波打つ町を出たところは再会
白鷺雨月
第1話思い出
小学校と中学校は自宅から歩いて通えるところだった。
高校に進学し、僕は電車で通うようになった。
自宅から自転車で最寄り駅は十分。そこから電車に乗り、四つ目の駅で降りると僕の通う高校がある。
さらにその駅から歩くこと五分。
「やあ、おはよう」
そう声をかけるのは高校に入り友人になった
僕は帰宅部だが暇なときは文芸部の部室で本を読んでいる。もしくはこの滝と無駄話をしてすごしている。
滝は頭のいい男で会話も面白い。
ひそかに女子のファンがいるらしいが、今のところ彼女はいない。
「おはよう」
僕はそうかえした。
「もうすぐ夏休みか」
僕はボソリという。
彼女もいなく、友人といえば滝ぐらいの僕はその長い休みはもてあますばかりだ。
「そうだな、高橋はどうするのさ」
滝は微笑し、そうきく。
爽やかな笑顔だ。
「特になにも」
僕は言う。
「じゃあ、たまにお前の家にいっていいか」
と滝は言った。
「ああ、いいよ」
僕は答える。
滝が家にくるなら、その日だけは暇でなくなるな。特にやることは決めていないが、彼がくるだけでその日は日常に色がつくだろう。
授業を終え、僕はまた文芸部の部室に入り浸る。その部室で適当にえらんだ過去の会報誌をペラペラとめくる。
滝はWeb小説に投稿するための原稿をパソコンのキーボードをリズミカルに叩きながら書いてた。
何もないところに物語をつくりあげるのはものすごい才能だ正直に思う。
彼の小説をいくつか読んだことがあるがどれもかなり面白かった。
そこで時間をつぶしたあと、僕は帰宅することにした。
滝はもう少し原稿をしあげたいということで部室に残った。
一人駅に向かって歩く。
もうすぐ日が沈もうとしている。入学祝いにもらった腕時計を見るとあともうちょっとで六時になろうとしている。
橙色に染まる道を一人歩き、駅に向かう。
改札に定期をいれ、駅にはいる。
僕はホームで電車を待つ。
そこで僕は見つけてしまった。
向かいのホームで電車を待つ美少女の姿を。
背が高く、手足がすらりと長い。ボブカットに大きな瞳が印象的だ。
どうして僕が彼女に視線がいったかというと無論美少女ということもあったが、記憶のどこかで引っ掛かるものがあったからだ。
既視感とかそういうのではない。
彼女には会ったことがある。
脳内の記憶に引っ掛かるが彼女の名前は思いだせない。
あのアーモンド型の瞳はどこかでみたことがあるんだけどな。
やがて電車が来て、紺色のブレザーの制服を着た彼女は去っていった。
僕も電車が着たのでそれに乗り込む。空いている席に座り、スマートフォンにイヤホンをつなげて、音楽を聞く。
黙って電車の窓から見える景色に視線を送る。僕の住む町が近づくにつれ海が見えてくる。空気もどこか潮の香りがする。
外の僕にとってはありふれた夕陽に染まる海の景色を見ながら音楽を聞いていると口が勝手に動いた。
頭の片隅であの逆のホームにいた子のことを思い描いていたことが起因していたのかもしれない。
「あっ、綾ちゃん……」
小さな声で乗る人の少ない車内で僕は一人言った。
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