第21話 月下組、月宮れお。

「みんな、久しぶりね」

「「「「はい!お久しぶりです!! 総長!!」」」」


 僕は中学生の頃以来の月下組の集会を開いた。

 廃工場跡の壊れた窓からは夕陽が差し込んでいる。


「ごめんなさいね。色々とあったものだから」

「高校入学おめでとうございます!!」

「ええ。ありがと」


 僕の目の前には30名ほどの不良たち。


 僕は「月宮れお」としての女装姿でみんなを眺めている。


 黒髪ロングのウィッグにモノトーンカラーのキャップ、黒のオーバーサイズのパーカーにスキニーパンツ。


 首には三日月のデザインの飾りの付いたチョーカー。


 ストリートっぽいイメージで選んだ服だったけど、パーカーは少し暑い。


「集会を開いたけれど、重要な話は特にないわ」

「その方がいいっすよ。平和で」

「そうね。今年は就職活動する子とか進学する子もまたいるから、抗争とかめんどいのはなるべく無しの方向でお願いね」


 ここにいるほとんどの子達はただの不良。

 家庭環境が著しく悪かったり片親で反抗期からグレてしまった子、事情は色々。


 ひとりひとり寄り添い叱りつけ、更生できるようにと動いたのが昔のように感じるけれど、僕は16歳。


 けれどあまりにも大変だった。

 ほとんどは僕より歳上なのだ。

 話を聞かないから組み伏せて押さえ付けて話を聞く。


 飴と鞭を与えるにしても骨が折れる。

 もちろん物理的にも骨が折れそうになった。

 合気道やってなかったらまず病院送りは確実。


「お嬢、ひとつお聞きしたいのですが」

「なにかしら?」


 そう言って質問してきたのは隣にいた副総長の本郷武明。

 昨日街中で会った時の事だろう。


「昨日お会いした時にお嬢のお隣にいた方について……」


 僕が男である事を知っているのは副総長の本郷だけ。

 他の組員が目撃しただけなら「月宮れおの友達」で済むのだが、本郷はどうしても気になったのだろう。


「その事でみんなに協力してほしい事があるのよ」


 僕は月下組グループラインに向日葵の画像と情報を載せた。


「私の友達、雨宮向日葵、15歳。可愛いでしょ」

「可愛いっす!!」「彼女にしたいっす!!」

「お嬢より胸はあるっすね!!」「髪の毛めっちゃ綺麗っすね!!」


 僕は腕組みをしてうむうむと頷きながら満面の笑みを浮かべた。


「そうでしょう。てか今わたしの胸の話した奴はスクワット100回ね」

「すんませんしたぁっ!!」


 ゲラゲラと笑う組員たち。


「ひーちゃんは見ての通り可愛い。ただ髪の毛や白い肌、これは先天性白皮症、先天性色素欠乏症、白子症、いわゆるアルビノという体質なの」

「なんかよくわかんないっすけど、凄いっすね!」

「産まれてくる確率は確かに凄いけれど、太陽の紫外線に非常に弱くて、大変な体質からだなの」


 そうして僕は向日葵の体質、そして学校での現状を話した。


「貴方たち組員は人間の醜さをよく知っている子も多いとは思うのだけど、進学校のクラスにも同類のクズは多いの。いじめの原因にもなっているわ」


 僕が当時14歳で彼らを丸め込めたのは似たような境遇の子たちがいたから。

 あるいは僕より酷い。というか僕はまだ良い方。


 片親育ちで親がギャンブル癖が酷いとか、虐待を受けて育った子、年齢の割に社会のクズは多少見てきている彼らは情に弱い。


「昼間は太陽光を避ける為にあまり外にでも出れないし、下校時間だけでも紫外線を避ける為に陽が落ちてから下校するの。だけど夜は危ないの」

「夜に1人で歩いて平気なのはお嬢だけっすもんね」

「そんな事を言っている子はいつかお尻を掘られるわよ。メス堕ちしないようにね?」


 セクハラをしてきた組員がシュッとケツを引き締めた。


「わたしが貴方たちにお願いしたい事は2つ、向日葵の護衛。護衛と言っても、それとなく見守る感じでお願い」


 向日葵の隣に不良がいたら色々と面倒事になる。

 あくまで街中の風景の一部として馴染んでいてほしい。

 まあ、向日葵に存在を悟らせずに尾行して護衛である。


 人によってはストーカーと呼べなくもない。

 僕なんてGPSで常時追跡である。

 お巡りさん違うんです。義妹を護る為なんです。


 ……ストーカー臭が凄いな自分。


「2つ目」


 そうして僕は新たにグループラインに三好香耶の写真を貼った。


「この女の情報が欲しい。チンピラとつるんでたりもしてるらしいから、知ってる人は知ってるかもと思ってね。この女も向日葵をいじめてる主犯の1人」

「この女、知ってるっすね。この間ゲーセンで知らない不良と一緒に居たっす」

「そのつるんでる人は野良の不良?」

「多分そうっすね」

「タバコとか飲酒してる場面見かけたら盗撮しておいて」


 家庭環境が良くない三好はどちらかと言えばこちら側。

 引き込んで立川たちを内部分裂させるも良し、ひとりひとり処理していくのも良し。


「わたしの方でもひーちゃんがいじめられないように対処はしてるのだけど、ちょっと時間が掛かるわ。だからみんなにはを守ってほしいわ」


 遠回しに向日葵には手を出すな? と伝えておく。

 向日葵が他の男ととか考えたくない。

 組員であってもである。


「月夜の下で善行を」


 僕は右手を心臓を2回叩いてそう言った。


「「「「月夜の下で善行をッ!!」」」」


 組員たちも同じようにしてそう言った。

 多感な思春期たちにはこういうのがわりと好まれる。

 やってる僕はもちろん恥ずかしい。


「では解散。おやすみなさい。良い夢を」


 それでも彼らのリーダーである「月宮れお」はこうしてでも都合のいいように彼らを利用する。


 慈善事業じゃない。

 けど悪事を働いてもいない。


 ぼくはただ、彼らに居場所と仲間を与えただけ。


 与えさせられた、という方が正しいか。


「……疲れたぁ……」


 みんなを見送って僕も家路に着いた。

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