやらブロッコリーとハンバーグの組み合わせは、お気に召したらしく、何度も頷いて食べ始める。

禅一が微笑ましくそれを見守っていると、アーシャはウキウキとしながら、次々とブロッコリーを食べる。

どうにも一度美味しいと思ったら、それを食べ続ける癖があるようだ。

そんなアーシャにようやく笑いが止まった譲が厳しい視線を投げかける。

バランスよく食べる譲には、取り残されたトマトが気になって仕方ないらしい。


譲が無言でくし形に切ったトマトを指差すと、アーシャはトマトをじっと見つめる。

食べたくないとか嫌いとか、そういう反応ではなく、初めて見たような顔で観察しているのだ。

そんなアーシャの様子に禅一は首を傾げる。

(トマトなんかメジャー中のメジャーだし、トマトが珍しい国なんかあるか?)

知り合いの外国人留学生たちはトマトとチーズが主食なのではないかと思うほど食べている。

それを見た事すらないなんて、アーシャが今までどんな食生活を送っていたのかと、禅一が心を痛める。


アーシャは真剣な顔でトマトをフォークでつついて、調査を続けている。

禅一は気の済むまで調査させてやろうと鷹揚に構えていたが、気の短い譲は、耐えかねたように身を乗り出し、アーシャのフォークをトマトに突き刺してしまう。

「おぶっ!」

そして無理やりアーシャの口の中にトマトを突っ込む。

やりすぎだと口を挟もうとしたが、アーシャの驚いた顔が、すぐにキラキラと輝き始める。

「ん〜〜〜〜!」

どうやら美味しかったらしい。


その様子を見て、譲は満足そうに食後のお茶を飲み始める。

お茶を飲みながらスマホを取り出してしまうのは、現代人のさがのようなものだろう。

譲は何やらスマホの情報を確認し、脇に避けていた紙束を引き寄せ、書き込みを始める。

「今日回ってきてくれた所の情報か?」

「あぁ。……とは言っても、思ったより数が多いから、そんなに回れてないけどな」

A3の紙を繋ぎ合わせた地図を覗き込んで、禅一は顔を顰める。

「思ったより凄い数だな」

ざっとしか情報を見ていなかったが、改めて地図上に書き出されると、問題が起こっている場所を示す×印が異常に多い。

「出てる場所がランダムで、これといった法則性がねぇんだよ。穢れってやつは大体霊道とかそういうのに沿って溜まったりするもんなんだけど……出るはずがねぇと思っていた場所にも出てるしな」

珍しく譲が弱気だ。


禅一には見えない世界を色々と見ている譲は、『安全な場所』や『行かない方がいい場所』などを、ある程度心得ている。

何でも地面の奥深くに大量の氣が流れている場所や、それが地表に出てくる場所があるらしく、そういう場所が『安全な場所』で、地表に出た大地の氣が向かう先が『行かない方がいい場所』らしい。

何でも、穢れが溜まる場所に向かって氣は流ていき、時間をかけてゆっくりと浄化していくらしい。

大地の自浄作用とでも言えば良いのだろうか。


「ん〜〜〜法則性かぁ」

禅一も地図を見るが、確かに×のついている場所は、連続していたり、何かのラインに沿っていたりしているわけではない。

素人だからこそ何か気がつくことがあるのではないかと、注意深く見つめる。

そんな禅一の手元を、口をモゴモゴと動かしているアーシャが覗き込む。

口の周りをトマトの汁だらけにしながら、興味津々に地図を見つめる姿に、緊張が緩むのを感じる。


禅一はティッシュでアーシャの口の周りを拭いてから、地図上の家を指で叩いて示す。

「う・ち」

そして一番わかりやすいであろう近所のスーパーまでの道のりを、指で辿って見せる。

「スーパー」

アーシャはそんな禅一の指をじっと見つめる。

今日歩いた散歩コースなんかを示してもいいかなとも思ったが、情報を詰め込んでもわからなくなるだろう。

禅一はスーパーから自宅に戻る道をもう一度辿って見せる。

「あ!」

するとわかった!とばかりにアーシャが顔を輝かせる。

自宅とスーパーの位置関係を理解したのだろう。


アーシャは目を輝かせながら地図を見て、小さく首を傾げて、チョンチョンと×印を手で辿る。

そこだけ手書きだから目につくのだろう。

「あぁ」

しばらく首を傾げて地図を見ていたアーシャは、不意に納得したように頷く。

そして小さな指でぐるりと地図上に円を描いた。

「「……………!!」」

それを見た譲と禅一は息を呑んだ。


小さな指が描いた円の中には一切×印がない。

さまざまな場所に散っているので気が付かなかったが、確かに彼女が示した部分だけは何も発生していない。

しかもその円の中心辺りに今日行った場所がある。

「……分家の周りは……なんか、こう、結界的なものが張られているのか?」

禅一がそう聞くと、譲は渋い顔をする。

「住処の周りに結界を張っているのは当たり前のことかもしれないけど……………おかしい」

スマホと小さな手帳を取り出して×印の横に、青と赤の二色で二つの数字を書いていく。


記入を終えた譲は地図を指し示す。

「この青い方の数字が、向こうが出してきた資料にあったレベル表示。1から5まであって数字が上がるほど危険度も上がる」

青で書いたほうの数字はこれと言って法則性がない。

「で、赤で書いた方が、今日俺が見て回って訂正したレベル」

赤で書いた方の数字は、先程アーシャが描いた円の近くになればなる程、数値が大きくなっていく。

完全に距離だけに沿って、レベルが決まっているわけではなさそうだが、概ねはそうなっている。


「ここには龍脈が走っているはずだ」

スッと譲の指が地図の上を走る。

譲が示したラインに近い所はレベルが低くなっている。

「りゅーみゃく」

わかっていますとばかりにフムフムと禅一は頷くが、その禅一に譲は半眼を向ける。


「禅、お前、わかってるよな?村でちゃんと教わってるよな?」

疑わしい視線に、禅一の視線はスススッと流れる。

「あ〜〜〜、まぁ、教わったような………でも、なんか、その、俺にはよくわからんし、あんまり関係なさそうな物は興味がなくて……」

モゴモゴと言い訳をする禅一に譲の絶対零度の視線が突き刺さる。

「関係大有りに決まってんだろ!てかお前が一番の当事者だろ!」

ギリギリと禅一の頬は引き伸ばされる。

「龍脈は大地のぶっとい氣が走っているところ!氣なんだから、もちろんお前にもしっかり関係がある!!」

「しゅ……しゅまん……」

禅一には譲の怒りに両手を上げて降伏することしかできない。


「……とにかく!普通の結界なら、周りにこんなに影響が出るのはおかしい。結界の近くが浄められているならまだしも、その近くに強力な穢ればかりが発生する意味がわからない」

禅一の頬を解放した譲は、勢い良く椅子に腰掛けながら、そう断言する。

「穢れの大量発生に分家が噛んでいるって事か?」

禅一が聞くと、譲は腕を組んで、眉根に皺を寄せる。

「断言することはできねぇ。でも奴らを完全に信用するのはやめた方がいいかも知れねぇな」

禅一と譲の間に沈黙が落ちる。


穢れの大量発生に奔走しているはずの会社と国家組織。

それらを指導し、時に力を貸しているはずの分家。

どちらにも穢れを活性化させて得することなど一つもないはずだ。

「わからねぇ事だらけだが……明日、しっかり調べる必要性があるな」

譲はガリガリと頭を掻きながらそう言う。

禅一はそれに頷きながらも、隣で、まだせっせとご飯を食べているアーシャを見る。


急に護衛が信用できなく感じて、心配になってしまう。

危険なところに連れていくわけには行かないが、人に預けるのも不安でならない。

「チビは多分大丈夫だ」

しかし妙に自信たっぷりに譲は断言する。

「言い切れるのか?」

「絶対とは言い切れないが対人戦なら乾先生がいるし、人以外や氣を操る者は、あの土地で悪さはできない」

絶対ではないと言いながらも、譲の言葉は自信に溢れている。

もしかしたら何かが見えているのかもしれない。

「まぁ……乾先生はかなりの身のこなしだったからな」

見えない禅一には人の力を信じる他ない。



「ふはぁ〜〜〜」

深刻な二人の話し合いを、満足そうな声が遮る。

子供には大きすぎるかもしれないと思ったハンバーグを、見事全て平らげて、アーシャが幸せそうにお腹をさすっている。

彼女は二人の視線に、何とも幸せそうな笑みで応える。

「ごちしょーしま!」

いただきますの時と違って、うっとりとした様子で、手が合わされる。

そんなアーシャを見て、禅一と譲は顔を見合わせ、体の緊張を解く。

そして譲は額を押さえ、禅一はアーシャを撫でまくりながら笑うのだった。


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