転生先は牢獄

 俺は固いベッドの中で目を覚ました。


 この身体に転生して、そろそろ十三年が経過する。

 前世の記憶は若干朧気なんだけど、だいたいは思い出した。


 俺はベッドから降りて立ち上がると、まず自分の両手に目をやる。

 俺のまだ小さな身体は、首から下をすっぽり覆う特別製の拘束衣を着せられた。


 俺が今いるのは、世界最高峰の大監獄“アルカトラズ”の独房の中。

 つまり俺は囚人なのだ。


 なぜ俺が囚人になっているかって? 理由は簡単だ。

 聖使徒アポストルに喧嘩を売ったから。ただそれだけ。


 因みに聖使徒アポストルというのは、この現世において世界最大の領土を誇る神聖ホーエンハイム帝国皇帝に仕える帝国最強の十二魔導師を指す。

 つまり、この国で一番強い存在という事だ。転生して俺の実力がどうなったかを試すのには打ってつけの相手だと思った。


 十二人いる聖使徒アポストルに順番に片っ端から決闘を挑んだ俺は、十人目で魔力切れという何とも呆気ない形で負けてしまった。

 これは十二人抜きできなかったのは残念だが、おかげで俺の今の実力はおおよそ把握できた。

 のだが、残念な事にこの国では決闘は禁じられているらしく、それも相手は聖使徒アポストルとなると国家反逆罪の容疑が掛けられてしまうらしい。


 俺は裁判無しで極刑が決まった。

 ただ、当時まだ十二歳だった事を加味されて終身刑に減刑され、そして現在に至るというわけだ。


 さてと。順序が逆になった感はあるけど、現世での俺の自己紹介といこう。

 この時代での俺の名は、ルーク・アットクラテール。

 アットクラテール伯爵家の次男坊だ。と言っても、終身刑を宣告された時点で父上からは勘当されて、アットクラテール伯爵家とはもう何の縁も無いけどね。


 その時だ。

 扉の向こうから看守の足音が聞こえてくる。


 カチャカチャ、と音を立てて独房の鍵を開ける。と言っても、独房の扉の鍵ではなく、扉の下の方に付属している小さな窓の鍵だ。


「三五〇番、食事だ」


 看守の声と共に、開かれた小窓からトレーが中に入れられた。

 そのトレーの上には、まるで泥の塊のような流動食が盛り付けられている。

 これがここでの俺の飯。見た目は悪いし、正直言って味も最悪。


 だが贅沢を言えない。俺は敗者だからな。勝者から受けるどんな屈辱にも耐える義務がある。

 敗者は黙って勝者に従う。

 それが前世でも現世でも俺が貫く流儀だ。

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