第9話

 カサカサ

「んっ、なんだ?」


 音のした方に目を向けると、黒いなにかがモゾモゾ動いている。湯気でぼやけていたピントを合わせる。


 黒い

 長い

 足がいっぱい


「きゃーーーーーーーーーーっ」


 ムカデじゃないか。ダメ、私、虫関係ダメ。やばいやばいやばい。


「大ーーー、助けてっ」


「大丈夫か、沙耶。今行くから待ってろ」


 ドアの外から強烈な圧を感じた次の瞬間、私の目の前に超絶イケメンな青年が立っていた。その青年はムカデに手を翳すと、スッとムカデの姿が消えた。


「ムカデは外に逃したよ、もう大丈夫だよ、沙耶」


 そう言って私の方を向き、世界中の女性がうっとりするであろう笑顔を見せた超絶イケメン。そう、この超絶イケメンが大の本来の姿。その超絶イケメンが私にすっごい笑顔を向けている。そう全裸の私に向けて…………


「出ていけーーーーー」


 片手で胸を隠して、お湯を掛けまくった。この時ほど、片手で隠せる程度の胸の大きさで良かったと思ったことはない。



 ドライヤーで髪を乾かしながら、ふと不思議に思ったことを大に訊いてみた。


「ねえ、なんでさっき子供の姿じゃなかったの」


 テレビでアニメを見ていた大が、あきれた顔で私の方を向いた。


「この姿だと本来の力は出せないんだよ」


 そういえば、以前、家に悪霊に憑かれた男が侵入してきた時も本来の姿に戻って戦ってくれたっけ。


 ふーんと話を振っておきながら申し訳ないけれど、私の興味は他に移っていた。


「大はさ、この家が出來た時には居たんだよね。一番最初ってどうやってこの家に来たの?」

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