第2話 幼馴染み
そうだ綾ちゃんだ。あの逆のホームに立っていたあの女の子は綾ちゃんにとても似ている。
幼馴染みの綾ちゃん。
僕が小学生に上がる前によく遊んでいた瞳のおおきな綾ちゃん。
彼女はその綾ちゃんの面影がある。彼女が成長したらきっとあんな感じになっていただろうと思われる。もちろん、それは自分の完全な想像でしかないけども。
しかし、幼馴染みの綾ちゃんは同じ小学校にはいなかった。小学校にあがる前にどこか違うところに引っ越したのだろうか。僕には彼女と別れた記憶はない。いつのまにかいなくなっていた。
夕御飯のカレーを食べながら、僕は何気なく妹の
「そういえば昔、綾ちゃんとよくあそんだよな。理緒おぼえてる?」
「うん、おぼえてるよ。あのぼろいアパートにすんでた子だよね。すごくかわいかったな」
そう言い、理緒は嫌いなミニトマトを僕のサラダの皿に置いた。しかたない、食べてあげるか。どうやら妹も綾ちゃんのことを覚えているようだ。
「理緒、またトマトよけてる」
母さんが理緒に注意する。
「母さんもおぼえてる」
僕は母にもきいた。
「なに急に。おぼえてるわよ井上さん家の綾ちゃんでしょう」
と母は言った。
どうやら母も綾ちゃんのことを覚えているようだ。
「綾ちゃんって小学校一緒じゃなかったよね」
僕は言う。
「そうね、小学校にあがる前に引っ越したみたいよ」
母は言った。
「どこにいったか知っている?」
僕はさらにきいた。
「知らないわ。ただ急にどっかに引っ越したみたいね」
母は言い、カレーに温泉たまごをトッピングした。
好物のカレーをたいらげ、風呂につかり、湯気の立ち上る天井を見上げる。
水滴がぽたりぽたりと湯船に落ちる。
綾ちゃんはたしかに過去に存在した。
あの駅のホームのあの子と同一人物とは限らないが。
でも僕の見立てでは限りなく似ている。
それは完全な個人的な感想でしかないが。
風呂をでたあと、アルバムをためしに見てみた。
小さいときの写真がでてきた。
そこには公園の滑り台で遊ぶ僕と理緒、そして綾ちゃんが写っていた。
そこで僕ははじめて気づいた。
綾ちゃんは瞳がくりくりとしたかわいかったが、ひどく痩せているように見えた。それに着ている服もよれよれで粗末なものに見える。
それは幼いときはなにも思わなかったが綾ちゃんは幼稚園児にしては痩せすぎのように見えた。
僕はその写真をアルバムから抜き取り、学校に持っていく鞄に入れた。
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