第4話 『最後の秘密』

ただ、冷静になって考えてみれば、


そんなシステムを正当化してきた自分たちにも少なからず責任があるだろう。


そんなことを思いながら、夫婦円満システムのなくなった毎日を過ごすうち、


前よりも確かに話す頻度が多くなったことに気づいた。


秘密などわからなくても、


知りたいことがあるならば、


毎日のささやかな暮らしのなかで


お互いを観察することで見えてくるものが必ずあるはずだと


前よりもずっと距離がぐっと近くなった気がする。


はじめて出会ったあの若かれし頃のように、


また一からお互いを知っていくのも悪くはない。


ほぼ、同時にこんな言葉が出た。


『あの、今度の日曜日デートしませんか?』


もちろん返事はオッケー。


私はまた振り出しから


夫婦をはじめていく。


そこから先は


二人しか知らない秘密だ。


最近は、名前で呼んでみたりしている。


何歳になっても、


恋は素晴らしいものだ。


こんな気持ちは誰にも言えない。


秘密の恋だ。


最後の秘密は、


誰も知らない


秘密の恋だ。


『愛してる』なんて


まだ当分言えなくて。


ーーーーーーーーーー


そして新しい朝がはじまる。


今日は、私と妻の人生何回目かのデート。


妻は、どんな服を着てくるのだろう。


妻は、どんな化粧をしてくるのだろう。


そんなことばかりに気をとられていたが、


妻の秘密を、


思い返していた。

 

妻は、スパイじゃないし、


自分も忍者じゃない。 


ただの、主婦と


ただの、亭主だ。


僕たちは、何者でもない


今日からは。


『綺麗だよ』


妻が来たら必ずそう言うんだ。


『カッコいいね』


夫に会ったら必ずそう言うんだ。


二人は、今最後の秘密を胸に、


大好きなあなたに


会いに行く。


完。







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『夫婦の日』 石燕の筆(影絵草子) @masingan

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