10.鍛人、出会う(後)
芳幸は車から巨大なリュックを取り出してトボトボと歩く。
大学の冬休みに合わせて、久々に長く実家に帰っていたせいで、気分が落ち込んでいる。
実家は物を作る環境が整っていて、家業の手伝いも思い切りできるが、長くいると否定に次ぐ否定を受けて、流石に凹んでしまう。
やる気がごっそりと失われて、当たり前の存在としてに自分をスルーしてくれる奴らが恋しくなる。
そんな芳幸は同じく駐車場に入ってきた車を見て目を輝かせる。
「あれ?ゆずっちじゃ〜〜〜ん!」
ご近所のよしみで、ゴリ押しで仲良くしている藤護兄弟の車だったのだ。
落ち込んでしまった気分を盛り上げるように声をかけるが、車から出てきた、藤森兄弟の白い方こと譲は、素っ気無く、振り向きもしない。
彼には声をかけてもガン無視されることは珍しくないし、何なら目がバッチリ合っても気がついていないフリを強行される事もあるので、手を振った事をスルーされる程度ではめげない。
そのまま駐車場で偶然出会えた事を祝して、追撃のウザ絡みをしに行こうと、その後を追いかける。
「………?」
しかし、どうも様子がおかしくて、芳幸は首を傾げて立ち止まる。
基本的にカッコつけた余裕の歩き方しかしない譲が、必死さを隠す事なく家に向かって走っている。
(完璧王子も下痢とかするんだ?)
家に駆け寄る用事なんて、それくらいしか思いつかない。
シモが爆発しそうな時に絡む程、芳幸は無慈悲ではない。
ここは黙って行かせてやろうと、彼を見守った。
「…………??」
しかし肝心の譲は、家の鍵を開けた途端、固まってしまった。
(まさか………トイレを目前に決壊しちゃった的な?)
芳幸も鬼ではない。
無言でトイレットペーパーを差し入れてやろう。
そう思って、気配を消して自分の玄関の方へ足を向けようとした。
「あぁぁぁぁ!」
しかしその瞬間、譲が発狂したのだ。
驚いて振り向いたら、お腹を押さえているのか、腕を抱え込んで蹲っている。
「…………ぁぁっっ!」
苦悶に身を捩る様子が尋常ではない。
(第二波が来ちゃった!?漏らして精神崩壊しちゃった!?)
芳幸は藤護兄弟を見習い、立派な空気を読まない子ちゃんに成長したが、気遣いはできる子である。
漏らしている事に気が付かないフリで近づき、介抱してあげようと、譲に駆け寄る。
「え〜〜〜?何々?パントマイムの練習とか?邪気眼開いちゃった感じ?」
そう言いながら明るく近づいたが、元々白い譲の顔がとんでもない色合いになっている事に気がついた。
「わ!アンタ、顔色激ヤバ!自信満々にミスコンに出た挙句、俺の美貌にあっさり敗退したリコ並み。臨終寸前の勢いじゃん!」
慌てて支えようとした手の甲に、ひんやりとした譲の首筋が触れる。
「ちょっと!何なの、この冷たさ!え?冗談抜きでアーメン待ったなしな感じ!?ハロー?三途の川見えてる!?」
安否確認にも全く譲は反応しない。
下痢かと思ったが、特に漏らしたような匂いもしない。
「やだ、口から生まれたツッコミ太郎が反応なし!激ヤバ!」
絶望的に病気関係の知識がない芳幸は焦る。
(下痢じゃなかったら何!?もしかして心臓おさえてる?えっと、何だっけ?ADB?ABM?AED?いやいや素直に救急車?)
対処方法が全く思いつかない。
オロオロしていたら、藤護兄弟の黒い方こと、禅一の声が聞こえる。
「あ、禅、いるんじゃ〜〜〜ん、判断つかないから救急車談義しないと」
普段はぼんやりしている禅一だが、ここぞという時は頼りになる男なのだ。
芳幸は安堵の息を吐く。
「譲!?」
しかし禅一が現れたら、譲はさらに苦しそうにうめき始め、ダンゴムシの防御姿勢のようになってしまった。
意外と動くので、下痢・心臓などは大丈夫なのかもしれない。
「ゆずっち〜〜〜!!だいじょうぶ〜〜〜!?」
肩を揺らしてみるが、意外と力強く抵抗される。
もしかしたら肉体的な問題ではなく、メンタル的にどこか崩壊しているのかもしれない。
今までの行動はあまりにもおかし過ぎる。
「ぜ〜〜〜ん、何か譲がおかしいんだけど〜〜〜?遅く来た厨二病が重症化した感じ!?右目が疼く的な!?」
走り寄ってきた禅一に助けを求めるが、
「右目が疼くのか!?」
表現が多少通じにくかったようだ。
「譲、ちょっと顔を見せてみろ。何か入っていないか見るから」
「ちょいちょい、何も入ってないって。入ってるのは遅くやってきた厨二病ソウルだけ」
ボケを継続する禅一に、芳幸はツッコミを入れつつ視線を向ける。
「……………」
そこで禅一の胸に、とんでもなく可愛い生物がくっついている事に気がついた。
クリンクリンふわふわの黒褐色の巻き髪。
陶磁器のように真っ白な肌。
青織部のように複雑な色合いを見せる美しい緑の目。
子供なのに驚くほど長い、カールしたまつ毛。
いかにも柔らかそうなピンクの唇。
少しばかり痩せ気味で、着ている服のセンスが悪いが、とんでもなく可愛い。
可愛すぎて、一瞬、禅一がドール
「か、か、かわわ、かわわ!!」
上手く言葉にならない。
隣でゲホゲホ言っている譲の存在が吹っ飛ぶ可愛さだ。
「じゃあ、少しの間、頼むぞ」
可愛さに感動している間に、何故か譲は走り始めていて、禅一も胸の可愛い生物を芳幸に渡して走り出す。
相変わらず行動が謎な兄弟だが、もうそんな事、芳幸にはどうでも良かった。
光によって色の変わる、綺麗な緑の目が真正面から芳幸を見つめてくる。
「カラコンじゃないよね、このグリーンアイ!めっちゃキレイじゃん!!」
話しかけるが、よくわからないらしく、キョトンとした顔で芳幸を見上げてくる。
(こんなにちっちゃくて、可愛いのに、動いてる〜〜〜〜!!)
人形を抱っこしているくらいの重量なのに、しっかり生きて動いていることに感動してしまう。
ビスクドールと言うには髪の長さが足りないが、しっかりと髪を梳かして、ガタガタな所を揃えて、ヘッドドレスか大きなリボンをつければ、絶対に可愛くなる。
遠慮がちに芳幸に添えられた手は、小さいし、指も一本一本が動くのが不思議に感じるほど細い。
すごく小さい指に、これまた小さい爪が一つ一つついているから
(良く出来てる!)
なんて思ってしまう。
「と……整えたい……!!」
惜しむらくは髪同様、ガタガタで割れかけている所まである事だ。
芳幸に任せてくれたら、オイルを塗り込んで、研いで形を整えて、割れかけているところにはベースコートを塗って保護して仕上げてみせる。
見知らぬ人に抱っこされて落ち着かないのか、緑の目は芳幸の方を見ずに、禅一たちを追っているのだが、意志を持って動いているだけで可愛い。
生きていて、動くビスクドールなんて夢が具現化したような存在だ。
(やわらかい〜〜〜!)
そのほっぺたをプニュプニュと指で突いてみて、芳幸は感動する。
陶器のように白いが、陶器ではなく柔らかな肌だ。
「?」
すると小さく首を傾げてビスクドールが芳幸を見上げる。
(はい!あざと可愛い角度いただきました〜〜〜!!)
もう計算し尽くされているとしか思えない、可愛すぎる角度だ。
「お・な・ま・え・は?」
声を聞いてみたい一心で、芳幸は話しかけるが、ビスクドールはわからないらしい。
眉を八の字にした申し訳なさそうな顔になって、肩をすぼめて、ブンブンと首を振る。
「あ、ちょ、も……可愛すぎぃぃぃぃ!!」
この仕草は可愛い。
もう我慢できない。
お家に連れ帰って、この世で一番可愛く飾り立てたい。
芳幸は可愛いお人形さんを抱きしめて、心の咆哮を上げる。
「篠崎、アーシャが戸惑っている」
そんな芳幸の腕から、あっさりとビスクドールが奪われる。
あっという間に帰ってきてしまった禅一だ。
「あ〜〜〜!ちょっと!生きたビスクドールが〜〜〜」
取り戻そうと手を伸ばすも、
「誰がビスクドールだ。れっきとした人間だ」
顔面を握って遠ざけられて近付けない。
リーチの差が歴然すぎる。
「アーシャ、シ・ノ・ザ・キ」
禅一が芳幸を指差して紹介すると、緑の目が再び彼に向けられる。
「篠崎芳幸、ユッキーで良いよ♡ユッ・キー」
芳幸は可愛く手を振ってみせる。
生きたビスクドール、改め、アーシャは小リスのような仕草で首を傾げる。
「しのざき?ゆきー?」
小さい子特有の高い声で、まだ上手に舌を動かせていない発音が、思った通り可愛い。
「ユッキー!」
呼んでくれたことが嬉しくて、芳幸は食い気味に返事をする。
するとアーシャは芳幸を見て、にっこりと笑った。
ビスクドールの浮かべるお上品な微笑みではなく、歯が丸見えになるような幼い微笑みだ。
「ユッキー、アーシャ」
「………………んん!!しゅき!!!」
お上品なビスクドールも綺麗で可愛いけど、こっちの方が数倍可愛い。
名乗ってくれたアーシャに飛びつこうとした芳幸だったが、巨大な掌に阻まれる。
「アーシャが怯える。やめんか」
「怯えるって何!?可愛い×可愛いでメガ特級進化しようとしている時に水を差さないでくれる!?」
頭部からこめかみまでをがっしりと掴まれながら、芳幸はビシッと禅一に指を突きつける。
「よくわからんが、勝手に合体しようとするな。この子はうちの子だ」
「はぁ!?うちの子ぉ!?目の色、肌の色、髪質、顎のライン、どれをとっても一ミリも遺伝子の重なりを感じないのにうちの子ぉ!?」
「遺伝子は一ミリも混入していないが、俺の妹になった」
「えぇぇぇ〜〜〜、それなら俺の方が相応しくない!?同じくらい可愛いし!」
「可愛いに何のポテンシャルがあるんだ」
「ポテンシャルしかないっての!」
芳幸は失礼な言いように憤慨する。
「可愛いの力を全く理解していないから、こんなに手入れしてあげてないんでしょ!可愛いは『え……こんなのできない……』の一言で過去問も実験レポート出てくる魔法の力!可愛いの付加価値舐めんな!」
「小さな付加価値だな………って、手入れ?」
「そう!髪はボサボサだし、爪もガタガタ、服はダサダサ!俺なら一流のケアと品々で最っ高のビスクドー……じゃなくて、女の子に仕上げられるね!」
「ボサボサ、ガタガタ、ダサダサ……」
禅一はショックを受けて芳幸の顔を解放する。
ブツブツと『そんな……』などと言いながら、腕の中の妹を確認している所を見ると、彼なりにはちゃんとしているつもりだったのだろう。
「これだから可愛いのトキメキを知らないガサツな奴は。とびっきりの『可愛い』ってヤツを見せて開眼させてやらないとわからないんだろ」
そう言いながら、芳幸は自分の荷物を漁る。
丁度先日、とびっきりの『可愛い』を作ったばかりなのだ。
大股びらきでしゃがみこみ、荷物を漁る姿は可愛いからかけ離れているのだが、そんな細かい所は気にしない。
「まぁ『可愛い』を見てもま〜ったく理解できない奴は理解できないんだけどさ。『男は』『女は』とか主語は大きくしたくないんだけど、うちの男どもは全っ然ダメ。理解できないの。全滅。仏具とか神具ばっかり作って感受性が摩耗してんの」
盛大にダメ出しを食らった恨みを呟きながら、古布で包んだヤスリや、細かい工具、愛用の槌などがみっちりと詰まった登山用リュックを漁る。
地元では『ご近所様に見られたら生きていけない』と母親が大袈裟に泣くものだから、洋服の類はそんなに入っていない。
大変不本意だが、多少カスタムしたツナギとジャージだけだ。
因みに今着ているのは途中の道の駅で着替えてきた服だ。
リュックの中から一際丁寧に布に巻いた、目的の物を芳幸は引っ張り出す。
「じゃ〜〜〜ん!」
そして魔法少女系アニメの決めポーズを真似ながら、それを構える。
「…………………」
「…………………」
禅一と譲はそんな芳幸を無の表情で見守る。
「ふっふっふっふ。超かわいーでしょ〜〜〜〜!!」
芳幸は大きく胸を張る。
「可愛いというか……」
「ド派手な……錫杖……?」
それは全長三十センチの手持ち用の錫杖だ。
錫杖頭は真鍮製で持ち手は白樺……を基本としているが蔦のようなデザインで金属を這わせ、ガラスをカットして磨いた宝石もどきで飾っている。
錫杖頭のトップには大粒の水晶とカット加工を施した小さな水晶を飾り、頭部の円は唐草とも
磨かれた真鍮と一緒に、沈み始めた夕日を受けて、錫杖全体がキラキラと輝いている。
「煩悩を払うと言うより……力技で煩悩を発生させそうな錫杖だな」
「これを持った坊主が
そんな素晴らしい錫杖に対して藤護兄弟は好き勝手言っている。
「ちょっと!アンタたちもこの乙女心をくすぐる超絶デザインがわからないの!?大丈夫!?この可愛さが見えないなんて視神経死滅してんじゃない!?」
芳幸は憤慨する。
「いや……しかしこれは……」
「こんなん坊主が振ってたら、護摩の中に頭から突っ込んで浄化してやるぞ。可愛い物を作りたいなら素直に魔法のステッキを作れよ」
しかし藤護兄弟の反応は相変わらず冷たい。
「こ・れ・は、
「一石というか……」
「狂気だな」
熱く語る芳幸に藤護兄弟は余計なことしか言わない。
「バエ錫杖!これを寺近くのお土産屋さんに置いてもらったら、SNS依存症から魔法少女志望者までホイホイしちゃうよ?爆売れよ!」
「意外とターゲット層が狭い」
「バエを求める奴はまず寺に行かねぇだろ」
力説するもやっぱり藤護兄弟のツッコミは止まらない。
「〜〜〜〜〜〜」
芳幸の自信作は誰にも評価されない。
こんなにキラキラで造形にもこだわって、可愛いのに、親兄弟にも『材料費と時間を無駄にするな』と怒られてしまった。
自分なりに全力で作ったのに、ここまで酷評される意味がわからない。
「想像してみて。お土産屋さんに入る。そこでお子さんが『ママ〜これ欲しい!』と手に取るわけよ」
「取るかな……?」
「取らねぇな」
何とか息を落ち着けて説明に入ろうとするが、余計なツッコミがすかさず入る。
「手に取るの!……はい、アーシャちゃん」
「ほえ?は?え!?」
ぼんやりとしていたアーシャに錫杖の持ち手を差し出すと、目を大きくして驚いている。
「手に取って、目をキラキラとさせて……」
「「いや、させんだろ」」
ここにきて波状ツッコミだった藤護兄弟がハモる。
苛ついた芳幸が抗議しようと口を開いた時だった。
ガシッと、差し出した錫杖が、予想以上の力強さで握られた。
「ふぉぉぉぉぉぉ!!」
それと同時に可愛い雄叫びが上がる。
緑の目がまんまるになって、白かった頬が上気してリンゴのようなっている。
「……目を………キラキラさせて……」
自分で言い出しておいて、実際に目をキラキラさせられると、心臓を締め付けられてしまって言葉が続かない。
可愛い子が可愛い物を持っていたら最強。
可愛い子に可愛いを与えられる者が最強。
それを藤護兄弟に見せつけて、力説したかったのに、脳みそが言葉を捻り出してくれない。
憧れ、感動、喜び、尊敬。
輝く緑の目やその表情には、そんな物が溢れている。
事情も何もわかっていない子供だからからこそ、忖度も何もない、まっすぐな感情。
芳幸の作ったオリジナルの錫杖は、シャラシャラと小さな手で鳴らされ、満面の笑みで迎え入れられている。
『自分』の作った物が、こんなに熱く受け入れられた。
その瞬間、体の中でずっと燻っていたものが、喜びに姿を変えて、火山のように噴き上がってくる。
家の手伝いで作っていた道具たちは、『よく出来ている』と褒められた。
本家の見習いに行って打った刀たちも、『素晴らしい』と好評だった。
受け入れられるのは嬉しい。
でもそれらは旧来のしきたりに従って生み出したもので、『自分』の物ではなかった。
どれだけ巧みに作っても、満たされなかった。
従来の図案に従い美しく作ることはできたが『可愛く』はなかった。
だから久々の長期帰省で自分の『可愛い』を詰め込んだ作品を作ったのだ。
しかし結果は散々だった。
『恥ずかしい』と受け入れてもらえない自分の姿同様、誰も芳幸の入魂の品を受け入れなかった。
見てくれればきっと理解してもらえると思っていたのに、全否定されて、流石に凹み始めてしまった。
そんな芳幸の結晶とも言える作品が、初めて受け入れられた。
錫杖を小さな手が握りしめ、うっとりと見つめられている。
賞賛の言葉などなくても、その様子だけで、物凄く気に入ってもらえたことがわかる。
「……篠崎、前言撤回だ。これ、売ってもらうことは可能か?」
全否定だった禅一はあっさりと態度を翻す。
「おい、禅……」
譲は顔を顰めて反対しようとするが、禅一は力強く押し留める。
「アーシャが食べ物以外で、これだけ反応したのは初めてだ。注ぎ込む価値はある」
「注ぎ込むったって……」
キッパリと言い切る禅一に、譲は頭を抱えている。
「…………いや、やるよ」
錫杖に頬擦りでもしそうな勢いのアーシャを見ていると、潰れそうだった芳幸の自信が、ムクムクと復活を始めるのを感じる。
たった一人。
されど一人。
強力な肯定者だ。
道具は千人が駄目だと言っても、選んでくれる、たった一人が現れればいいのだ。
千人が欲しいと言っても、手に入れるのはたった一人なのだから。
そして芳幸の『可愛い』も選んでくれる人はいた。
「んふふふふふふふふ」
芳幸は大きく胸を張り、鼻の下を擦る。
やはり『可愛い』は正義で、世の全ての根源だ。
そして『可愛い』を持った『可愛い』も最高に可愛い。
くしゃくしゃと柔らかい黒髪を混ぜっかえすと、まるで神からの啓示のように頭の中に作りたい物のイメージが降りてくる。
髪も爪も服も靴も色々面倒を見てあげたい。
「じゃ!また後でね!」
しかし今は降りてきたものが記憶の波間に消えない内に、書き留めなくてはいけない。
こんなに創作意欲が湧いてきたのはいつ以来だろうか。
芳幸は弾む足取りで自分の作業スペースを目指した。
後日、百枚を超えるラフデザインを持ち込んだ芳幸が、譲に絶対零度の視線を向けられたのは、言うまでもない。
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