タイム・イズ・ミー

星色輝吏っ💤

第1話 時間が全部自分のためにできているとは限らないしあり得ない①

 夏が好きだった。けれど、夏が好きな自分は嫌いだった。空っぽな自分が大好きな夏を、僕が大好きなのが許せなかった。当然のことでも僕には何も変えられない。

 僕は、時を動かした。未来へ飛んだ。過去へも飛んだ。それが自分にしかできないことだとわかっていたから、僕はそういう運命なんだと受け入れていた――。



 高校の入学式が終わり、僕は急いで学校を出た。

 既に桜は散っている。さらに天候は曇天。こんな日に入学なんてあまり気が乗らない。

 僕の家までは歩いてすぐだ。正門から出て五分くらいで住宅街に入り、そうすればすぐ僕の家はある。

 耳障りで目障りな高校生連中の間を抜け、僕は高校から逃げるように走って校門を抜けた。その時、校門前に先生が立っていた。

「おい走って危ないぞ~」

 と、先生は僕を軽く注意した。ここは大通りではない。結構な田舎だから、車はほとんど通らない。だから先生もあまり強くは言わないのだろう。……と考えたところで、僕は「チッ」と舌打ちを一つ。

「ちゃんと注意してくれなきゃ困る」

 そして僕は道路の真ん中を突っ走った。全力の八十パーセントくらいのスピードだ。――予想通り車は来ない。そして、

「もうすぐかな」

 僕は薄く笑い、次は車が来るのを待った。さすがに道路の真ん中を走っていたら先生も大激怒するだろうが……もう先生には見えない場所だ。しかも他に人はいない。つまり、絶好のチャンスだ。

 僕は待った。そして……すぐに時は来た。僕はいつも準備万端。僕の辞書に『時期尚早』なんて言葉は存在しない。

 キキィィぃィ……。その車は急ブレーキをかけた――が、間に合わない。そして僕は車と接触――する直前、叫んだ。

「タイムリズ!」

 その言葉は魔法の呪文だ。僕の超能力だといえる自分の個性。

 そして僕は車に轢かれてなどいなかった――否、いないということになった。

「ほうら危ない。車に轢かれるところだったろ」


 ――その日、僕は走って家に帰った。時が戻ったのだ。時を戻した理由を問われたならば、実験のためであると答えるほかない。

「タイムリズ!」

 ――とても便利なものだ。何をやらかしても巻き戻せる。

 この能力は、自分がどの時間に戻すか設定できるわけではなく30秒前と決められてしまっているが、30秒戻れば大抵の辱めは回避できる。

「今になって時間を動かすことができるようになったということは、神様から不幸への報いを受けたってことかもな」

 ソファに深く腰掛け、僕は下唇を噛み締めながら貧乏ゆすりをしていた。

「……いらねえ。今更だろ。こんな能力どっかの国で食料や水に苦しんでる人とかにあげりゃいいだろうが。なんで今更僕の所へ来るんだ」

 僕の能力は、『タイムリズ』だけではない。時を動かす能力が、今わかっているのだけで他に三つ。

 一つが『タイムリターンズ』。「自分自身の意識が移動するわけではなく、30秒前の自分に戻る」能力だ。だがそれだけでは同じ結果になるだけだ。実はこの能力には「時が戻る前の自分の半径一メートル以内の状態は変わらない」という能力もあるのだ。

 つまり同じ場所にいたときに間違った行動をしてしまい、時を少し戻したいときに、時を戻した後の自分へメモ書きを残しておく、などということが有効だ。ただこれを発動する際に近くに人がいると何もない所から急にメモが現れた、というのが見えてしまうので注意が必要だ。

 そしてもう一つは……いや。これは使い道がほとんどないな。まあ……未来に行く能力ではあるのだが……。

 ともかく。僕の能力は使い道はいろいろあるだろうが、今の僕にはそれほど必要のない能力だった。

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