釈放からの大出世

「囚人番号三五〇番。そなたを今日を以って釈放する」


 十二人の聖使徒アポストルによって構成される帝国最強の騎士団“聖使徒騎士団ナイツ・オブ・アポストル”がそう決定を告げた。


 いきなり理由も告げずに監獄から出されて、厳重な監視下の中で護送車に乗せられた俺。

 行き先の天空大宮殿パレス・オブ・ヘブンで意外過ぎる展開に、俺の頭は理解が追い付かなかった。


「……」


「皇帝陛下は君に恩赦を与える事を決められたのだよ」


「新たに御子が御生まれになった事が恩赦のきっかけだ」


「はぁ」


 この国では、かつて俺がいた神聖ホーエンハイム共和国とは違って、皇帝の意思が全てにおいて優先されるらしい。たったの百年でよくもまあこんなにも変わってしまったものだ。


「一年ぶりに監獄の外へ出た感想はどうだい? アルカトラズではずっと陽の光も拝めなかっただろう?」


「そうですね。まさか太陽がこんなに眩しいものだとは思いませんでした」


 手足を厳重に拘束された俺は、一年ぶりに見る太陽の強い光に、思わず目から涙が零れてしまってもそれを拭う事ができなかった。

 傍目から見れば、久しぶりの太陽に感激して泣いているように見えるだろう。あぁ、恥ずかしい……。


「あそこに収監された者は数ヶ月で正気を失うというがこの子は大丈夫そうだな」


「そうでなければ困ります。我等としても、この恩赦を許容した意味がなくなる」


 聖使徒アポストルには何やら別の意図があるらしい。


「我等聖使徒アポストルに手を出した罪は、本来ならば死罪にも当たる大罪だ」


「だが我々は今回、君にその罪を償うための機会を用意した」


 一年前、法廷は俺を国家反逆罪の罪で糾弾し、終身刑を宣告した。

 それがたった一年で釈放。

 そんなうまい話があって良いのか?

 これはつまり。


「魔王軍が侵攻してきたのですね」


「察しが良いな」


 この世界は今、魔界の魔王軍からの侵略を受けていた。

 東方の小国は次々と呑み込まれ、神聖バシレイア帝国の国土に魔王軍の手が伸びるのも時間の問題と言われていたのが一年前。


 どうやらこの一年で、魔王軍は遂に帝国領土にまで勢力を伸ばしてしまったらしい。


「東部方面軍は、既に魔王軍との戦闘状態に突入している」


「そなたには、これより現地に赴き、東部方面軍の支援に当たってもらう」


「我等聖使徒アポストルをも超える実力を持つそなたの力さえあれば魔王軍など敵ではあるまい」


 経緯はどうあれ。俺がこの時代に転生した目的である魔王との決闘への準備は、何とか整ったようだ。

 一時はどうなる事かと思ったけど、これも俺の日頃の行いの良さの賜物だな。


「それとだ。魔王軍の侵攻に対抗するために、そなたを我等が聖使徒アポストルの末席に加える事を決定した」


「は?」

 ちょっと待て。聖使徒アポストルに加える? そんなの困る。聖使徒アポストルになったりなんしてしたら、皇帝から領地を貰って領地経営をしたり、帝国の国家運営にだって関わらないといけないし。

 そうなったら、強くなるために修行をする事もできなくなるし、何より魔王と戦うどころじゃなくなるよ。


 自慢じゃないけど、投獄されていたこの一年間、やる事もないから毎日筋トレは欠かさずやってたんだ。

 聖使徒アポストルになっちゃったら、それすら難しくなるよ。

 ここは何とかしないと。


「お、恐れながら、俺はまだ十三の子供ですし。一度は終身刑を宣告された罪人です。聖使徒アポストルなんて、とてもとても……」


「案ずるな。当面は肩書きだけだ。お前に実力を充分に発揮して働いて貰うためのな」


 なるほど。それなら、まあ、良いか。

 それに考えようによっては、こいつ等もそれだけ追い詰められているというわけだ。

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