初恋
邪竜ファブニールを倒した俺は、ファブニールの首を切り落として
傷口からは大量の真っ赤な血が噴き出し、俺は血のシャワーを浴びる。
邪竜の血は、それを浴びた者に不死身の肉体をもたらす。
ファブニールとの戦闘で出来た傷は見る見る内に回復していく。
血で血を洗う、とはこの事か。
今の俺は、前世の全盛期に比べればまだまだ弱い。
いくら四大精霊を従えているとはいえ、今の俺の身体はまだガキだ。
基礎魔力が圧倒的に劣っている。
それに一年もあの狭い監獄に押し込まれていたせいで、身体が完全に鈍っちまってる。
一年のブランクを埋めるために日々のトレーニングは欠かさないようにしているが、それでも不十分だ。
あの魔王ティアマトはおそらく前世の俺よりも強い。
この身体が限界になるまで使い潰しても、魔王に追い付くのは無理だ。
だからこそ、邪竜の血だろうが何だろうが、使える物はどんどん取り入れていかないとか。
そして、いつか、またあいつと。
俺は脳裏に魔王ティアマトの顔を思い浮かべる。
その瞬間、不思議と心臓の鼓動が速くなり、身体が震え出すのを感じた。
勿論、怯えているわけじゃない。ただ、武者震いとは何か違う。
「……」
嫌でも俺の頭の中には、前にイリスから言われた言葉が浮かんで離れない。
“ルーク、その魔王に恋しちゃったね”
「ありえん! ありえないよ!」
俺は雑念を振り払うべく血で顔を洗う。
自慢じゃないが、前世の俺は恋なんてものとは無縁に生きてきた。
戦い戦い戦い。
それだけが前世の人生の全て。
ホーエンハイム共和国執政官なんて名誉職をもらい、精霊王なんてご大層な渾名で呼ばれても、蓋を開ければただの戦闘馬鹿さ。
俺はそれで満足していた。戦闘馬鹿。大いにけっこう!
だって強い奴と戦うのは楽しいから。
持てる力の全てを出し切り、血が沸き、肉が踊る戦闘。
この感覚は一度覚えたら、もう止められない。
実際、魔王との戦いには負けたし、悔しいとも思う。でも、あれはあれで楽しかった。
前世で倒した最強の魔物
転生までしてこの時代にやって来た甲斐があったってものだ。
いつもの俺なら、どんなに行ってもここ止まりだっただろう。
でも今回は違う。
魔王の本気はどのくらい強いのか。魔王は普段、どんなトレーニングをしているのか。魔王はどんな料理が好きなのか。とにかくもっと魔王の事を色々知りたい。
そんな事が脳裏に芽生えて離れない。胸の高鳴りが収まらない。
「本当に俺は、一体どうしちまったって言うんだよ」
“ルーク、その魔王に恋しちゃったね”
再び俺の脳裏にイリスの言葉が蘇る。
「だああああッ! 恋!? この俺が? 無い無い。魔王が俺のずっと求めていた好敵手だから興味が湧いてるだけ! 魔王が美人だから下半身が反応してるだけ! うん! そうに決まってる!」
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