34



side. Subaru





「え…────円、サン…?」



またいつもの悪夢が始まり。

一枚壁の向こう、自室で耳を塞ぎ現実逃避していたら…



程なくして、円サンの悲鳴がピタリと止み。

隣りの部屋から、誰かが外に出て行った音を最後に。


そこは不自然なくらい、静まり返ってしまった。






不審に思い、暫くベッドの上で様子を窺っていたら。遠慮がちにドアがノックされ────…


気まずそうに俯いたままの円サンが、ゆっくりと扉越しに顔を覗かせた。






中に入るよう促し、2人並んでベッドへと腰を下ろす。

円サンから香る微かな晃亮の匂いが、今し方の生々しい映像を嫌でも過ぎらせ。


俺は堪らず、奥歯を噛み締めた。







「何か、あったんですか…?」



晃亮が円サンを呼び出し、事に及んでからまだ30分くらいだろうか?

いつもなら何度も何度も、円サンが気を失うまで狂ったよう繰り返していたコトなのに…。


今日の晃亮の行動は、まさにであった。







「ううん…何も、何もなかったんだ…」



力無く首を振る円サンは、

何処を見るでもなく虚ろな瞳をしていて。


晃亮に散々弄ばれ…身も心も、

相当病んでいるような面持ちを浮かべる。






「聴こえてた、よね…?い…いつもみたく、されてたん、だけどっ…。いきなり帰れって、そしたら晃亮クン、出て行っちゃって…」



話しながら、円サンは涙を流す。


晃亮の行動に振り回され混乱し、気持ちが追いついていないのかもしれない。






「ごめん、円サン…」



震える身体を抱き締める。

少しでも円サンの苦痛が和らげばと、強く強く。


そうすれば円サンは自ら腕を回してきて。

俺の胸の中へ、深く顔を埋めてきた。






「こ…すけクンも、傷付いてるって、解ってるっ…。でも、いくらオレでも…こんなの、こんなの────」



悲しすぎるよ…



年上という立場も忘れ、俺に縋りつく円サンは…


″あの日″みた笑顔も輝きも、


全て失くしてしまっていた。




もう、限界なんだ…。







「円、サン…」


「ふぇっ…?」



両肩に手を添え、瞳を合わす。


ボロボロと涙に濡れ、

揺れる瞳が俺を捕らえ伏せられたなら。



俺は迷うことなくソレに近付いて、


唇を塞いだ。







「んっ、ふぁ…ん…」



深く深く、アナタのもとへ。

ただ夢中で互いに舌を絡め、繋がる。



隠しきれない想いが、

そこから伝わってしまいそうなくらいに。

今だけは欲張りになって、円サンの唇へとかじりついた。





「んあッ…はぁ、ンッ……」



頬を赤らめ、

鼻から甘い吐息を漏らす円サンは…

今までにないくらい艶やかな表情で以て。


俺を魅了した。







「はッ…円、サン…?」


「アッ…昴くっ……」



俺から離れたら、名残惜しそうにしながら俯く円サン。





「円サン…?」


「やっ、その…これは────…」



顔を覗き込むと、もぞもぞと慌てて俺の腕から逃れ、背を向けられてしまった。




ドキドキ、する。


そこから浮上する期待を胸に、

俺はその背をふわりと包み込むと、耳元に顔を近付けて囁いた。






「こっち、向いて下さい…」


「むっ、ムリ…っ…」


「ね…?」



ちょっとだけ、悪戯心が芽生えて。

ほんのり赤い耳朶に、ふぅっと息を吹きかけたら。




「んやぁッ…!」



円サンは女の子みたいに上擦った声を漏らし。首筋まで真っ赤に染め、気まずそうに口を抑えた。





「円サン、お願い…」


「うぅ…」



甘えるように懇願すれば、円サンの方が根負けしてくれて。怖ず怖ずとこちらを向いたアナタの頬に、するりと手を添える。






「もう一度、キス…してもいいですか?」



そう熱っぽく見つめ、問いかけたなら。



円サンは期待する以上に、意外な応えを…俺に示してくれた。







「…キス、だけ……?」


「ッ…─────!」




もう隠しきれない。


全部、溢れてく…

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