13



side. Subaru





「晃亮…?」


ざわつく心臓を抱えたまま。

円サンから離れ、晃亮に近づく。


目の前まで来れば肩に手を置かれて、


低く妖艶な声音で囁かれた。






(俺の敵だ…─────潰せ。)



─────解るよな?




俺の中では、絶対的な支配者。

彼にそう命じられたら、

例え愛しい人の願いでも、無力となる。



だから、コタエはひとつ。






「──────…ハイ。」


返事だけして、先程の2人が消え去った方へ駆け出す。





「昴クン何処行くの~?」


「ヤボ用だ…すぐ終わる。」



何も知らない円サンが、

「待ってるよ~!」と俺に叫んでいる。


きっといつものように、目一杯手を振りながら。



それに応える事無く、俺は奥歯を噛み締めた。






(すみません、円サン。)


例えアナタに想いを寄せていようとも。

俺には、選べそうにありません…。





(もし晃亮が…)



貴方を欲してしまったら…





「くッ……!」



それが、最悪の事態に繋がったとしても。


俺は、アナタに…


何もしてあげられないかも、しれません───…










「…ったくよ~染みになっちまったじゃねぇかよ。」


「いいじゃん~パス代浮いたんだしぃ?」


「あ?…そう言えばお前、あのメッシュ野郎に色気振り撒いてたろ?」


「え~だってアンタの100億万倍カッコ良かったんだもん!!」


「お前少しは遠慮しろよ…。」



建物の影、人目に付かない場所でギャーギャー喚き散らす派手な男女。


流石に広場で騒ぎになるのは、避けたかったから。



…丁度良かった。







こんな事してる場合じゃないんだ。


円サンは今、晃亮と2人きり。

早く、戻らなきゃなんないから────…





「オイ…」


「あ?」



グシャッ────…!!!



「キャアァッ…!!」



手っ取り早く、ぶっ潰す。





「ヒィィッ…!!」


振り返った瞬間、思い切り拳で薙ぎ倒す。


反動で一瞬宙に浮いたソイツを、すぐさま逆から拳を握り顔面にぶち込めば───…

勢い良く吹き飛んで、建物の壁に鈍い音をたてて激突し。


そのままくたりと、動かなくなった。







女に視線を移せば、悲鳴を上げ腰を抜かしてしまい。

塗りたくった化粧は、

涙でグチャグチャになっていた。






「ヒッ…!」


「金…返して。」


女に近付き、手を差し出す。


ガタガタと震えながらも、状況を察したのか…。

覚束ない手で、鞄から財布を出すと。

7千円を抜き取って急いで差し出した。


俺はそこからクリーニング代を差し引いて、

5千円だけを受け取る。





「ごめん、命令だから…」


泣き崩れる女に、罪悪感が沸き起こり…。

言い訳みたいな捨て台詞を残して、踵を返す。




酷い奴だと思われても仕方ない。


例え命令だとしても、

手を下したのは、俺だから…。





今はただ、この胸騒ぎを早く消したくて。

顔に飛び散った返り血にすら、目もくれず…



円サンの所まで、


俺は全力で走った。

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