10
side. Subaru
名前を知ったその日から、
俺は篠宮さんを『円サン』と呼ぶようになった。
年功序列の概念を持たない晃亮は、当然呼び捨てだったけど…。
円サンは何の疑いもなく、
すんなりと俺達を受け入れていた。
円サンがバイトに入る日は、決まって2人でコンビニを訪れている。
そして必ず飴を買うのが、晃亮の習慣で…。
甘いものに縁が無さそうな顔をして、ちゃんと口にするから不思議だ。
生きてるのも不思議な位、無気力な晃亮。
唯一喧嘩の時だけは、本能を晒すものの。
食べる事には無頓着過ぎるから、
大体俺が飯を作って食べさせていた。
抱く女だってそう。
欲求を吐き出せればそれでいいから、
執着などしない。
晃亮なら黙っていても、尻尾を振って向こうからやって来るから。
気が向いた時、
名前も知らない女を使い捨てで抱くのが、
当たり前のスタイルだった。
…それぐらい、無頓着。
俺が傍にいないと、晃亮は生きようともしない。
俺がいたから、こうなってしまったのに。
矛盾してる。でも、
成立する、関係。
それがここにきて、崩れる。
自らの意志で行き先を決め、生きる為の糧を求める。
携帯電話なんて、必要最低限しか手にしなかった。
なのに今は楽しそうに、眺める時間が増えていて。
″人成らざる者が、人になる瞬間″
喜ばしい事じゃないか。
自分の所為で壊れてしまった晃亮が、
やっと心を取り戻したというのに…。
同じヒトに執着する現実────…
素直に受け入れるには、辛い…。
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『今日はちゃんと学校行ったの?』
────行きましたよ…殆ど屋上でしたけど
『ダメだゾ~(`ε´)大人になって後悔するんだからね?』
────卒業出来るようにはしますよ、一応…
『よしよし(i_i)\(^_^)昴くんはイイコだね~』
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馴れない手付きでツタツタと、携帯電話を操作する。
晃亮と同様、俺も普段からメッセージの遣り取りなんてするようなタマじゃなかったが…。
ちょっとした事でも繋がっていたくて。
文明の利器に頼ってでも縋りつきたい位、
知るほどに…どんどん欲張りになってくんだ。
『キミ達を見てると、うちの兄ちゃん思い出すよ(^_^)昔スッゴくやんちゃしてたから…って、今もあんまし変わらないけどね(笑)』
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「兄弟がいるのか…」
ほら、またひとつアナタを知った。
それだけその事で、満たされてしまう。
────円サンお兄さんいたんですね?長男ぽかったんで、意外です。
『でしょ?オレって頼れるお兄さんなんだからね(^-^)v昴クンはひとりっ子かな~?』
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ツキリと奥の方が痛む。
円サンは、悪くない…。
だって何も、知らないんだから。
────俺はひとりっ子ですよ。
でも…晃亮が兄貴みたいなもんですから。
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躊躇いがちに送信したメール。
以前なら何も考えず、即答出来たのに。
今は何だか、しっくりこない部分があって…後ろめたい。
晃亮が円サンに興味を示したから…尚更。
『そっか~…なんかいいね、そういうカンケイ(*^_^*)』
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…………。
携帯電話を抱き、目を瞑る。
テレビすらない互いの根城は、
いつだって静かで笑いすら起きない。
物音ひとつしないから、
隣の晃亮が何をしてるかさえ解らない位だ。
時刻は23時過ぎ。
晃亮は眠りについただろうか?
それとも、あの人を思いながらメッセージを送ったりでも、しているんだろうか…。
モノクロームに包まれた、薄暗い部屋の中。
無心になって眠りたいのに。
(俺は、どうしたらいいんだ…)
同じモノを、
同じ感覚で見る晃亮。
もし晃亮が本気なら、
俺には対抗する権利すら、存在しないんだろう。
俺が壊してしまったから。
そんなおこがましい事、考えるだけで罰を受けるに違いないんだ。
掻き消す事の出来ぬ不安に苛まれ。
皮肉なもんだと自らを嘲笑いながらも。
俺は大嫌いだった神に、
くもりないアナタの笑顔を想って。
祈りを捧げ、眠りについた。
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