聖剣奪還任務

 皇帝の勅命を受けて、俺達第七小隊プリズン・ブレイカーズは聖剣バルムンクを奪還するために帝都聖ウルズの街サンクトウルズブルクを出発した。


 イリスの運転する魔導車が帝国高速道路インペリアル・ハイウェイを爆走して、帝国東部へと向かう。


 聖剣バルムンクの魔力反応は強力で探知は容易。しかも俺はその魔力反応の波長を覚えている。

 ある程度、近付けば魔力探知で位置を特定する事は可能だ。


 だからまず俺達は、バルムンクが納められていたフリードリヒ大帝の皇帝陵から一番近くにある魔王軍の基地へと向かう事にした。


 それにしても、速く移動できるのは助かるけど、イリスの運転はやっぱり荒過ぎる。

 俺達が乗っているのは軍用車だから良いものの、これがもし一般車両だったら、一発免停ものだぞ。


 そんな移動中の最中、助手席に座るマリーがこれから向かう魔王軍基地に関して分かっている情報を教えてくれた。


「この基地は、放棄された帝国の廃城を再利用する形で基地化されたようね。城の名前はゲベールブルク」


 魔王ティアマトと戦った古城と言い、この帝国は本当に廃城が多いな。

 まあ、千年もあれば色々あるって事か。


「現在、この城を拠点にしているは暗黒騎士団団長アスタロス。魔王軍幹部の中でも屈指の魔法の才能と剣技を併せ持つ強敵よ」


「そんな敵が聖剣バルムンクを持ってるなんて厄介ね」


 イリスが不安そうな声を漏らすと、反射的に第七小隊の太鼓持ちレーナが口を開く。


「大丈夫です! ご主人様の手に掛かれば、どんな敵でも楽勝ですよ! ね! ご主人様!」


「ああ。勿論さ」


「魔王にやられたばっかりだってのに、大層な自信ね、うちの隊長は」


 マリーはやや呆れた様子で、目を遅めながら後部座席に座る俺とレーナを見る。


「魔王ティアマトには不覚を取ったが、もうあんなヘマはしないさ。次は必ず俺が勝つ。幹部クラス如きになんて負けてられないよ」


「如きって。やっぱりルークの感覚はちょっと、いえ、だいぶズレてると思うわ。帝国軍がどれだけその幹部クラスの前に苦戦を強いられてきたか分かってるの?」


 魔王軍幹部クラスの実力は、当然魔王には劣るものの、それでも帝国の最強戦力と言われている聖使徒アポストルと互角かそれ以上と言われている。

 そんな幹部クラスが軍団を率いて、帝国東部へと攻め込んで来ているのだ。

 東部方面軍は戦線を維持するので手一杯になっており、戦線が崩壊も時間の問題とまで考えられているそうな。



 ◆◇◆◇◆



 俺達は長い道のりの末に、ゲベールブルク城の近くまでやって来た。


「ちょっとルーク、ここまで車で来ちゃって大丈夫なの? 私達、絶対に敵に探知されてると思うんだけど」


 操縦桿ハンドルを握るイリスが俺に質問をする。


 確かにここは既に魔王軍の勢力圏内で、俺達は今、主要街道を軍用車で爆走している。

 魔王軍がこれに気付かない方がおかしいというものだ。


 俺がイリスの質問に答える前に、レーナが口を開く。


「ご主人様なら当然、正面突破です!」


 うんうん。流石はレーナ。よく分かってるな。

 俺はレーナの頭を撫でてやった。


 するとレーナはまるで猫のように気持ちよさそうな顔をした。


 しばらく進むと、マリーの探知魔法にこちらへ接近する魔力反応が出現する。

 反応からして、魔王軍暗黒騎士団の騎士という事だ。


「おそらく斥候だろうな。まさかたった四人だけで城を攻めようとしているとは向こうも予想すらしてないんだろう。だからとりあえず様子見で斥候を放ったってところか」


「どうするの? どこかでやり過ぎす?」


「いいや。このまま真っ直ぐ進んでくれ、イリス。今回も正面から行く」


「はぁ~。相変わらずねえ。魔王にコテンパンにやられて、少しは懲りたかと思ってたけど」


「人間、そう簡単には変わらないわよ」


 イリスとマリーはなぜか同時に溜息を吐くが、まあ良いか。

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