第3話 巨大ロボット

「8mを超える巨大ロボットは中々できませんでした。我々全員、没頭して取り組んだんですが、研究はすっかり行き詰まってしまってですね。でも、戦闘用だったとしても私の目には身長8mでも十分に思えたんですけどね」

 男は言った。その表情は真剣で嘘を言っているようには見えない。

「じゃあ、それで終わったんですか」

「いえ。ある日、別の研究者、数人がやってきたんです」

「へえ。その人たちがその素材の問題を解決したんですか?」

「はい。超硬度のカーボンナノチューブ。そして、特殊なチタン合金をボディに導入することに成功しました。それで、二倍の高さである身長16mまでは達成したんです」


「一気に16m?」

 本当にそんなことが可能なのか。ぼくの中で疑問の気持ちが強くなった。まあ8mの高さで落ち着くのだろうと想像しながら聞いていたのだが、一気に二倍になるとは。ただ、それだけボディの素材が軽くて強かったということなのか――そんなことを考えていると、

「身長20mは無理だったんですが、16mでもクライアントは納得したらしく、とりあえずその身長16mのロボットがプロトタイプとして位置づけられました。続けてレーザー砲やレールガンなんかも付けられ、それらを持ちつつバランスを崩さずに動けるようなプログラムの修正も行いました」

 と、男は言った。

「なるほど」

 ぼくはやっと頷いた。


「完成したロボットは素晴らしかったです。インド人のプログラマーとぼくの作ったAIは完璧でその大きさの運動神経のいい人間が動いているかのように動きました。おまけに搭載している武器の威力も絶大で」

「その……日本刀はどうなったんです?」

「クライアントの強い意向で、一応背中に背負わせましたが、あれは使うことはないでしょうね。万が一、同じようなロボットが敵で現れて、さらに武器が切れてしまうとかの限定的な状況が無い限り……」

「むう……」

 ぼくの中の疑念の気持ちがさらに大きくなった。作り話としては面白いが、あまりにも現実感がない。

「すみません。勝手にどんどん話してしまって、信じられないですよね」

 男がまた苦笑いをした。きっとぼくの顔に信じられないという表情が現れていたんだと思う。


「で、そこから逃げ出したってことなんですか?」

 ぼくは少し慌てて、質問を続けた。最大の疑問だった。

「ええ……」

「何でです? 研究をすることや環境には納得していたんでしょう?」

「ある日、ふと気づいたんです。周りの研究者がいなくなっていっていることに」

「それって、その人たちの出番が終わって帰っただけってことはないんですか?」

「それも考えたんですが、ある日から研究データを譲渡することをしつこく言われるようになってですね」

「それって、そういうものなんですか? 研究所にいるんだったらその人たちにもすぐに手に入りそうなものですが」


「もちろん手に入る物はあります。でも、細かいキーになるディテールや大切なデータは私の頭の中にあって渡していないんです。あれが量産されることには凄い抵抗があってですね」

「何でですか?」

「あれは怪物ですから。いつの間にか私の知らないところで、合体して空を飛ぶためのアタッチメントまでできていたんですよ……」

「へえ」

 まさか、そんなことまで言い出すなんて。身長16mの巨大ロボットが空まで飛ぶなんて、それはもうアニメーションやSF映画の世界だ。


「まあ、大まかにはこんなところです。私は怖くなってこの研究所から逃げ出したんです」

 ぼくの顔にはきっと疑いの表情が強く出ていたのだろう。男は話を打ち切るように言った。

「でも、どうやって逃げたんです? どこの国にあるかも分からない地下の施設なんでしょう?」

「それは秘密です。あまり知らない方がいいと思いますので」

 ぼくはそれでも話を続けようとしたが、男はそう言った後、沈黙した。

 結局、そこはどこの国だったのか。ロボットはそれからどうなったのか。逃げ出す手段は何だったのか。研究施設から逃げ出すのに協力してくれた人はいたのか――。

 ぼくはあれこれと質問を続けたが、男は何も答えなくなった。


 ぼくは男に話を聞くのは諦めて、

「分かりました。今日はゆっくりされたらいいですよ。明日は出て行ってくださいね……」

 そう言って立ち上がった。鍋とどんぶりを持つと台所に行って洗う。

 洗い終わって居間に帰ってくると、男が床に横になって寝ているのが見えた。

 見た目どおり、疲れ切っているのだろう。


 ぼくは男にバスタオルを掛けてやると、自分の机に座った。

 パソコンの電源を入れ、いつも見る小説の発表サイトにアクセスする。大手の出版社が経営するサイトで、ここからプロになる人も何人も出ている。かくいうぼくも、ここでプロを目指して小説を発表しているのだった。

 今日聞いた男の話が、小説にも生かせるかもしれない。ぼくはそう思い、自分のアカウントを開くと、キーボードを叩いて下書きを始めた。

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