第2話 秘密施設

 疲れ切ったような表情の男は嘘をついているようには見えない。しばらく無言の間が続いたが、ぼくは口を開いた。


「……そこはどんな施設だったんですか?」

「地下四階の巨大な施設です。四階をぶち抜いてある巨大な機械建設用ドックまでありました。それと娯楽施設もあって……」


「へえ」

「そして、他にも様々な研究者がいたんです」


「どんな人たちですか?」

「高出力レーザー、小型レールガン、バリヤーの開発者、戦車の装甲の研究者、そう言えば日本刀の技術者なんて人もいましたね」


「全然、ロボットと関係なさそうですね」

「ええ。最初私もそう思いました。ただ、これらは全てロボットに搭載する前提で呼ばれていたんです」


「日本刀もですか?」

「狂っているとしか思えませんが、巨大な日本刀を作れないか、ということだったみたいですね」


「巨大……?」

「ええ。ずっと後に気づいたのですが、この研究所は巨大な戦闘用ロボットを作ることを目的とする機関だったんです」


 巨大な戦闘用ロボット!? 想像もしていなかった方向に展開していく話にぼくは興味をひかれていた。


「信じられませんよね?」

 男がおずおずと言った。


「いえ。あの……そんなことはないんですが、突拍子がなさ過ぎて」

「ですよね。まあ、こんな感じで……」


「ちょ、ちょっと、もう少しいいですか?」

 男が話を打ち切りそうだったので、ぼくは慌てて言った。


「レーザーとか日本刀とかの武器だけじゃなくて……、あなたの他にもロボットの研究者はいたんですよね?」

 素朴な疑問だった。


「ロボットの駆動に使う高出力モーターや小型ジェネレーターの技術者もいましたし、マニュピレーター専門の技術者もいましたよ。あと、その他にも、人の動きをロボットの動きに直す操縦系のプログラマーがいました。彼はインド人だと言っていましたが、彼の研究は非常に興味深くて、私の作っていたAIと彼のプログラムを融合させることで、ロボットを制御するシステムは飛躍的に進歩しました」


「うーん、なるほど。凄く説得力がありますね……」

 と言って、あっと、ぼくは口を押さえた。


「ああ、いいんですよ。中々信じられないですよね」

 と、男は言い、苦笑いした。


「すみません。信じないわけじゃないんですよ。色々と疑問が湧いてきてですね。もう少しだけ話を聴かせてください」

 ぼくが頭を掻きながら言うと、男は頷いた。


「例えば、研究者同士で、ここはどこの国なのかとか、研究の目的についての話とか……もっと言うと、ここ怖いねみたいな話にはならなかったんですか?」


「うーん。何て言えばいいのか、あの時の私たちは少しおかしいというか、ハイな精神状態だったんですよ」

 男は、昔のことを思い出すような遠い目をした。


「ハイ?」

「ええ。施設は非常に充実していて、研究に没頭できますし、周りの研究者は非常に有能な人たちばかりだし。何より、予算を気にせずにやりたい研究に没頭できるって言うのが魅力で。だって巨大ロボットを作れるんですよ。ある意味、ぼくの夢だった仕事です。だから、その時は怖いとは思いませんでした。まあ、どこの国なんだろうねみたいなことは少し話題にはなりましたが」

 男の顔に赤みが差し、目がいきいきとしてきた。


「巨大ってどれくらいだったんですか?」

「一応、目標は身長20mだったんですよ」


「えっ!? そんなの無理でしょう?」

 ぼくは驚いて、思わずそう言った。


「そう思いますよね……最初は私の研究の延長で、身長1.5mほどの人型のロボットからだったんですよ飛んだり、跳ねたり、階段を上らせたりと様々な動きの実験に使いました。そして、その発展系で身長5mほどのロボットを作りました」


「それなら、想像できます」

 ぼくは残ったラーメンのスープを飲み干し、片手鍋を机の上に置きながら言った。


「少しずつ大きくしていきましたが、身長8mのヴァージョンを作り始めて初めて行き詰まりました。駆動用のモーター出力の問題があって。ですが、建設用の重機の油圧システムを導入して切り抜けました」

「なるほど。でも、先は遠い感じがしますね」


「まあ、ですね。ここから先は骨格の重さと強さ、そして動かすパワーとの兼ね合いになるんですよ。できるだけ軽い素材で硬くて粘る素材が必要で。鋼鉄を使うと重すぎて、どんな高出力のモーターやエンジンを使ってもゆっくりとしか動けないんです。かといって弱くて軽い素材だと、倒れたりぶつかったりしたときにすぐに壊れてしまうし……。」


「なるほど……ちょっと、待ってくださいね」

 ぼくは話を遮ると、水を注ぎに台所に行った。喉がカラカラになっていたのだ。男の前に水を入れたコップを置き、ぼくは自分の水を一気に飲んだ。

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