第3話 滝蓮司の推測
翌日の放課後、僕は文芸部の部室で滝に昨日の出来事を話した。
こんなことを他のクラスメイトに話すと笑われたりからかわれたりするが、滝は真剣に僕の話を聞いてくれた。
「高橋の話ではその子はM女学院の生徒で間違いないな」
滝は言った。制服の特徴でそう断定できるということだった。それには僕も同意見だ。ちなみにM女学院は県下でもトップクラスのお嬢様学校だ。一応進学校のわが校とは訳がちがう。
しかし、あの綾ちゃんと向かいのホームのあの子が同一人物だとしたら、この十年ちかくで裕福になったのだろうか。それとも何かしらの要因があるのか。
僕はあの幼いときの写真を滝に見せた。
滝はその端正な顔を写真に近づけてまじまじと眺める。
「これが君の幼馴染みなのかい」
真剣な顔で滝は言った。
「ああ、そうだよ」
僕は答える。
「この写真をとったのは誰だか覚えているかい?」
滝はきく。
「そうだな、たしか父さんだったかな」
記憶がたしかならばであるが。
「そうか……」
滝は形のいい顎をなでる。
五分ほど考えて彼は口をひらいた。
「結論から言うと君の幼馴染みの綾ちゃんは虐待を受けていた。まず彼女は一つ下の君の妹よりも痩せている。これは恐らくろくに食事を与えられていないからだ。それに首筋の青痣と手首に火傷のあとが見てとれる。これは日常的に虐待を受けていた証拠だ。そしてこの写真は彼女をその虐待家庭から救出するためにとられたものだと思われる。君がいるから彼女は落ち着いて写真をとることを許したのだろう」
滝は考えながらそう言った。
たしかに昨日は気づかなかったが、滝のいう通りなにか暴行を受けたあとに見える。
「これは完全に推測でしかないが、彼女は虐待を受けていた実の親の家から引き離されたのだろう。それが君と同じ小学校に進学しなかった理由だ。中学の校区よりも外に引っ越したのだ。高校になり、活動範囲が広がり、偶然再会するかたちとなった。まあ、同一人物だとしたらだが」
滝は言い、好物のスポーツドリンクをごくごくと飲んだ。
滝の説明はいちいち納得いくものだった。
「なあにおもしろそうな話してるのよ」
突如そう会話に入ったのは文芸部の部長の林真奈子であった。
茶髪で小柄でなかなかの美人である。わが校は進学校ながら、テストの点数さえよければいいという校風なので多少毛を染めていたり、化粧をしていても黙認された。
「先輩、いつからいたんですか」
あきれながら、滝は言った。
「ふうっ、内緒。よかったら私がその子とセッティングしてあげるわ。M女には知り合いがいるしね。それに滝くんの推理があってるか気になるしね」
興味津々に真奈子先輩は言い、スマートフォンを取り出す。
カチャカチャと何かしている。
「オーケー、アポはとれたわ。明日、駅前のハンバーガーショップで待ち合わせよ」
あははっと真奈子先輩は笑う。
「真奈子先輩、仕事が早すぎますよ」
頭をおさえて、滝は言った。
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