ルークの強襲作戦
東方の街タルト。
現在ここには魔王軍の侵攻に対抗するために、帝国軍東部方面軍が集結しつつあった。
「俺が収監されている間に戦況はかなり悪くなっているようだな」
魔導車の車内で俺達は、マリーから戦況の説明を受けた。
この一年間、軍属だったのはマリーだけ。
俺は知っての通り収監されてたし、レーナは奴隷養成所にいた。
イリスは予備役に入って実家に帰っていたらしい。
「そりゃ収監されてたルークに縋るくらいだからねぇ」
「でもルーク、一年間も収監されれていきなり前線なんて大丈夫なの?」
そりゃ普通なら一年間も収監されてたら身体も鈍る。そんな奴をいきなり魔王軍が闊歩する戦場に送り出すなんて正気の沙汰じゃない。
あくまでも“普通なら”だけどな。
「ご主人様はお強い方ですから、一年のブランクなんて関係ありませんよね!」
レーナがまるで太鼓持ちのようにそう言った。
この娘は本当に昔から良い子だな。俺には勿体ないくらいの子だとつくづく思う。
「まあ、ルークなら大丈夫か」
イリスが素っ気なく呟く。
これも幼馴染として培われた信頼関係の賜物、と言って良いのだろうか?
その時だった。車がガタンッと大きく揺れた。
「ちょっとイリス、もう少し安全運転で頼むよ!」
マリーが抗議するが、イリスはすぐに反論する。
「無茶言わないでよ。こんな悪路を安全運転なんてできるわけないでしょ!」
俺達が今、走っているのは深い森の中。
この先に魔王軍の前哨基地の一つがあるのだという。
まずは挨拶代わりに突撃を仕掛ける。
マリー曰く、ここは車を降りて奇襲を仕掛けるのが戦術的には定石という事だが、こそこそと敵の懐に近付いての奇襲は俺の流儀に反する。
敵は正面から堂々と打ち倒さなきゃ意味が無いだろ。
森に突入して数時間が経過した頃。
マリーの索敵魔法が魔族の反応を見つけた。
「ここから直線距離にして五キロくらい先に魔族の集団の反応があるわ。数はおよそ五百程度。魔力の反応度合いからして、全部ゴブリンね」
「相変わらずすごい索敵範囲だな」
マリーの魔法の才能はずば抜けている。支援系の魔法なら
「それで。どうするの、ルーク?」
「そんなの決まってるだろ。突撃あるのみだ!」
四対五百。
良いハンデだろう。
いや。一年間のブランクを考えると、実戦の勘が戻るまでは少し厳しいか。
「んん」
「どうかされましたか、ご主人様?」
「いや。何でもないよ。ただちょっと、久しぶりの実戦でちょっと緊張してな」
「ご安心ください! レーナがしっかりサポート致しますので!」
「ああ。期待してるぞ、レーナ」
「そうそう。ルークはまず身体を動かして、実戦の勘を取り戻す事に専念なさい。どうせルークの事だから、前衛をやりたいんでしょ。サポートは私達に任せて、あなたは暴れる事だけ考えて」
イリスは俺の事なら何でもお見通しなのだろうか。
幼馴染、恐るべしだな。
「それじゃあお言葉に甘えて、前衛は俺は務める。三人は俺の援護を頼む」
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