第22話


「責任があるわ……私を甦らせた」

麻美衣がそう言った。飛凰の貫手はわずかに逸れて地面にめり込んでいる。

「甦らせた責任?」

多少、落ち着きを取り戻したかに見える飛凰、龍一郎の胸ぐらから手を離す。

「そうよ、秘薬を使って生き返らせたのは彼」

「あれはまったくの偶然で……」


龍一郎が言い訳をする。まだ身体は飛凰に組み伏されたままだ。

「でも、私が今ここにいるのはあなたが原因よ。責任が無いとはいえないわ」

「確かにそうかもしれないけど……」


「でしょう? だからお願い、少しでも役に立つから!」

そう言うと突然、麻美衣は龍一郎に駆け寄る。そのはずみで、飛凰の身体がはじき出された。

「ほら、今もお弁当を作って来たのよ?」

倒れたままの龍一郎にすがりつく麻美衣、腹部をヒザで踏みつける。

「ぐぇっ!」

「お腹空いてるでしょう? さぁ食べて」

「ちょっと!」

弁当を開けると懸命に龍一郎にアピール、さらに箸でつまんで食べさせようとする麻美衣。

その手から飛凰が弁当箱をひったくった。

「ヘンなものは食べさせられないわ。こんな怪しいもの……」


「でも、せっかく頑張って作ったんだし……気に入ってもらえるかどうか気になるし……」


麻美衣は照れるようにモジモジと身を揺らす。ヒザがグリグリと龍一郎の腹部を抉る。

「その前に、体の上からどいてくれないかな?」

自身の身体の上でいがみ合う二人を尻目に、半ば諦め顔で龍一郎は呟く。

「一体何よこれ? 真っ赤っ赤……まさか血じゃないわよね?」

弁当箱を覗きこんだ飛凰は、嫁をいびる姑のように言い放った。

「ケチャップよ、もちろん」

「この……白くてぶよぶよしたミミズみたいなのは?」

「それはマカロニ。茹で過ぎちゃったけど」

「もうちょっと食欲をそそる言い方ないかな?」

既に諦念の境地にあるような顔で龍一郎は尋ねる。

「じゃあ……これは骨付きウインナー?」

飛凰は弁当箱の中から奇妙な肉片を取り出した。

「爪も付いてるけど……?!」

「ああ、それは」

麻美衣が掌を広げると、右手の人差し指が欠けていた。

「人指し指。お料理してる時に切っちゃった」

飛凰は悲鳴をあげて弁当箱を放り投げ、ひっくり返ってわめき続ける。

「落ちつけ、大丈夫だって!」

「あぁっ、そんな……せっかく作ったのに!」


起きあがった龍一郎が飛凰をなだめにかかるが、麻美衣はどこ吹く風で弁当を拾い集めたりしている。

「悪いけど、昼飯はこっちでなんとかするよ」

龍一郎は暴れる飛凰をなんとか落ち着かせると、麻美衣に向かって言った。

「麻美衣は部外者だし、騒ぎになるとマズい」

「そう、わかったわ……」


散らばったお弁当の中身を素手で拾いあげ、弁当箱に詰め込んでいた麻美衣が手を止めて俯く。

が、すぐに顔をあげて言った。

「ところで私の指はどこかしら?」

「え? 確かそっちの方に飛んで行って……」


裏庭の隅に鶏小屋があった。中で数話のニワトリが餌をついばんでいる。

「まぁ大変! 指が無くなっちゃう!」

慌てて鶏小屋に駆けていく麻美衣。龍一郎は再びわめき始めた飛凰の両目を手で覆った。

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