3.聖女、満喫する(後)
周りではユズルや先ほどの老婦人、ミネコセンセイたちが話す声が聞こえる。
時々、名前を呼びかけられたら、顔を上げるが、明らかに、ここに住むための説明されているので、アーシャは必死にゼンにこびり付いて、首を振る。
ここには住みたくない。
ゼンと一緒が良い。
言葉の通じないアーシャの精一杯のアピールだ。
施設内で、ご飯を作っている所を見せてくれようともするが、アーシャは大きく首を振る。
(もう、ご飯もできるだけ我慢するから、置いて帰らないで)
そう思っても、しがみつくくらいしか、伝える手段がないのが、じれったい。
「アーシャ、アーシャ」
張り付きすぎて、最早ゼンの装備の一部のようになったアーシャの肩を、ツンツンとゼンがつつく。
いつの間にか、ユズルたちと離れて、ゼンだけ建物の外に出たようだ。
「す・べ・り・だ・い」
ゼンはニコニコと笑いながら、滑り降りる脚立を指差す。
子供たちは歓声を上げながら、楽しそうに滑り降りている。
ゼンは行っておいでとばかりに、前屈みになって、支えていた腕を離し、アーシャを下ろそうとする。
「ふんぬっ!!」
普段なら、素直に地面に滑り降りる所なのだが、アーシャは全身の力を使って、ゼンに張り付く。
しかし手足の力が貧弱なので、自重を支えきれず、ズルズルと滑り落ちる。
「ぬぬぬぅぅぅぅ〜〜〜」
最初に脱落したのは足の方だった。
離れてしまった足をジタバタとさせて、もう一度登ろうと頑張るが、腕も離れそうになる。
「ゼン〜〜〜〜」
思わず助けを求めると、ゼンは困り顔になってしまう。
「わっ!」
すると後ろからアーシャの体が持ち上げられる。
ペリッとゼンから剥がされてしまったアーシャは、柔らかな腕に抱えられる。
「みにぇこしぇんしぇい!」
ゼン以外いないと思っていたら、しっかり彼女はついてきていたらしい。
「ふぐっ!」
カミカミの言葉に、ミネコセンセイは下を向いてしまう。
気分を害したのかもしれない。
こちらの名前はとにかく発音が難しい。
「あの、ごめんなしゃい!ゼンの所に行きたいでしゅ!」
赤くなりながらも、アーシャはもがく。
しかしゼンと比べたら物凄く細い体なのに、びくともしない。
それどころか結構強い力で抱きしめられる。
「ぜ、ゼン〜〜〜〜」
思わず助けを求めると、慌てた様子でゼンが手を伸ばしてくる。
ゼンの手が届く寸前で、ミネコセンセイは顔を上げる。
「恵舷。貌斬児猶鉢勃鍛」
そしてゼンの手に、しっかりとアーシャを渡してくれる。
その顔は全くの無表情だ。
気分を害したとか、そんな揺れ動く感情は、何一つ、見られない。
「緋牡谷王厚侭熱忽紋勝廉お預眺稿給開誌」
「あっ!!」
彼女は淡々とした、流れるような動作で、アーシャの首に下がっていた笛を外してしまう。
「あ……!!」
アーシャが慌てて自分の首筋に手を持っていった時には、笛はゼンの首にかかっていた。
まるで魔法のように滑らかな動きである。
「???」
何故笛をゼンの首に掛けたのかわからないアーシャは、首を傾げることしかできない。
「お拠勺責砂陶申照概、壮蒜潜褒玄晦迂東芽い」
「い丹、岩作詳……詫得霞到竜矢霞侭瓢申菖恵貞批穐……」
「う斎隊庇幼歯蚤柿跨祭揚揚お秀隊渡併魚。填沫肺靴腎課鈴兄塚硲既董」
ミネコセンセイは、何やら渋る様子のゼンに、淡々と何か説得しているように見える。
二人が何の話しているかわからないアーシャは、ハラハラとそれを見守る。
少し話してから、ゼンは少し困ったような顔をしながら、アーシャを抱っこしたまま、滑り降りる台のついた建物に近寄る。
その建物は子供たちに人気なようで、かなりの数の子供が群れていたのだが、突然ゴブリンが近寄ってきたせいか、子供たちは蜘蛛の子を散らすように離れていく。
「あぁ〜〜〜」
アーシャは申し訳ない気分になってしまう。
ゼンを見上げると、ゼンの両眉もすっかり下がってしまっている。
「………アーシャ、塗曙塑拠!」
ゼンは気を取り直したように、明るい声を出すと、アーシャを滑る台の所に、のせてくれる。
「…………!」
アーシャは目を輝かせる。
子供たちを追い払って遊んでしまうのは申し訳ないが、物凄く興味があったのだ。
ゼンはエスコートでもするように、右手を握ったままでいてくれるので、安心感が凄い。
高鳴る心臓を感じながらアーシャは台の上に、お尻をのせる。
「ふわぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!」
アーシャの口から思わず歓声が上がる。
前に滑った時より、速い。
しかも長い。
距離が長いせいか、スゥッと体が運ばれる感覚が堪らない。
「しゅごい!しゅごい!!」
地面に足をつけてから、アーシャははしゃいで、年甲斐もなく弾んでしまう。
両眉が下がってしまっていたゼンは、そんなアーシャを見て嬉しそうに笑う。
「スーってね、凄く気持ちよかった!」
言葉が通じないのも忘れて、興奮してアーシャはゼンに語りかけてしまう。
ゼンは理解できないはずのアーシャの言葉に頷きながら、目を細める。
そしてまたアーシャを台の上に持ち上げてくれる。
「ふわぁぁぁぁぁ!!」
二回目は、頬にあたる風を楽しむ余裕まで出てきた。
前髪が吹き上げられながら、視点が下がっていく。
それだけで何故こんなに爽快な気分になるのだろう。
子供の遊び場をとってしまっているのに、楽しくて、楽しくて、もう一度滑りたいと思ってしまう。
ゴブリンが長居するのは申し訳ないと思いつつ、もう一度だけと思ってしまう、恐るべき魅力だ。
「おい!おまえ!」
ゼンにもう一度だけお願いしようとした時、子供の声が横からかかった。
「?」
見れば体の大き目な男の子が腕を組んで仁王立ちしている。
「おまえ、わかっ謄之望な!詠奴甘担剣忌弄わ、期袋ん迩榛到醸か替た巴桓い瞭だ伎!」
ふんぞり返って、何やらこちらに言ってきている。
「?」
よくわからないが、アーシャに話しかけているのだろうか。
アーシャは周囲を確認するが、少年の見ている高さにいるのは、アーシャだけだ。
何となく雰囲気で喧嘩を売られているのかな?というのは、理解できるので、何とか自分は害のないゴブリンであると、伝えたい。
我が物顔でここに留まる気はない。
自分の無害さをどうやってアピールするか、アーシャは悩む。
するとミネコセンセイが、アーシャの前に出てきて、少年との間に入ってくれる。
そして何やら少年と話を始める。
アーシャが無害だと説明してくれているのかもしれない。
期待を込めて見ていると、
「こい!お鐙旧い走い怜お鐙え冴やる!」
突然少年はアーシャの手を取った。
「あっ!!」
引っ張られた衝撃で、ゆるく繋いでいた、ゼンの手から離れてしまう。
途端に不安になったが、ゼンは一定の距離を空けて、アーシャの後をついてきてくれる。
「ここから懇珊寝んだ魔!」
少年は小さな階段をアーシャに示す。
そして手を引いたまま、上りだす。
カンカンと甲高い音を響かせながら、アーシャも少年について上る。
「恨お千真跨わた曝んだ漢!」
少年は振り返って、小さな吊り橋を指差して何か言ってくる。
特にアーシャからの返事は期待していない様子で、言うだけ言ったら、吊り橋を渡り始める。
「???」
よくわからないが、ゴブリンの手を握って引っ張り回すとは、中々豪胆な子だ。
下を見ると、嬉しそうに目を細めたゼンが手を振ってくれている。
アーシャも嬉しくなって、手を振りかえす。
「お壷え阪にー董砦魂、鳳えー預!潤醸菊溌逝梨豪統!」
「………?」
それを見た少年が、楽しそうに語りかけてくる。
「ゼン」
よくわからないが、ゼンの話をしているようなので、彼の名前を教える。
「へぇ〜〜〜ゼンか!」
何となく通じたような気がする。
「お侶靴こーただ!こーた!」
彼は自分を指差すとそう言う。
「……こーた?」
名前だろうかと、呼んでみたらニーッと少年は笑う。
「コータ、アーシャ」
アーシャも自分の胸を押さえて自己紹介する。
「あーさか!へん仔姉友堕竜な!」
「?」
少年の発音は物凄く聞き取りやすいのだが、何を言っているのかは、やっぱりよくわからない。
「あーさ!榛図功仏!」
少年が指差したのは、螺旋階段のように、渦を巻いて滑り降りる台だ。
「萩わ蓉ない惰!お蛎直塚た賢鴫枢鼻後巧統昇らな!」
少年はアーシャの両手をギュウっと強く握ってから、ピョンと弾むようにして、台を滑り降りていく。
どうやら弾んで滑る事によって、スピードを増すようだ。
「へ〜」
見ていたアーシャも真似してピョンとジャンプして台に飛びのる。
「ひゃ〜〜〜!!」
アーシャは歓声を上げる。
上から下への単純な移動ではなく、螺旋を描いて降りるために、体が遠心力にも引っ張られる。
滑る距離が長くなるせいか、ジャンプして飛び込んだのが功を奏したのか、スピードも先程滑った物と比べ物にならない。
「ほわっ!!」
しかし唐突に楽しい時間は終わり、勢いが止まらないまま、空中に放り出される。
咄嗟にアーシャは体を小さく丸め、両手で首を押さえ、地面への激突に備える。
「…………?」
しかし衝撃は来なかった。
代わりにお馴染みの感覚に包まれている。
そぉっと目を開けてみると、呆れ顔のゼンの顔がある。
勢い良く、台から排出されたアーシャを、しっかりと受け止めてくれたのだ。
はぁ〜っと長いため息を吐いて、ゼンはアーシャを地面に立たせる。
「コータ」
隣には気まずい顔でコータが立っている。
どうやら彼も吹っ飛んで、ゼンに受け止められたようだ。
「鹿魂繋訴、精約弼わ蹟酸虚蜜ん詠王求い朕」
ゼンは渋い顔で何か言ってから、アーシャとコータの頭を大きな手で撫でる。
コータはへへへっと、ちょっと恥ずかしそうに笑った後に、再びアーシャの手を握る。
「あーさ!牧碑わ原らん訴だ!」
彼が指差す先には、鎖でできた振り子がある。
その振り子の手前には、何故か、子供たちが一列に並んでいる。
「……?」
何だろうと思って見ていたら、アーシャの手を引いたコータは、その最後尾に並ぶ。
「まえ杏い慧鰐やる昂!」
アーシャはコータの前に並ばされる。
(これは……何なのかしら?こんなに小さな子供たちが綺麗に一列に並ぶなんて……凄いわ)
アーシャには子供がこんなに整然と並ぶなんて、考えられない。
人間の世界では、大人でさえ、きちんと並べない。
並ぶことができるのは、訓練された騎士くらいだ。
庶民がこんな一列に並んだりすることはない。
「コータ、ええっと……?」
何をしているのか知りたいが、アーシャには通うじる言葉がない。
しかし疑問を持っている事は通じたようで、コータはまた振り子を指差す。
「鱈賦犬泥かい陣うたいなんだ!」
そして何か説明してくれる。
「「「いーち、にーい、さーん」」」
前の子たちは、声を揃えて、何か言っている。
一体何なのだろうと見ていたら、
「「「にーーーじゅうーーー!!!」」」
と声がかかった所で、振り子に乗っていた子供たちは、一斉に地面に足をつける。
そして砂煙を上げながら、振り子を止める。
「!」
そして全員、振り子からおりたのだ。
そして振り子が動き始めると、同じように、並んでいる子供たちは
「「「いーち、にーい、さーん」」」
と言い始める。
先程まで乗っていた子は別の所に行ったり、また列の後ろに並んだりしている。
そんな様子を見たアーシャは、目を丸くする。
つまりこの列は、あの振り子に乗りたい子供たちの、待ち行列だったのだ。
「………しゅごい………」
アーシャは今、自分が見ているものが、信じられない。
こんなに平和的に物を分け合えるなんて、あり得るのだろうか。
しかもこんなに年端も行かない子供たちが。
この振り子が人の世にあったなら、どうなるだろうか。
勿論、答えは一つ。
奪い合いだ。
力が強い者が暴力で独占するだろう。
施しの配給ですら、人々は群がることしか出来ない。
奪い合うように押し寄せ、力のない者は踏み潰される。
物資が十分にあると言っても、きちんと並ぶなんてしない。
人より早く、多く手に入れたい。
そうして小競り合いが始まり、下手したら暴動だ。
だから配給は武器を持った兵士の監視下で行う。
配給は暴動の危険性と隣り合わせだと言っても良い。
整然と並ばせる為には、これ見よがしな武力が必要になるのだ。
いや、武力を持ってしても、『整然と』並ばせるのは不可能だ。
警備の目をかいくぐって列に割り込む者なんて、いくらでも出てくる。
それがどうだろう。
神の国の子供は一列に並び、辛抱強く自分の順番を待ち、お目当ての座席に座っても独占せず、もっと乗りたいなら並び直す。
小さな子供が、こんな事を出来るなんて、異次元の凄さだ。
(神の国には悪人もいるし、結局は教会が言う天国なんて嘘っぱちだったと思ったのに……)
教義の天国とは違うが、やっぱり一味違う世界だ。
「あーさ!」
アーシャが驚きと感動に震えていたら、コータがアーシャの手を取る。
そしてアーシャが乗る予定の振り子に導いてくれる。
「こー峡隊んだ脳!」
そしてお見本とばかりに、自分も振り子に座って、勢い良く地面を蹴る。
「んっ!」
アーシャも大きく頷いて、地面を蹴る。
「ふおおおおおっ!」
上下運動と前後運動の複合技は、体に何とも言えない快感をもたらす。
少しばかり背中がゾッとするような、体の中の血液が揺れるような不思議な感覚と、風を切る爽快さ。
上がる時の高揚感と、日常生活では、まず感じる機会がない、グッと後ろに引かれて、勝手に下がっていく不思議な感覚。
それらはとても気持ち良い。
「あーさ!みろ!」
きぃこきぃこと前後に揺れていたら、隣のコータは速度をどんどん増していっている。
「ふぁぁ〜〜〜!!」
風に髪を靡かせながら、彼は気持ち良さそうに振り子を漕ぐ。
アーシャも何度か足がつくタイミングで地面を蹴るが、上手く噛み合わなくて、振り子は全く大きく振れない。
「とうっ!………ほっ!!」
掛け声だけは立派なのだが、どうにも上手く行かない。
足が短くて、しっかり地面を蹴れないせいかもしれない。
四苦八苦するアーシャを他所に、コータは地面を蹴っている素振りもないのに、どんどん高く舞い上がっていく。
アーシャは最初は羨ましくコータを見ていたのだが、空に打ち上がりそうな勢いになって来て、心配になっていく。
「コータ……」
もうちょっとゆっくり漕いだ方が良いんじゃないかと声をかけようとした時、
「「「にーーーじゅうーーー!!!」」」
と子供たちの声が、アーシャの声をかき消した。
「あっ」
その声に驚いたのか、ちょうどその瞬間に手が滑ったのか。
一番高く上がった所で、コータの右手が振り子の鎖から離れてしまう。
大きく体が傾き、鎖を持ったままの左手を支点に、コータの体が座席から投げ出される。
(手を離さないと引き摺られる!!)
咄嗟にアーシャは自分の振り子から飛び降りる。
ゴブリンの体は小さいが、地面に直接ぶつかるより、良いだろう。
摩擦が増える分、引き摺られる距離も縮むはずだ。
(来い!)
アーシャが手を広げて受け止めようと、腰を落とした瞬間だった。
真っすぐに、引き攣った顔でアーシャに向かって来ていたコータの落下速度が、僅かに遅くなった。
「!?」
見間違えかと思うほど微妙な、速度軽減だったが、更に振り子の軌道が不自然に動く。
そしてコータの手がパチンと何かに弾かれるように、鎖から外される。
「ひょっっっ!!!」
次の瞬間、物凄い勢いで、コータごと、アーシャの体が真横に引っ張られた。
ゼンに抱き込まれた、と、認識した時には、空になった振り子が、彼に衝突する所だった。
否、衝突したと思ったのだが、
「ふっ!」
真っ黒な影が、ゼンの肩越しに見えていた振り子を、弾き飛ばした。
舞い上がる振り子、素早く回避するゼン。
そして重力に引かれて落ちてきた振り子を、力強く受け止めるミネコセンセイ。
「…………っ」
この世で一番安全であろうゼンの腕の中に返った途端、極度の集中状態だった神経が解放される。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ほっと吐いたアーシャの息を、吹き飛ばす勢いで、ゼンの口から息が吹き出される。
「和蓋わない尤?」
右手にコータ、左手にアーシャの、両手にお荷物状態のゼンは二人を交互に見つめる。
ぶつかっていないのだから、当然アーシャは無傷だ。
コータは降って来た時の顔のまま、固まっていたが、アーシャとゼンの視線を受けて、ハッと正気に戻る。
「あっ、お、おれっ」
ジワジワっと彼の目に涙が浮かぶ。
無理もない。
幼児には随分と怖い体験だっただろう。
アーシャは手を伸ばして、コータの頭を撫でてやる。
すると、ホロリホロリと彼の目から涙がこぼれ落ち始める。
「お鮒岸おお吋街怯眠慶た。詠具劫符焔笠諒肇市箔考あ凧繭春裾憧脅いま諺」
振り子を元の位置に戻したミネコセンセイが、ゼンに深々と頭を下げる。
後ろで一纏めにされた、彼女の黒い髪の房が、まるで黒い水のように、輝きながら下に流れるのが綺麗で、アーシャは見惚れる。
美しいお辞儀を見せたミネコセンセイは、コータを受け取って何事か言葉を交わし合う。
安心したせいか、コータはますます泣いている。
「アーシャ、あんな牲巽う景剃欝桝う官摸甫なん箪頒羊だ鴨」
建物の方に向かうミネコセンセイたちを見ていたら、ゼンに人差し指で、額を突かれる。
「???」
何故かゼンの顔が渋い。
何か、まずい事をしただろうかと、アーシャは首を傾げる。
「…………はぁ〜〜〜〜」
すると大きくゼンは肩を落とす。
彼を失望させるような事をしてしまったのだろうかと、アーシャはオロオロと視線を彷徨わせる。
「?」
そして彷徨った視線の先に不思議なものが引っ掛かる。
コータを抱いて、建物に向かっていたミネコセンセイが、途中で、また深々と頭を下げている。
誰に頭を下げているのだろうと思ったら、大きな木の根元に、草臥れた老婆が座っている。
子供ばかりと思っていたら、高齢の人もいたらしい。
(ご病気……なのかしら?)
老婆は疲れ果てているように、木にもたれている。
診てあげたほうが良いだろうか。
「ゼンッ!チビッ!」
そうアーシャが思った時、ユズルが門の方から声をかけてきた。
用事が終わって帰る様子だ。
途端に、置いて帰られるかもしれないという危惧が蘇ってきて、アーシャは慌ててゼンにしがみついた。
しかし老婆も心配で、しがみついたまま振り返る。
「………?」
老婆は目を離した一瞬で、何処かに行ってしまったらしく、姿が見えない。
(意外と元気だったのね……)
そう思いつつ、アーシャは置いて帰られないように、更にしっかりとゼンにしがみついた。
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