7



side. Subaru





「何なの~アンタ?」


爽やかな笑顔の中に、

あからさまな苛立ちを醸し出す森脇。


だが、声の主に通じる訳もなく。

は腕を組み、仁王立ちで対抗してきた。






「あれ、キミは…」


「…………」



黙ってさり気なく晃亮の背後に隠れようとしても、無駄だったようで。


俺の不安など知りもしないその男…篠宮サンは。

ニコニコしながら俺の方へと、歩み寄って来た。





「久し振りだね~。今日はお友達と一緒かい?いや~青春してる?」


「……ども。」


仕方なく会釈すれば、親父臭い喋り方でバシバシと二の腕をど突かれる。


地味に痛い…。







「…すばる?」


冷めた声で俺の名前を呼ぶ晃亮に、

ドクリと心臓が跳ね上がる。


晃亮を振り返れば、

つられて篠宮サンも晃亮に視線を移し…



ぶつかる互いの視線。







「…誰だ?」


針を刺すような低音。

晃亮は、不要なモノと判断したものには容赦しない。


例え相手に非が無くとも。

彼の前では彼が法で。



篠宮サンの態度次第では、最悪の事態になりかねないような…。


そんな空気を、纏わせていた。






拳を握り、張り詰めた空気を押し隠し、

成り行きを見守る。


すると…

やはり空気の読めない篠宮サンは、

ニッコリと場違いな笑顔で以て答えてしまうんだ。







「ん?オレはここのバイトだよ~!」


「…………」


晃亮が拳を握り締める。

表情は虚ろなまま、篠宮サンを捉えていて…


ゴクリと唾を飲んだ。

もし晃亮のスイッチが入ったら、

俺にも…例え森脇達3人がかりで抑えにかかったとしても。


まず、止められやしないだろう。





けど、ダメなんだ…

この人だけは、違うんだよ…晃亮。




この人だけは、


絶対に傷つけちゃいけない────…







いつ晃亮が暴れ出しても、

おかしくないっていうのに。

篠宮さんはカラカラと、この危機的状況を笑い飛ばし…


ゴソゴソと、ポケットの中を漁りだす。







「ホラ~これあげるから、煙草消しなさ~い!」


事もあろうに、篠宮さんは凶器に値する晃亮のその手をガシッと掴みとると…






「なん、だ…?」


「ミルキィだよ!!禁煙すると、口寂しくなるんでしょ?」


コレ好きなんだぁ~と、

晃亮の手に飴をこんもりと乗せ始めた。






「はーい!喧嘩しないように、キミ達もサービスね~!」


そう言って、俺と森脇にも山のように飴を分け与える。





「あっ、ありがとう…」


森脇は気が削がれたのか、頭まで下げて飴をポケットにしまい込んでいるし…。





「すぐにとは言わないけど、少しずつ本数減らすんだよ~?」


そう念押しした所で、店内の土屋が会計に向かったので。

篠宮サンはじゃあねと慌てて戻っていった。








「…………」


手のひらの飴玉を、じっと見つめる晃亮。


俺だけが知れる、晃亮の異変。

何ものにも無関心なのに。



初めて、空っぽの瞳が、


何かを捕らえた、


その微々たる変動。





ずっと傍にいたから、解る…。





(あんたも、知ってしまったのか…)


沈黙のまま、見ているだけ。

端から見れば、ガン付けしてるようにしか見えないけど、違う。


確かに、それは動かされている。




晃亮の心が、

あの人を受け入れた証拠。





「晃亮っ…!」


思わず名を呼ぶ、俺の声は掠れていたけど。

今はそんな事を気にする余裕なんて無かった。






「…どうした?」


「いやっ……」


俺の動揺を気にする事も無く。

晃亮は手の中の飴と、ガラス越しの篠宮サンを何度も見返している。





ドロドロ溶ける、俺の中の醜い獣。


不安と絶望、


ほんの少しの希望が混在して…



胸がはち切れそうに、痛い。






それでも、隠さねばならない。


晃亮がきっと、許さない。




異質な空気の中、

扉の電子音と共に、



「お待たせ~!なんかここの店員タバコ売ってくれねぇんだけど!変わりに飴玉すげぇくれてさぁ~…」



まさに場違いな、

土屋の間抜けな笑い声だけが…


その空気を、ブッた切っていた。

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