聖剣の入手

 俺はアスタロスと長い長い死闘を演じる。


 俺の炎剣は、火の精霊サラマンダーの力で生成されている。この世の万物全てを焼き尽くす炎のはずだが、聖剣バルムンクを焼き切る事は流石に無理か。

 相手が相手。下手な小細工が通用しない以上、純粋な剣と剣の対決で決着を着けるしかない。


 とはいえ、それも簡単な話ではない。

 何せ相手は暗黒騎士団の団長様だ。


「まさかここまで戦えるとは思わなかったぞ、少年。だが、遊びはここまでだ」


 アスタロスはそう言うと、全身から魔力を解放した。アスタロスの身体は魔力に包まれて、まるで魔力の鎧を纏っているかのような状態になる。

 これは魔力で身体機能や防御力といった基礎戦闘力諸々と底上げする魔法の一種だ。

 それ自体は別に珍しくも無いが、特出すべきはその精度だな。たいていは能力が倍になれば良いくらいだが、こいつの場合はざっと見ても三倍には跳ね上がっている。


 こいつは魔王とまではいかないまでも楽しい戦いができそうだぜ。


「何がおかしい?」


 おっと顔に出ちゃったか。


「別に。何でも無いさ!」


 俺は足下の地面を力強く踏み締める。


 その瞬間、辺り一帯の床が脈打つように揺れ動いた。

 これは土の精霊ノームの力だ。

 大地に干渉して、意のままに操る。魔力消費はちょっと激しいが、このくらいやらないとこいつに隙を作る事はできない。

 どんなに屈強な騎士でも足場を崩されたら、どうにもならないだろ!


「うッ! くそッ!」


「隙有りだ!」


 足場が崩れて生じた一瞬の隙に、風の精霊シルフの力で身体を加速させて距離を詰め、俺は一気に斬りかかる。


「く! 舐めるな、少年!」


 俺の一太刀をアスタロスは、ギリギリのところで受け止めやがった。

 俺の動きに付いてくるこいつの剣技は大したもんだが、それ以上にこの炎剣を受け止める聖剣バルムンクも大したもんだな。


「だけど」


 俺は返す刀で、鎧ごとアスタロスの上半身と下半身を切断した。

 一撃目はあくまでフェイク。本命は二撃目だったというわけさ。


「暗黒騎士団長アスタロス。中々の強者だったぜ。でも、俺の敵じゃなかったな」


 俺はアスタロスの亡骸から聖剣バルムンクを回収した。

 こうして改めて見ると、かなり禍々しい魔力を帯びているな。

 バルムンクを手にした瞬間、俺は全身から魔力を吸われるような感覚を覚えた。

 これがこの剣が、魔剣と呼ばれる所以なのだろう。


 並大抵の人間だったら、魔力を吸われすぎて失神しているに違いない。

 だが、俺の魔力保有量であれば、特に問題は無いな。


「ちょうど良い。魔王ティアマトに再戦するのに良い感じの武器が欲しかったところだ。こいつを使わせてもらうとするか」


「それをするには、まず皇帝陛下の許可を得ないとね!」


 露払いを任せてきたマリーが、暗黒騎士達を蹴散らして俺と合流する。


「分かってるよ。ただ言ってみただけだ」


「本当かしら? その剣はフリードリヒ大帝陛下の副葬品なのよ! つまり帝室の所有物! それを勝手に自分のものになんてしたら、今後こそ死刑になっちゃうわ!!」


「だ、だから分かってるって言ってるだろ。そんなに怒鳴らなくても良いって!」


「いいえ! ルークは頭のネジが五,六本は吹っ飛んでるんだから、絶対に分かっていないわ!」


「そ、そんなに言わなくても……」


「これでもだいぶ抑えてるんだけど」


 イリス、レーナ、早く来てくれ。そして俺を助けてくれ。

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