2
side. Subaru
嘘みたく澄んだ青一色の、春の空の下で。
俺は珍しくひとりで、特に宛もないままに歩いていた。
大乱闘後の翌日とあって、俺の身体はズタボロ。
それがほぼ毎日ともなれば、喧嘩にも痛みにも随分と馴れはしてはいたが。
流石に2人だけで、20人近くを相手にしたのだから…多少の怪我は免れない。
それでも普通に考えたら、この程度の怪我で済んだのは奇跡なんだろう。
2人で…と言っても、相手の大半を完膚無きまでにブッ潰したのは。
晃亮の方、だったんだから。
晃亮は今、家で寝てる。…と言っても実家じゃない。
晃亮が高校を上がってすぐ、彼の親から厄介払いとばかりに、マンションの一室を買い与えられたから。
必然的に俺もくっついて、一緒に住むようになった。
自由と言う名の牢獄。
裕福で何不自由なく見える生活も。裏を返せば、子守りを放棄した大人達の考えついた、その場しのぎの言い訳で。
デカくなるにつれ扱いづらくなった、俺達に対する妥当な配慮…といった所なんだろう。
喧嘩の後の晃亮は、まるで電池切れしたみたいに翌日はずっと寝てる事が多い。
晃亮は俺なんかとは格が違うから。
敵と見做せば最期、容赦などしてくれやしない。
かなり顔が整っている分、無表情で人を殴り飛ばす姿は、機械仕掛けの人形みたいなもんで。
泣き許しを請う者にすら、慈悲など無く。その長い足で容易に踏みにじるから。
無心─────…そうなんだ、きっと。
俺も、感情的なタイプじゃないと自負してるけど。
晃亮の場合は、そんな甘っちょろいモンじゃなく。
俺ですら未だに、人を殴る事に躊躇う時があるし。例えどんなに許せない相手だったとしても…あそこまで非道を貫ける自信はない。
愛された事が無いから、
愛する事を知らない。
優しくされた記憶が無いから、
優しくする術を持たない。
ほんの少し前の俺なら、一番理解していた筈なのに。
今の俺はもう知ってしまったから。晃亮に対する気持ちが、昔とは全く変わってしまった。
あの頃までは、確かに同じモノを見ていた筈なのに。
“尊敬から同情へ”
晃亮の背を追う俺は、無感情で無機質な彼を。
可哀相だと、思ってしまったんだ────…。
俺の異変に本能で勘付いた晃亮も。
それ以来、俺の扱い方を変えた。
常に傍に置き、弟ではなく、それこそ舎弟のように。必要とあらば、命令を下すようになったんだ。
お互い小さな頃から依存し合った、歪な関係。
″俺が晃亮から離れていく″
心を捨てた晃亮は気付いてないのかもしれないが。
きっと…独りに、なりたくなかったのかもしれない。
絶対的な力である晃亮の右腕となり、彼が修羅場に立とうものなら。
俺は迷わず、先陣を切るだろう。
一度でも晃亮を見下してしまった…俺の罪。
口には出さないが、許されはしない。
晃亮がこんな風になってしまったのは、
俺の所為、なんだ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます