2.幼児、心に傷を残す
誘拐騒ぎから一夜明けて、禅一の連絡先には小児科医と警察関係者という、異色の取り合わせが追加された。
小児科医からは、保育園の情報と幼児のPTSD対策のURLが、唐突に送られてきて、警察関係者からは、捜査の進捗と、アーシャの安否を気遣う内容が送られてきている。
「やっぱりショックが残るよな……」
禅一の手元からアーシャが引き離されたのは、時間にして十分程度だった。
発生から解決までは異様に短かった。
しかし言葉の通じない不安な環境で、暴力まで受けてしまったのだ。
そのダメージは計り知れない。
「あぁ?ぐーぐー寝まくって、元気に俺の栄養補給用ゼリーを飲み尽くしてたから平気だろ」
禅一の言葉を受けた譲は不機嫌そうに、そう言う。
スプーンを握らせても、食べる前にカクンカクンと居眠りを始めてしまうアーシャに、何とか栄養補給をさせようと、譲の非常食を失敬したので、当たりが強い。
「……レモン味、ちゃんと補給しておく」
これは許可を取る前に開けてしまった禅一が悪いので、素直に謝る。
「……でも珍しく朝まで俺の服を握っていたんだよ」
ワカメと豆腐の入っただし汁に、味噌を溶かしながら禅一は呟く。
味噌汁の隣では、ハムエッグがいい色合いになっている。
「朝、見苦しい半裸だったのは、チビが服を握っていたからか」
レタスを洗って盛り付けながら譲は苦笑する。
「無理やり手を外して起こしたら可哀想だからな」
「別に起きるなら起こした方が良いだろ。昨日から眠りっ放しなんだから」
「小さいうちは、しっかり寝かさないといかんだろ」
仕上がったハムエッグを皿に移して、禅一は時計を見る。
時刻は八時。
そろそろ起こす頃合いだ。
「ちょっと起こしてくる」と譲に声をかけながら、禅一は部屋に向かう。
起こしに行くと、アーシャはしっかりと禅一の服を握って眠っている。
禅一の抜け殻に寄り添って、安心しきった顔で、ぐっすり寝ている様子は、何となく間抜けで可愛い。
足は元気に布団から飛び出しているのに、頭の位置だけ変わっていないのが面白い。
「アーシャ、おはよう。アーシャ」
そう声をかけると、緑色の目がうっすらと開いて、うぅーんと言いながら、猫のようにアーシャは伸びる。
「アーシャ、お・は・よ」
そして禅一を見つけると、握っていた服のことも忘れたように、笑顔で飛びついてくる。
「ゼン、おはお〜」
元気な挨拶には不安の影すらない。
(やっぱり俺の気のせいかな)
禅一は胸を撫で下ろす。
しかしその安心はすぐに覆される。
洗面所に連れて行ったら、お湯を出して顔を洗うのだが、アーシャは顔を洗う最中、何回も振り向いて、ゼンの存在を確認する。
トイレも昨日までは一人で張り切って行っていたのに、心細そうな顔をするから、ついついドアの外までお付き合いしてしまう。
「ゼン?」
そしてバタバタと、急いで用を足したアーシャは、出てくるなり、ゼンがドアのすぐ外にいる事を確認する。
そして目が合うと、ホッとしたように笑うのだ。
手を握ると更に嬉しそうに笑う。
元気だし、何か異常行動があるわけではない。
しかし急に黙り込んでしまったりする。
「アーシャ、大丈夫か?」
急に静かになられると、テーブルに一人で座らせておくのも、心配に感じてしまう。
しかし顔を覗き込んだら、いつものように無邪気に笑ってくれる。
(気のせい……なのか?)
微妙に違う気がするのだが、子育てビギナーの禅一には『異常だ』とは言い切れない。
「ふわぁぁぁぁ!!」
ご飯を出すと、いつも通り、嬉しそうに歓声をあげる。
食べる前から踊りそうな調子で、うにゃうにゃと大騒ぎをしている姿に、禅一は頬を緩ませる。
食器が運ばれるのが待ちきれなかったのか、そぉっとハムを指でつついて、歓声を上げるものだから、
「チビッ」
と、譲に頭を小突かれる。
「む……むぃんにぃ……まみゅんにぃ……」
注意を受けて、何やら神妙な顔で呟いているのが可笑しい。
「手づかみで食べてんじゃねぇぞ」
譲はしっかりアーシャにスプーンとフォークを渡す。
その姿に禅一は何となく笑ってしまう。
『親がおらんと色眼鏡で見てくる連中は腐るほど出てくる。そんな奴らに、つけ入る隙を与えんとよ』
祖母はマナーに対して厳しい人だった。
それが、無用の批判から、孫たちを守ると知っていたからこその、教えだった。
挨拶、節度ある態度、周囲への気遣い、それらを何よりも自分のために身につけろと言う祖母だった。
その祖母の姿勢を譲がしっかり受け継いでいるのが、妙に面白い。
尚、禅一は祖母の与えてくれた鎧以上に、何を言われても気にならない、心臓の剛毛の方が強かったので、それほどマナーは身についていない。
最低限、弟が巻き添えを食わないように守っている程度だ。
「アーシャ、い・た・だ・き・ま・す」
それでも日本で暮らす上での、立ち振る舞いは教えておいた方が良いだろう。
そう言って手を合わせて見せると、しっかりとフォークとスプーンを握ったままアーシャは両手をぶつける。
「いたぁきましゅ!」
そして元気に宣言する。
その目は既に玉子とハムに釘付けだ。
元気よくフォークとスプーンを構えるから、譲の指導が飛ぶような、がっつきを見せるのではないかと思ったが、それに反して、アーシャはスプーンをナイフのように使い、上品にハムを切り分ける。
とても幼児の食べ方ではない。
「…………」
「…………」
禅一と譲は思わず顔を見合わせる。
「ぬ……ぬわんにぃ〜〜〜〜〜〜!!」
しかし次の瞬間には気が抜けた雄叫びを上がる。
嬉しくてたまらないと言う様子で、ハムを噛む姿は、落ち着きのない幼児そのものだ。
たかがハムに、揺れたり、首を振ったり大騒ぎだ。
一瞬緊張した譲も、荒ぶる様子に、深々とため息を吐きながら、ハムエッグに醤油を注ぐ。
「おっと」
禅一はそれを見て、アーシャのハムエッグに味を足していないことに、気が付く。
ハムエッグにも塩胡椒派、ソース派、など色々な派閥があるが、禅一たち兄弟は醤油派なので、玉子もハムも焼いただけで、味がない。
譲から醤油を受け取るも、中々アーシャの興奮はおさまらない。
自分の皿にも醤油を足しつつ、禅一は絶好調に昂っているアーシャを待つ。
天を仰ぎながら嚥下し、頬を押さえて震え出したところで、収束したと見做し、禅一はアーシャの肩を人差し指で叩く。
「アーシャ、アーシャ」
しかしそれでもアーシャはすぐには現実に帰ってこなかった。
ゆっくり三秒ほど待った後、
「ん?」
と、ようやく振り向いた。
どれだけ感動したのか、目がじんわり潤んでしまっている。
本当に欧米人は感動表現が豊かだ。
「アーシャ、しょー・ゆ!」
「しょー・ゆ?」
日本にいる以上、流石に醤油は知っているだろうと思っていたのだが、醤油差しを受け取ったアーシャはキョトンと首を傾げる。
かける素振りもなく、醤油差しを揺らして、観察している。
「アーシャ、じゃ〜〜〜」
禅一は玉子に醤油をかけるジェスチャーをして見せる。
「『じゃ〜』じゃないだろ。どんだけ醤油をかける気だよ」
と、文句ありげに譲が呟くが、適切な表現が思いつかなかったから仕方ない。
しかし、やはりピンとこないようで、アーシャは変な顔をしている。
どうやら醤油を知らなくて、警戒しているようだ。
どうするかと少し悩んだが、百聞は一見にしかず。
禅一はまだ箸をつけていなかった自分の皿から、特に醤油が美味しいことがわかるであろう、半熟の黄身を、途中で落とさないようにハムで包む。
「アーシャ、あ〜ん」
そしてアーシャの口元に運ぶ。
「お前は何やってるんだよ」
食べ物のシェアを嫌がる譲は渋面だ。
自分が食べなくても、嫌な感じがするらしい。
「いや、食べてみたら醤油の美味しさがわかるだろ?」
しかしまだ一口も食べていないので、これくらい許してほしい。
アーシャは大きな緑の目を瞬かせた後、
「……あ〜ん」
と、少し警戒するそぶりで、禅一の箸を受け入れた。
「!!!」
しかし口に入れた途端に、その目が見開く。
そして全神経が口だけに集中しているのがわかる、高速咀嚼が始まる。
何回見ても、口以外の時が止まっているのに、口だけが動きまくる姿は、謎の迫力がある。
下から懐中電灯でも照らしたら、軽いホラー映像だ。
「うぃにぃあぅぅぅ〜〜〜」
ゴクンと飲み込むと、彼女の時は全体的に動き始める。
一頻り身悶えした後に、『美味しい!美味しい!』とでも言うように、輝く緑色の目が禅一を見つめる。
表情豊かな目だ。
禅一はアーシャの頭を撫でながら、思わず笑ってしまう。
醤油は思った以上に、彼女の心に刺さったらしい。
アーシャは早速自分の皿にも醤油を注ぐ。
注ぎすぎないか心配したが、寧ろ、彼女は控え目に醤油をかける。
そして目を輝かせながら、すごい勢いで食事を再開した。
(しかし綺麗に食べるな)
禅一は感心してしまう。
フォークとスプーンの使い方が上手すぎるのは勿論、食べている最中の皿が綺麗なのも凄い。
垂れた黄身が皿に残されないのは、食に対する執着故かもしれないが、食べている最中の皿が全く見苦しくないのは、素晴らしい。
(これは譲も納得のマナー………)
そう思って譲を見たら、顔が怖い。
どうしたのだろうと思っていると、
「チビ、レタスも食え、レタス!」
遂に口が出た。
順調に減っている食材の中、全く手付かずのレタスを気にしていたらしい。
そう言えば自分も全く食べていなかった禅一は、こちらも怒られないうちに、レタスを口に放り込む。
「ゼン……」
その時、アーシャが心細そうに禅一を呼んだ。
「ん?」
そう返事しながら、禅一は慌てて口を動かす。
口からレタスがはみ出ているのを、譲に見つかったらうるさい。
アーシャは、何故か、そんな禅一を見て、目を剥く。
「ゼン!ゼン!えいらいにぃにゃゆ!みぇみゅいにいぴぁんぬぅんないみゅ!」
そして椅子の上で立ち上がらんばかりにして、何かを叫びながら手を伸ばす。
「????」
その鬼気迫る様子に禅一は驚いて体を逸らしてしまう。
「あぁぁぁぁ〜〜〜」
そして飲み込んでしまうと、まんまムンクの叫びになってしまった。
「アーシャのレタスはこっちだぞ?」
食いしん坊のアーシャが、自分のレタスを食べられたと思っているのかと思い、まだレタスの入った彼女の器を指差すが、彼女の挙動不審は止まらない。
「えっと………」
アーシャが何にそんな衝撃を受けたかわからない禅一は、話題の変換を試みる。
マヨネーズとドレッシングを手に取って、視線を彷徨わせているアーシャに示す。
「アーシャはどっちが良い?」
選んでごらんとばかりに、両手を交互に上げ下げして見せるが、アーシャは変な顔をするだけだ。
禅一は首を傾げる。
「野菜は食べれんのかもしれんな……」
もしかしたら、レタスを食べた経験がなくて、これを草か何かと勘違いしているのかもしれない。
「食べれんのかもしれんな……じゃねぇよ!食わすの!」
それを聞いた譲は不機嫌そうに、禅一を睨む。
「いや、食べさせないとは言ってないけど、初めて見る物だから警戒してるんじゃないか?これから追々慣れさせて……」
「食わず嫌いさせてる場合じゃねぇだろ。保育園は給食だから色々駄目な食材とか聞かれるらしいぞ。苦手です、なら言えるけど、食べたくないみたいなんで食べさせてません、なんて言ったら『ああ、この子は適当に育てられてるな』ってナメられるぞ?一度は食わせてみねぇと」
譲の顔は険しい。
「そんな食べ物一つで大げさな………」
禅一は譲の言い分に苦笑してしまうが、譲はきつい顔をしたままだ。
「あのな、大事にされてる子供を預けられていると思うから、先生もそれなりの対応をするんだ。大切にされてる子供と、適当に扱われている子供が一緒にいたら、手をかけようって思うのは、大切にされてる方だし、何かあった時に味方につくのも、大切にされてる方なんだ。親っていう後ろ盾が、その子供にはあるんだから」
「そんな事は別に……」
「なかったって言えるか!?……親がいないってだけで、どんな扱いを受けたか忘れたのか?」
歪んだ譲の顔に、禅一は何も言い返せない。
幼少期の体験から、譲には刻まれているものがある。
できるだけ禅一も守ってきたつもりだったが、差別は思いもよらない所で、牙を剥く。
自分達が小さかった頃と今は違う、偶々自分達がハズレくじを引いた。
そんな事を言っても、譲が受けてきた痛みがなくなるわけでも、周りに対する不信感がなくなるわけでもない。
譲と禅一は同じ環境で育ってきたが、同じ強さで攻撃されても、受けるダメージはそれぞれで大きく違うのだ。
譲の傷は譲にしかわからない。
そして自分の体験から、同じ轍を踏ませたくない事も伝わってくる。
「えっと……じゃあ保育園を、もうちょっと伸ばさないか?たくさん一緒に過ごして、食べられる物を増やしてからでも遅くない。大学にかけあってみたら……」
「却下」
禅一の提案は途中でぶった切られた。
「こっちの学業に影響出してどうすんだ」
そう言って譲はマヨネーズを掴む。
「マヨは全部解決する。マヨが嫌いな子供がいるはずねぇ」
そう言って、譲はボタボタとマヨネーズの雨を、アーシャの皿に降らせる。
(俺はそんなに好きでもないが……)
とは、とても言い出し難い状況だ。
「く・え!」
譲はレタスを指差して、アーシャに命令する。
しかしアーシャに日本語が通じるはずもない。
指差されたレタスをマジマジと見つめている。
「食え!」
一向に手を出そうとすらしないアーシャに、業を煮やした譲は、レタスを掴んで、口元に突きつける。
アーシャは物凄く嫌そうな顔をしたが、譲の圧に押されて、渋々レタスに齧り付いた。
「う〜〜〜」
最初は嫌々噛んでいたようだが、一噛み、二噛みとする内に、表情が変わり始める。
どうも美味しかったようだ。
緑の目が再び輝き出す。
「うぃにぃあう………!!!」
そして、そう呟いた後、譲の持っていたレタスに猛然と食らいついた。
青虫顔負けの速度で咀嚼され、どんどんレタスが小さな口に吸い込まれていく。
(凄い……!壊れた電動鉛筆削りが、あんな感じで鉛筆飲み込んでたな!)
禅一は目を輝かせるが、
「………おぉ……」
譲はあまりの速度にドン引きだ。
これは自分もやってみたい。
「アーシャ、アーシャ」
禅一もアーシャのレタスを手に取って、彼女の口に向ける。
「あむっ!」
大きく口を開けたアーシャは躊躇いなくレタスに食らいつく。
そしてモシャモシャとレタスを吸い込み始める。
「うわ〜〜〜、小学校のウサギがこんな感じだったよな!」
禅一が喜んでそう言うと、譲はゲンナリした顔をする。
「ウサギでも、こんな勢いで食わねぇよ」
元気にご飯を食べる姿が、禅一には嬉しいのだが、譲はそうでもないらしい。
彼のテンションは、地を這う勢いで低くなっている。
「いっつも腹ペコなやつがいただろ?小さいのに物凄く食うやつ」
「あぁ……アレか……アレはまぁ……規格外だったんだよ」
「何かアーシャと似てるよな」
「………規格外な所がそっくりだな」
譲は大きくため息を零して、モソモソと自分のご飯を食べ始める。
猛然とレタスを食べたアーシャは、満足そうだ。
「アーシャ、偉いぞ〜〜〜」
禅一はそんなアーシャを撫でまくる。
ご飯を心なし少な目にしていたお陰か、アーシャは完食して、満足そうにお腹を撫でる。
(あれ………?)
お皿を一枚一枚、台所に運んで、お手伝いをしたがるのは、いつもの事だが、その後は大体、家の中を探検に出かけたり、スーパーボールに振り回されていたり、譲を観察して追い払われたりしている。
しかし今日は皿を洗う禅一の足に、触れるか触れないかの距離に、じっと座り込んでいる。
特に禅一の足元に珍しい何かがあるわけではない。
(今日は偶々動く気になれないのか……?)
禅一は首を傾げる。
「アーシャ?」
声をかけると、嬉しそうに表情が煌めく。
元気がないとか、疲れているとか、そう言うことではない。
それなのに禅一の足元から離れない。
トイレに行こうと禅一が移動したら、ちょこちょこ後ろからついてくる。
そしてトイレが終わるまで、じっとトイレ前で待っている。
アーシャの着替えを取りに行こうと、二階に上ろうとすると、
「あ……」
ベビーゲートに遮られて、凄く寂しそうな顔をする。
ついて行きたいと泣いてごねるわけではない。
しかしちんまりとベビーゲートの前に座っている背中を見ると、何とも可哀想な気分になって、置いていけない。
「……なんで服を取りに行くだけなのに、チビ助を装備してんだよ……」
譲に呆れたように言われてしまう。
「いや、やっぱりおかしいんだ、アーシャ。物凄く、後をついてくる」
禅一は真剣に訴えるが、鼻で笑われてしまう。
「禅に懐いてんのは元々だろ?」
アーシャの見た目は、元気いっぱいで、ご飯もしっかり食べていたので、譲にはわからないようだ。
「………なぁ、保育園は、もうちょっと延ばさないか?」
禅一は不安になって、そう提案するが、いつもの行いが裏目に出て、『またか』という顔をされてしまう。
「もう見学の連絡をしてんだから、絶対行くぞ!お試し保育の期間とか考えたら、もう試験期間に間に合わないくらいなんだからな!」
譲の言う事は最もだ。
ただの授業ならまだしも、試験はサボれないし、絶対にアーシャを連れ歩けない。
預け先は必須なのだ。
頭ではわかっているのだが、
(しかし……今はアーシャの方を優先すべきなんじゃないか……?)
そんな思いが湧いてくる。
抱っこしているアーシャを見ると、目があったのが嬉しいのか、へにゃっと笑う。
何かに怯えているとか、怖がっている様子はない。
それだけに、いつもと微妙に違う行動をとるアーシャが、禅一には心配でならない。
そんな禅一の様子に、譲は呆れ顔だ。
「あのな、今日行くのは見学。まだその保育園にするかも決めてねぇの。決めてからも申込して、受理されるまでも、結構時間がかかるわけ。その間になんかあったらいつでも中止できるんだから。とりあえず今は安全な預け先を確保に動く。いいな?」
しっかり者の弟に禅一は敵わない。
禅一は大きく息を吐いて、肩の力を抜いてから、アーシャの好き放題な方向にはねている髪を撫でた。
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