6.兄弟、虫を捕まえる(後)

「あの村は排他的で、村の外の人間を忌避して、交流がないと思ってたから、外の人が内情を知ってるって事にびっくりしたんですよ」

禅一はそう穏やかに話し始めた。

「あ、俺たちの情報はどれくらい知っています?」

相手の情報を手に入れたいなら、まず懐に潜り込む。

禅一はにこやかに、武知と青年に語りかける。

「それほど知っているわけでは……」

武知は困った顔で答える。

青年の顔を見たら、青年は武知の言葉を肯定するように、ブンブンと頷く。


禅一は一つ頷く。

「俺達が藤護の苗字を名乗り出したのは、六年前、俺達が十三歳の頃からです。その辺りの事情は?」

青年は問いかけに答えず、隣に座った武知の顔色を確認する。

武知は渋い顔で、ゆっくりと頷く。

「ある程度は……知っているかと」

「きっかけになった事件のことは?」

間髪入れずに尋ねると、一瞬だけ武知は止まったが、すぐに首を振る。

「いえ、細かい事は……」

青年の方は目が泳ぎ回っている。

攻めるならこちらだなと、禅一は狙いを定める。

「警察が介入したのに?ご存じないんですか?」

少し意地悪な質問をすると、武知の顔が硬くなり、青年の方は動揺を隠すためか、完全に下を向いてしまった。


「………貴方たち兄弟が誘拐されて、藤護の家に引き取られるまでの経緯は大体」

「誘拐犯が俺たちの母親だった事は?」

「……………知っています」

気まずそうな武知に、禅一はニカッと笑って見せる。

「じゃあ話が早くて良かったです。村の人間は外の者を嫌っているんですけど、とりわけ、俺たちの生物学的な母親は嫌われているんです。何せ、俺たちを妊娠した時に堕胎費用と言って大金をせしめたくせに、実際は堕胎せずに出産し、度々金をせびり、最終的には後継が欲しければ手切金を出せと、誘拐騒ぎまで起こしたような女ですから」

あははっと笑って見せるが、武知達の顔は複雑そうだ。

まぁそうだろう。


「そういう訳で、その息子である俺たちは、あの村では、完全な異物なんです。今はどうしても宗主代行として、神事を取り仕切る者が必要なんで、留められていますが、不要になったら、すぐに追い出されるんで、実質『藤護』ではなくて、報酬分働く、藤護の傭兵みたいなものなんです」

あっさりと禅一が言い切ると、青年の目が好奇心が光る。

「でも貴方達兄弟以外に、藤護を継げる人間が居るんですか?」

「五味君!!」

思わずと言った様子で口を開いた青年を、武知が厳しい声で叱責する。


「……正確に言うなら、今の所、禅以外に藤護を継げる人間はいない、だな」

そこにコーヒーを二つ持って帰ってきた譲が、答える。

コン、コン、と、彼らの前にゆっくりとコーヒーを置かれる。

「えっと……お兄さんの方だけ……?」

譲は武知たち二人に椅子を譲ったので、アーシャを挟んでソファーの反対側に腰をかける。

「そう。俺は一切、神事を執り行うための修行はしてないから、継げないの」

その一言は武知にも意外だったようで、目を大きくしている。


「でも貴方は資質があるように、お見受けしますが……」

遠慮がちに武知がそう言う。

武知の視線は譲ではなく、その周りを見ている。

たまに譲も禅一の周りを見たりしているので、多分常人には見えないものが、彼らの目には見えているのだろう。

「資質はあっても磨く気ねぇから。大体、この男に万が一が起こるような事態があって、俺にその代わりが務まると思うか?」

譲の言葉で、禅一を見た、武知と五味と呼ばれた青年は『あぁ』とでも納得した顔になる。

「お鉢が回ってくるなら、俺は全力で逃げるから」

「『藤護』から逃げるんですか?」

そんな事できるはずがないだろうと、言外に含ませて、武知が疑問を呈する。

「住んでる所も、通ってる学校も……戸籍も全部捨てれば、ワンチャンあるだろ」

譲はそう言ってナゲットを口に放り込む。


「『藤護』は貴方が考えるほど、簡単ではないと思いますよ」

武知は複雑そうな顔をする。

そんな武知に、譲はニィッと笑った。

「そう。俺らはソレが知りたいんだ」

「………ソレ?」

譲に指差された武知は首を傾げる。


食事を終えた禅一は、手を拭いてから、そっとアーシャを膝の上に抱き上げる。

ソファーの上でも良いのだが、禅一の膝枕だと段差が大きくて、少し寝にくそうだったのだ。

いぬい先生が仰っていたんです。アーシャが病院に来たら、最高の治療をして、その内容を報告するように『上からの通達が来た』と」

ゆっくりと語り始めた禅一の言葉に、譲は頷きつつ、またナゲットを口に放り込む。

「あの時点で、アーシャの存在を知っているのは村の連中だけだったはずなのに。それなのに『上からの通達が来た』。……俺たちは、あの村は周囲と断絶した、閉鎖的な所だと思っていたけど、周辺の個人病院にまで通達を出せる程の存在……つまり国か、それに近い所に、強力なパイプを持っている。……そうですよね?」

確信を込めて禅一が尋ねるが、武知は額を押さえて俯き、五味はオロオロとしている。


「アンタはこの前、『藤護本家』に近付くのは禁忌だと言っていたんだよ。俺はそれを聞いた時から疑問に思っていたんだ。なんでわざわざ『本家』って付けたんだろう。触れるのが禁忌なら、『藤護に協力を要請された時に従う』っていうのはどうやって連絡を取り合うんだろうって、さ」

譲がそう言っても、武知は俯いたままだ。

「五味さん」

禅一は青年に呼びかける。

「は、はい!」

五味は顔を引き攣らせる。

「藤護の分家と随分交流があるんですね?分家頭の息子さんの事も良く知っておられるみたいですし」

「は、は、はぁ………そ、そのぉ……」

五味は気の毒になる程動揺している。

そんなに動揺を外に出してしまって、社会人として大丈夫だろうかと心配になってしまう。


「先程も言いましたけど、神事の代行はしていますが、俺たちはただの間借り人で、『藤護本家』の人間じゃないんです。いずれあの家から出ていく存在です。ですから、あなた方の禁忌には触れないと思うんですよ。………教えてもらえませんか?藤護は、あなた方とどのように繋がっているんですか?」

禅一の『無駄に強い眼力』を受け止めきれずに、五味は顔色が悪くなる。

「そうそう。思えば、排他的かつ閉鎖的な村なのに、宗主の従兄弟が村の外に居る事も不自然なんだよな」

ダメ押しとばかりに譲も身を乗り出すと、五味は泣きそうな顔だ。

そこでようやく武知が、ふーーーっと長い溜息を吐き出した。

「わかりました。私が教えられる範囲でお話しします」

諦めてしまった顔だ。


武知は出されたコーヒーで口を湿らせてから、話し始めた。

「まず藤護本家に対する接触を禁忌にしているのは、『神』を鎮められる程の力を持つ者が藤護の家にしか生まれないからです。戦時中の過ちで、藤護以外に、破滅を食い止められない事は実証されていますので、彼らには自治権、自衛権を認め、決して侵害することがないように、接触を禁止しています。あそこは独自の価値観と習慣がありますから」

武知は周りを気にするような低い声で話す。

こんな昼食時の騒がしい店で、機密事項を話す者がいるなど、誰も思わないだろうから、そんなに気にしなくても良いのに、と、禅一は思ってしまう。

「よって私たちは、あの村に近づく事すら許されていませんし、あの村に入っているのは、藤護が認めた駐在だけです」

そう言えば、禅一達以外に、部外者は駐在しか居なかったし、その駐在も村の中を警邏けいらする事はなかった。

村で何かしら起こった時は、小さな事件は最上の子供達、大きい事件は最上か宗主が解決していた。


「もしかして……駐在さんが連絡役だったんですか?」

そう聞くと、武知は微妙な顔をする。

「駐在も直接の連絡は出来ません。彼は分家頭に連絡を入れて、それが分家内で共有されてから、こちらに連絡が来ます」

「……何だ、駐在とは名ばかりで、アイツも藤護の人間だったのか」

譲はテーブルに肘をついて、行儀悪く紅茶を飲む。

「正確に言うと、藤護ではなく、藤守ふじもり……分家は字が違うんですよ。それに彼は血筋ではなく、分家のお嬢さんの婚約者で、正確にはまだ外部者です」

武知はその指で、『守』と言う字をテーブルの上に書く。

「……同じ読みで漢字を変えてるのか?」

「何だそりゃ……」

禅一と譲は呆れてしまう。


そんな二人に武知は苦笑する。

「土地を出た者に同じ姓を名乗らせたくなかったのでしょう。……それ程、頑なな人々ですから、当主の血を引いている、あなた方が外で暮らしているなんて驚きです。しかも外で暮らす者に神事を任せるなど……今までなら、絶対に考えられない事です。今の宗主を外に出した時も荒れたそうですが、彼の場合は土地に戻ってから、清めを受けて、神事に携わって以降、一切外に出ていませんからね」

禅一と譲は顔を見合わせる。

外に出るにあたり、大暴れしてやったのだが、その辺りの事情は言わない方が良さそうだ。

「まぁ、背に腹は変えられなかったって事だな」

「向こうも『汚れた血』に居座って欲しくなかったみたいだしな」

そう言い合って、頷き合う。


「分家って宗主の従兄弟なんだろ?確か四人くらい外に出てるよな?そいつらが国と通じてるって事か?」

譲が話題を変える。

「正確には従兄弟二人、又従兄弟二人ですね」

「「遠!」」

思わず禅一と譲は口を揃える。

又従兄弟なんて他人同然だ。


「こちらの依頼に、直系に近い方々が、四人も応じてくださって感謝しています」

「依頼?」

「万が一に備えて、外部の穢れを祓うための協力依頼です。こちらの人間に、藤護の祓いの技術を伝え、人材を育ててもらっています。見所があり、本人の合意が取れれば村に迎え入れてもらっても構わないという条件でお願いしています」

禅一はその言葉に驚く。

「村には駐在以外にも外部者が入っていたんだな。全く気が付かなかった」

そう言う禅一に、武知は首を振る。

「まだ村に入れるには至っていません。国との協力体制ができたのも、ほんの二十年程度前の事で、まずは分家に血を入れ、『先祖返り』が起こせたら村に戻す。……そう考えているようです」

武知の言葉に、禅一と譲はお互いの顔を見合わせる。

彼らは、村で比肩する者がいない程、力が強い。

ここ何代かで一番の力があると言われる宗主をも凌ぐため、『先祖返り』だと何人かに言われた記憶があったのだ。


顔を見合わせた二人に、武知は頷く。

「藤護の力が弱まったのは、血が濃くなっていた中、更に戦中の厄災により村の人口が減り、近親婚が進んだせいではないかと仮定して、直系の血を引きながら、特に力が薄くなってしまった方々が、外に出たんです。そして、あなた方のような『成功例』が出たので、今後は更にその動きは強まると思います」

その話を聞いて、禅一はうんざりしてしまう。

まるで家畜の品種改良ではないか。

自ら品種改良の種になりに行くなんて、とても正気とは思えない。


「実際、外の嫁さんを貰って、かなり力が強まって生まれたらしいですよ。分家頭の息子さんとか、凄く優秀で……」

「……五味君」

口を挟んだ五味は即時注意を受け、首をすくめる。


「藤護は駐在と分家を介して国と繋がっている。藤護は優秀な能力を持つ者を血統を取り込み、万が一に備えて周囲の穢れを祓うために、国の人材育成を請け負っている。また国は藤護からの要求は受け入れる……この認識であっていますか?」

禅一が確認すると、武知は頷く。

「藤護が動かせる範囲はどの程度なんですか?警察組織と……医師会……?いや、行政か……?」

こちらの発言には武知は首を振る。

「力が及ぶ範囲は私たちにもわかりません。ただ、警察組織の中でも藤護を知っているのは我々、警備部の者たちだけです」

ふんふんと頷きながら、譲がストローから口を離す。


「分家の奴らは、全員教育に勤しんでいるわけ?そこに俺らを潜り込ませることは可能なのか?」

譲の質問に、武知と五味の顔は渋くなる。

「分家の方々は教育の他に、我々だけではどうしても解決できない件に、助っ人として入ってもらっています。それと、潜り込ませると言うのは……無理かと。二人とも一目で一般人でない事がわかりますから」

上手くやれば、潜り込んで分家の情報なんかも集められるなと思っていた禅一は、その解答にガッカリしてしまう。


「因みに『力を増幅させることができる能力を持った子供がいる』と漏らしたのは分家の人間だったんですか?駐在から何か連絡が?」

そう禅一が尋ねると、武知は申し訳なさそうな顔になる。

「いえ、まだ情報の出所が特定できない状態でして……本家から分家に伝えられたのは『藤護禅一・譲兄弟が保護する少女を丁重に扱い、守れ』との内容だけだったらしく……その少女が特殊なんだと分家が知ったのは、事件後の聴取で……」

それを聞いて禅一は呆れてしまう。

力のことをバラさなくても『守れ』などと伝えたなら、その少女に何かあると言っているようなものだ。


「聴取で何があったんですか?」

禅一がそう聞くと、武知は額の汗を手で拭う。

「その…………お嬢さんを拐おうとした連中がいたと、報告を受けた最上様が、怒り心頭で……『御使い様に何たる事を。だから大和の人間は信用してはならないのだ』と分家頭を呼びつけて、お叱りになったそうで……」

禅一と譲は頭を抱える。

最悪だ。

『御使い様』なんて言って、最上が激怒したとなれば、アーシャが特別な存在だという事は周知されてしまったという事だ。

『力を増幅する』なんて、どこから出てきたかもわからない与太話に、真実味を与えてしまった事だろう。


「………大体わかりました。有難うございます。これからアーシャの警護をよろしくお願いします」

とにかくアーシャの守り手は沢山欲しい。

禅一は再び保育園に預けるのが不安になってきてしまう。

「それはもちろんです。我々の威信をかけて警護させていただきます。……できれば今日の話は心の中に留めていてください」

深々と武知は頭を下げる。

話が終わると思ってほっとしている事が見て取れる。


「武知さん、武知さん、折角だから、禅一さんに口添えしてもらったら良いんじゃないんですか!?」

そんな武知を背後から撃つものがある。

「……五味君……」

がっくりと武知の肩が下がる。

「だ、だって、あの人、怒り狂って、『御使い様を奪おうとするなんて言語道断』って、国との協力関係を切るって、分家筋にも撤収命令を出しているって言うじゃないですか。このままだと、折角二十年もかけて作ってきた協力体制が壊れちゃいますよ!」

五味は必死な顔で言い募る。

「最上様は怒り狂っているけど、宗主様は冷静な方だから、短慮な事はなさらないよ」

「でも、でも、分家撤収はあり得ますよね!?そうなったら困るのは俺たちですよ?とても俺たちだけじゃ……」

「五味君。黙って」

五味の顔が、武知の手で覆われる。

アイアンクローならぬ、マウスクローによる実力行使だ。


モゴモゴと騒ぐ五味を押さえ、武知はもう一度頭を下げる。

その姿を見ながら、譲は考え込む仕草をする。

「どうかしたか?」

「ん?いや、今、分家を引かせるのは困るな、と思ったんだ。教育者の立場なら、妙な考えを起こす奴を見張ったり、統制を取ったりする事もできるだろうからな。どうしても撤退するなら、せめて誘拐なんか企てるような奴らを、責任持って全員駆除してからにしてほしいな、と」

確かに、と禅一も頷く。

警察組織と、その下についている外注の組織が一枚岩でないなら、見張りに回ってくれる人間が欲しい。

そしたら禅一も安心してアーシャを保育園に預けられる。


武知は譲の言葉を聞いて、少し考える表情になる。

「………こちらから、藤護に意見を出すことはできないんですが、自分達なら『神』にも手を出せると思い上がった者たちの、鼻っ柱を叩き折る方法ならあります」

そして五味を解放して、熟考した末に、彼はそう言った。

「へぇ、その方法って?」

譲が聞き返すと、武知は禅一を指差した。

「貴方です」

「………は?」

禅一はポカンとするしかない。


「分家の方々は藤護にとって、当主にはできないと判定されるほど、力の弱い方々です。天狗になった連中は、その分家の方々の力を見て、自分たちは藤護に肩を並べられる、藤護より上だと思い込んでしまっているんです。そして自分達ならば、『神』をなんとかできると思い込んだ。……可愛らしい線香花火に四尺玉の打ち上げ花火をぶち込んでやれば……自分達の小ささを知って、心の炎も消し飛ぶでしょう」

語る武知の隣で、五味がウンウンと激しく頷いている。

「捕まえた三人組は異次元の力の差を見せつけられて、意気消沈していますし……正直なところ、私も宗主級の方を実際に、この目で見るまで、そこそこ強いつもりだったんですよ」

武知は寂しそうな顔で笑った。

「俺も宗主が、こんなに化け物みたいだとは思っていませんでした!」

「……五・味・君っっ……」

援護射撃とばかりに口を開いた五味は、再びマウスクローを食らう。


ふむふむと譲は頷く。

「ナルホド、ナルホド。参考になったよ。良ければソフトクリーム奢るけど食う?」

何か思いついたらしく、とても満足そうに、自ら奢ろうかとまで言い始めた。

一番安い商品とはいえ、珍しい事だ。

「いえ!我々はまた距離を空けて警護させていただきます」

解放の兆しを今度こそ逃がすまいと、武知は飛びつく。

五味の方はまだ何か話たげだったが、素早く武知に引き摺られて行く。



「譲?なんか悪いこと考えてるか?」

「ん?……まぁな」

ニヤリと譲は笑う。

「今の状態だと、藤護の手から逃げようと思ったら、日本を密出国する覚悟がいるみたいじゃねぇ?」

「そうだな。逃げた瞬間、指名手配食らいそうだな」

ニヤッと譲が笑う。

「じゃあさ、藤護と国が繋がってる所に上手く割り込んで、今まで奴らが作ってきた信頼関係マルっとこっちに取り込めたら、何も捨てずに、藤護からも逃げられると思わねぇ?」

とんでもない事を言い出す譲に、禅一は呆れてしまう。

「そんな事……」

「出来るわけないって思うか?でもこのままだったら俺たち、宗主に後継が産まれても、解放される事なく、品種改良実験の種馬にされかねないぜ?」

そんなわけない、と、言い切れないのが恐ろしい。

今の話から考えると、むしろその危険性があると言ったほうが良いだろう。


「どうしたら良いと思う?」

「そうだな……こっちの力を示すって方法も悪くないなと思ったんだけど……まぁ、敵を知らないことには、何もできないな。……今度、口実作って、分家に乗り込んでみるか」

禅一は腕の中のアーシャを見て、渋い顔をする。

「チビは保育園に預けるだろ。その間に行けばいいさ」

役所に行くのと同じような気楽さで言いながら、譲は席を立つ。

デザートの注文に行くのだろう。

意外と甘いものが好きなのだ。


「出来るなら保育園の前に叩き潰しておきたいんだがな……」

安心し切った顔でぐっすりと眠るアーシャの顔を見ながら、不穏なことを呟く禅一だった。

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