12
side. Subaru
「おいコラ、どうしてくれんだよテメェ…!!」
晃亮と並んで、店を後にした瞬間。
遊園地と言う場にそぐわない、質の悪い怒声が前方から響いてきて…。
そこには、
「ごめんなさい、弁償しますから…」
チンピラ風のひょろい金髪男と、連れらしきケバい女に言い寄られ、頭を深々と下げる円サンがいた。
晃亮と目配せして、俺は頷くと…。
手にしたトレーを預け、急いで円サンへと駆け寄る。
「どうしたんですか?円サン…」
「あっ、昴クン…」
俺が睨み付けると、怯んだように後退りするチンピラ。
さっきまで威勢の良かった女の方は、何故か赤くなり…。俺を見上げては急にクネクネしだして、気持ち悪い。
「待って、昴クン…!悪いのはオレだから…」
…────話によると、
円サンが背伸びした瞬間、タイミングが悪く後ろを通りかかったこのチンピラの手にぶつかったらしく…。
その反動で持っていたトレーをぶちまけてしまい、相手の服を汚してしまったんだそうだ。
…確かに、チンピラのセンス悪いシャツは悲惨な状態になっている。
「そっ、そうだぞ!クリーニング代も入れて1万は払って貰うかんな…!?」
明らかに不当な要求を叩きつけるチンピラ男。
背後では女が控えめに相槌を打っていた。
「あ?フザけてんのか、テメェ…」
一歩踏み出し威嚇すれば、
顔を青くして更に縮こまるチンピラ。
この位でビビるようだから、ただのハッタリ野郎だろう。
「昴クン、ダメ…!」
牽制がてら、
顔面に一発お見舞いしようかと思っていたら…
円サンがすかさず、俺とチンピラの間に割って入る。
「ケンカはダメ。」
「でも…」
「ダメ。」
いつものへにゃりとした面影は微塵も無く。
強い眼差しに押され、仕方なく拳を収めると…
円サンはふわりと俺に微笑んでから、チンピラへと向き直った。
「ごめんなさい、さっきパス買ったから1万も持ってないんです。だからコレで…許して貰えませんか?」
そう言って、全財産であろう7千円を差し出す。
面食らったよう、円サンの手元を凝視していたチンピラだったが…。
すぐさま我に返って、その金をふんだくると。
俺の存在を気にしつつ、叫んた。
「…っこれで許してやるよ!」
「チッ…」
調子に乗るチンピラに、殺意剥き出しでガンを飛ばせば…
俺に手を振る女を引き摺って、
チンピラはそそくさと去って行ってしまった。
2人が見えなくなると、
円サンは安堵したように肩を下ろす。
「はぁ~良かったぁ…」
ねっ、と相槌を求める円サンの気が知れない。
「良くないでしょう?たかが飯とクリーニング代に、あんな金渡して…」
呆れたように俺が返せば、悪いのはオレだからと苦笑する円サン。
「あんなハッタリ野郎、一発カマしとけば────」
「ダメ、だよ。」
「ンッ…──!」
俺の唇に人差し指を当て、言葉を遮った円サン。
触れた指が、やけに熱く感じて。
心音が、急激に速度を増してく。
「キミに喧嘩して欲しくないから…ね?」
貴方にそう言われたら、素直に従いたかったのだけれど────…
「すばる。」
背後から呼ばれ振り返れば、晃亮がいて。
いつもより僅かに機嫌が悪いのは、
俺の…気のせいでは、ない筈だ。
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