小隊編成

 帝都聖ウルズの街サンクトウルズブルク、軍務省庁舎。


 レストランで食事を終えた俺達は、帝国軍の軍政を一手に担う軍務省へとやって来た。

 なぜかって? それは勿論、俺の小隊を軍務省に登録して、正規軍として認めさせるため。面倒だが、これも正式に踏まねばならない手続きらしい。

 それと、俺の小隊に入る四人目のメンバーとここで合流するためでもある。


 庁舎の中に入ると、赤髪のショートヘアをした軍服姿の少女が俺達の前に立ち塞がる。


「遅い!」


 赤髪の少女ことマリー・シュヴァリエはご立腹のようだった。

 この娘は俺の幼馴染みで、俺より一つ年上だ。

 軍人家系のシュヴァリエ男爵家の出で、実家の後ろ盾と抜群の魔法の才能から、一年前の時点で大尉に抜擢された秀才。

 肩章を見る限り、どうやら今は少佐に出世しているらしい。幼馴染みとしては誇らしい限りだな。


「悪い悪い。久しぶりの再会に、話が弾んでさ」


「ふん! まあ良いわ。あなたの出所祝いだから大目にみてあげる。それより早く行きましょ」


「ほ、本当はマリーも参加したかったんだろ?」


「僕は、仕事優先って決めてるの!」


「わ、分かったよ。そうカッカするなって」


 それから俺達は軍務省の人事部に赴き、そこで小隊編成の手続きを行なった。

 と言っても、事務の作業のほとんどはイリスがやってくれたから、俺は本人確認以外は何もしてないんだけどな。


 それにしても、お役所というのは現世も前世も変わらず、つまらない事務仕事が好きなんだな。


 だが、俺達は最後の項目で頭を悩ませることになった。


「ねえ、部隊名はどうするの?」


「「……」」


 俺達はイリスの問いに誰一人答えられなかった。

 まったく考えていなかったからだ。


「別に何でも良いだろ。イリス、てきとうに書いといてくれよ」


「そうはいかないわよ! これからの私達の名前になるんだから!」

 マリーが噛みつこうとする狂犬のような形相で言う。


「ん~。レーナ、何かアイデアあるか?」


「ふぇ!? ……で、では、ご主人様のお名前を拝借して『ルーク』は如何でしょう?」


「止めてくれ。ややこしいから」


「特に希望が無いなら、私がてきとうに決めちゃうよ」


「あぁ、それで頼む」

 別に名前に特別な希望があるわけじゃないし、マリーなら変な名前は付けないだろうから。大丈夫か。


 こうして手続きを終えた俺達は、正式に聖使徒騎士団ナイツ・オブ・アポストル所属第七小隊『プリズン・ブレイカーズ』を結成。

 早速、魔王軍の攻勢を受けている東部方面軍を救援するという任務の辞令を受けた。


 庁舎の一角にある駐車場で、用意されていた四人乗りの小型装甲車に乗り込む。

 俺が乗ったのは後部座席。俺の隣にはレーナが乗り、助手席にはマリー。そして運転席にはイリスが乗り込んだ。


 この中で魔導車の運転免許を持っているのはイリスだけなので、この配置は至極当然のものだった。


「それじゃあ出発するわよ」

 イリスが両手で操縦桿ハンドルを握り締めると、操縦桿ハンドルが微かに発光した。


 この魔導車は魔力の受信機になっている操縦桿ハンドルに魔力を注ぐ事で機関部である魔導炉が動き出す仕様になっているのだ。

 魔導炉に魔力が注がれた瞬間、魔導車の全機能が動き出し、車は小刻みに揺れる。


 魔導炉は、人間の持つ魔力オドを起爆剤にして動き出すが、一度起動してしまえばあとはこの世界を満たす地力マナによってエネルギーが供給されるようにできている。

 つまり、人間がエネルギーを入れないといけないのは最初だけで、あとは勝手に動いてくれるというわけだ。


 どういう原理になっているかと言うとだな、いや、そんな話は良いか。


 なぜそんなに詳しいかって?

 そりゃ千年前に俺が魔導炉の研究開発に手を貸していたからさ。


 必要な材料と設備さえあれば、簡単な魔導炉を作る事だってできちゃうぞ。


 それはそうと、イリスの運転する魔導車は、帝都の都心部の中を駆け抜ける帝都高速道路インペリアル・ハイウェイへと入る。

 軍用車は任務中に限り、速度制限が解除されるのを良い事に、イリスは次々と先行車を追い抜いていく。


 相変わらずのスピード狂だな。


「……」

 窓ガラスの向こうに見える帝都の摩天楼を眺めていると、少し悲しくなるな。

 千年前は人と精霊が交流して、協力し合いながら生きていた。

 でも今は進んだ魔導技術の末に精霊の存在は過去の遺物となり下がっている。


 辛うじて残っているのは魔導炉くらいだ。

 魔導炉を動かす地力マナは、全ての精霊の頂点に立つ精霊龍王ジ・アースが生み出した産物。

 つまり魔導炉は精霊龍王ジ・アースと契約して、そこからエネルギーを供給している事になる。


 尤もそれを理解している人間は、この時代にはそう多くは無いが。

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